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塔と塔の行き来を転移魔法によって行う『転移の塔』。それは異なる世界リージョン間でも移動を実現した、この次元の技術である。

遥か昔、事故で異世界へと渡ってしまった者の一族が、故郷に帰る為に長い長い時を経て、異界への転移技術を完成させたという言い伝えがある。一族の末裔はその技術によって世界を巡り、様々な人々と出会い、祖先の悲願であった魔法の世界へと、たどり着く事が出来たという。

そして現在、その一族を称え、魔法の世界を中心とした転移ルートが確立され、人々の暮らしに役立てている。

ちなみに塔である必要は無いのだが、ランドマークとしての役割と、『なんか高い所からの方が遠くに飛べそうじゃね?』という提案から、今の形状が定着したとかしていないとか。

そして今日も、他のリージョンから転移し、ファナリアへと足を運ぶ者達がいた。


「な…な……ひっ」


その姿を見た塔の兵士の顔は恐怖に引きつり、男に一瞥された途端、腰を抜かしてしまった。

2人の男は気合を入れ、塔の外へと踏み出した。そして……


「きゃあああああ!!」

「うわあああああああああ!!」


平穏だったその街に、尋常ならざる悲鳴が響き渡るのだった。




「そう、ついに来てしまったのね……」


カップを傾けながら、王妃フレアは難しい顔で呟いた。


「ううむ……話には聞いていたが、これ程の問題となるとは……」

「彼らに悪意は無いわ。ただ存在が迷惑なだけ」

「それはそれでどうなんだ……」


執務中のガルディオ王が、兵士から報告を聞き、頭を抱えている。


「実質的な被害は無し。しかし……」

「おそらく以前よりも、より恐ろしい姿となっているのでしょう。子供は泣き叫び、大人は恐怖で逃げ惑う。そして止めようとした兵士達は……」


報告に来た兵士を見ると、軽鎧も含めて服はボロボロになり、その時の事を思い出した顔は青ざめ、涙目になり、時々嗚咽を漏らしている。

フレアは兵士に休むように言い、対策を考える事にした。


「説得に応じるような相手じゃない。普段のあの精神力は尋常じゃないもの。でも力ずくで止めるには、並大抵の腕ではダメね。若い男女も危険だわ。本当ならテリアかピアーニャ先生が実力的に適任でしょうけど……」

「テリアを向かわせるのは流石になぁ…親としてはなぁ……」

「そうなのよね……」

「先生も今はフェリスクベル嬢の所で、全力で可愛がられているだろうし」


本日ピアーニャは、ミューゼの家に強制的に呼び出されていた。当然、アリエッタによって甘やかされている。しかもそれだけでは無い。


「そうね、わたくしも行きたかったわ。なぜかシスに止められてるけど」


現在フレアの訪問は、オスルェンシスによって強く止められていた。その理由は、この数日間宿泊しているサンディである。

娘のパフィ相手に暴走するというのに、本命と出会ってしまったら、ナニをするか分かったものではない。もしパフィの怒りに触れてしまえば、また城を壊されかねない…という懸念の下、報告は一旦見送られていた。しかも残酷な事に、サンディとシャービットが帰ってから報告するつもりなのだ。

そうとは知らないフレアは、能天気にプリプリ怒っているだけ。まさか憧れのストレヴェリー母娘が、アリエッタと一緒になってピアーニャを滅茶苦茶にしているとは、夢にも思っていない。


「まぁいいわ。今は彼らを止める事が先決。流石に城には来ないでしょうけど、国民が恐怖に陥るのは看過出来ないもの」

「とは言うが、並の兵士やシーカーでは歯が立たんのだろう? どうする気だ?」

「大丈夫よ。適任者達を呼んであるわ」

「ほう?」


その時、部屋の扉がノックされた。


「入りなさい」

「シツレイシマス」


完全に棒読みの入室決まり文句が聞こえた後、扉が開き、4人の人物が部屋の中に入ってきた。その内の1人の全身が雲に包まれ、顔だけ出してプカプカと浮かんでいる。


「ディラン、貴方また強引に連れてこられたの?」

「ハイ、モウシワケゴザイマセン、オカアサマ」


棒読みのまま受け答えする王子。その顔は無表情になっている。しかし、その事を気にする者は、ここにはいない。

浮かぶディランの後ろには、ファナリア人のボルクス、ハウドラント人のアデル、ラスィーテ人のツーファンという、側仕え3人が控えている。ディランを捕らえているのはアデルの『雲塊シルキークレイ』である。

ちなみにクリエルテス人のパルミラは、今もミューゼの家に泊まっている。しばらくは心をゆっくり癒すよう、土下座した状態の王から直々に命令されていたのだった。


「貴方達に命じるわ。現在街で大騒ぎを起こしている2人組がいます。どうにかして騒ぎを起こさなくするよう、あらゆる手段をもって説得するように」

「ワカリマシタ」

「説得ですかい? 討伐ではなく?」

「別に罪を犯しているわけではないので……ただ、殺す気でかからないと返り討ちに合いますよ」

「はぁ……」


ディランが機械的に返答するが、側仕え3人は疑問を抱く。そもそも大騒ぎして恐怖を振りまいているのなら、既に人々の脅威なのでは? そう思わざるを得ないのだ。


「それじゃあ行ってきなさいな」

「ワカリマシタ」

「えぇ……」


もっと色々聞きたかった所だが、棒読み二つ返事のせいでそれは叶わない。

3人の側仕えは様子のおかしい王子を引き連れ、王城を発つのだった。




王都エインデルブルグで騒ぎが起こっている頃、ニーニルの町でも騒ぎが起こっていた。


ぼふんっ


町の中心から、淡いピンク色な爆発が発生し、分散したピンクは、勢いよく町全体へと広がり、ふわふわと綿のように降り注ぐ。


「【爆風破エアーボム】!」

「【木の壁ウォールツリー】!」


破裂した風がピンク色の物を吹き飛ばし、地面から生えた巨大な木が、降り注ぐピンク色の物を上空で受け止めた。同じく、町の至る所で魔法が炸裂し、それを吹き飛ばそうとしている。


「だーっ! いきなり何!? どういう事!?」


周囲に降り積もるピンクを睨みながら、ネフテリアは叫んでいた。

のんびりとアリエッタを可愛がるミューゼを眺めていたら、いきなり妙な爆発音が聞こえ、町全体を巻き込んだ大惨事である。一応統治者である者としては、叫びたくなるような出来事なのだ。


「アリエッタ大丈夫? 怖くない?」

「だいじょうぶ! ぴあーにゃ、だいじょうぶ?」

「うむ、だいじょうぶだ。しかし、いったいなにがおこったのだ?」

「さぁ……どこかのラスィーテ人の仕業なのよ?」

「そうなの?」


パフィは近くに落ちているピンク色のふわふわを指で掬い、ペロリとひと舐めした。


(あわわわ……ぱひーの色気が凄い……)


つい先日、自分の口に入れられた指を、目の前でひと舐めされた事を思い出し、顔を赤くするアリエッタ。パフィはその様子を視界の端に捉えてから顔を背け、顔をデレッと蕩けさせていた。

ミューゼはパフィを真似て、同じくピンク色を口にする。


「あ、ホントだ。甘い。これ食べ物ね」

「かなり軽くしてあるメレンゲなのよ」

「また厄介な……」


ネフテリアは町全体を見渡した。そこかしこで魔法が放たれ、ピンクのメレンゲを処理しようとする様子が伺える。

風で思いっきり吹き飛ばせば、運悪く吹き飛んだ場所にいる人に降り注ぐ。水で流せば、甘い匂いと共にその場をベトベトにする。火で燃やせば、香ばしい匂いの後、焦げて部分的に固くなるだけ。

困った事に、2次被害の方が酷く見える。


「さてどうしよう……」


町全体が食べ物で覆われるという、ファナリアでは起こりえない現象に、ネフテリアは頭を抱えるしかないのだった。


「ネフテリア様、ピアーニャ総長からの伝言です」

「あ、そっか」


食べ物の専門家ではないが、リージョン間の専門家がその場にいる事を思い出した。

オスルェンシスから伝えられたのは、リージョンシーカーのラスィーテ人をリーダーにし、救助部隊を複数結成。総指揮はバルドルに任せ、ラスィーテから応援を呼べとのこと。ラスィーテ人によって起こったトラブルならば、ラスィーテ人の力を借りる方が確かに手っ取り早いのだ。

当の総長本人は、心配そうな顔をしたアリエッタに捕まり、身動きが取れないでいる。


「ぷふっ」


この非常事態に全く役に立たないピアーニャを見て噴き出すと、笑われた本人はこめかみをピクピクさせて怒りに震えた。そして、怖いから震えていると思ったアリエッタによって、抱きしめられ、視界を奪われ、完全に身動きが取れなくなってしまう所までがセットである。


「んふふっ……じゃあ行ってくるわ。パフィはとりあえずこの家中心に片づけててちょうだい」

「了解なのよ」


この場をパフィに任せ、上空へと跳んでいった。道はメレンゲで埋まっているので、空を移動する方が早いのだ。

何事も無くリージョンシーカーに到着し、バルドルやシーカー達に指示を出し終え、続いて転移の塔へと移動。入口付近のメレンゲは既に吹き飛ばされてはいるが、道の方はまだまだ埋まっている。兵士達がメレンゲに埋まった人々を救助しつつ、慎重に撤去を進めているのが、上空から伺う事が出来た。

その中の兵士が降りてきたネフテリアに気付き、声をかける。


「ネフテリア様! これは一体なんですか!?」

「原因はまだ分からないけど、メレンゲらしいわ。害は無いけど、溶けるとベトベトするから気を付けて」

「は、はぁ……こんな時になんですが、国王陛下からお手紙を預かっています」

「ん?」


ネフテリアは手紙を受け取ると、急いで目を通した。


「……まさか、王都に来てるの?」


読み進めながら、思わず手紙をクシャリと握りつぶしてしまう。その顔は困惑に満ち溢れていた。




王都エインデルブルグで悠々と歩く2人の人物。

その行く手に、ディラン一行が立ちふさがった。


「マテ、ソコマデダ」


相変わらず無表情で棒読みの王子。

2人の人物が立ち止まると、ディランの横から勢いよくツーファンが飛び出した。


「【チュロス】!」


小麦粉生地を細長く伸ばし、突き出す。しかし、


「【ボムエッグ】」

「!」


男の1人が卵を投げつけた。

ツーファンが反射的に横に逃げると、卵が爆発四散。飛び散った卵からは熱々の湯気があがり、殻の破片が地面に突き刺さっている。

無傷だが服を傷つけられたツーファンが、卵の殻がいくつも刺さったチュロスを降ろし、男を睨みつけた。


「何しに来たの? コーアン。そしてケインさん」


王都エインデルブルグを騒がせている2人の人物。それは、ヨークスフィルンで出会った筋肉隆々の最凶女装警備隊、隊長ケインと副隊長コーアンだった。

からふるシーカーズ

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