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屈強な筋肉を持つケインが着ているのは、赤と白の可愛らしい衣装。明らかに少女用にデザインされているその服は、筋肉によって限界まで伸ばされ、大きなボディラインを余す事無く見せつけている。スカートの意味はほぼ無く、カボチャパンツが激しく主張してしまっている。

ケインよりはややスレンダーな筋肉を誇るコーアンが着ているのは、紫と黒を基調とした大人しめの雰囲気を醸し出す衣装。同じく少女用のデザインだが、少しだけ露出が高い作りのせいで、大人が無理矢理着てしまえば、かなり際どい部分が見え隠れしてしまう恐ろしい状態となってしまう。

そんな2人の恰好を再確認したツーファンの目が、鋭さを増していく。


「帰れ」

「そうはいかん。我々には目的があるのだ」

「知らん、帰れ!」

「ふっ……まぁそう言うな。迷惑をかけるつもりは無い」

「存在自体が大迷惑です!!」


流石に物静かなツーファンでも叫んでしまった。

ここは露出の多い海ではなく、女装筋肉に耐性の無い人々が行き交う街。2人はそんなエインデルブルグを今の衣装で練り歩き続けたのだ。

塔から出た瞬間、人々が恐怖と困惑で逃げ惑い、なんとか意識を保って捕縛しようとする兵士達は、返り討ちに合っていたのだ。家より大きくなったドルナ・スラッタルを拳で吹っ飛ばす筋肉は伊達ではない。


「ふむ……おかしいな? 俺様は普通に歩いているだけなのだが」

「オレもです。人々を怖がらせるような事は何もしていない」

「…………このアホども」


ツーファンは頭を抱えた。

変態2人にとっては、自分のセンスと姿が何よりも正しい。片割れが実の弟なので、説得など通じないという事は誰よりもよく知っているのだ。

様子を見ていたアデルが、卵の殻を防いでいた『雲塊シルキークレイ』を解除し、会話に混ざってきた。


「ツーファン、彼らは?」

「ヨークスフィルンの警備隊へんたい。まったく知らない人よ」

「は?」


ツーファンは他人のふりをした。


「知らない人とは酷いな妹よ。迷わずオレを狙ってきたじゃないか」

「うるさい、死ね、馬鹿兄」

(ツーファンも苦労してるなぁ……)


アデルはなんとなく察した。

様子を見ていたボルクスも人陰から顔を出し、会話から状況を分析していく。


「ふーむ。ってことは、細い方はラスィーテ人か」

「……ちょっといいかボルクス。痛いんだが?」


ボルクスの前に立つ人物が、ちょっと血を流しながら抗議した。


「ん? ああご無事でしたかディラン様」

「全く無事じゃないんだが!? お前が僕を盾にしたんだろうが!」

「いえ、ディラン様が勇敢にも身を挺して守ってくださったお陰で、オレはこうして無事でいられるんですよ」

「……僕の身体を掴んで動けなくしてたろ?」

「さぁ? 知りませんな。そんな事より、正気にもどられましたな」


ボルクスの言う通り、今のディランには表情があり、棒読みでもなくなっている。

ハッとしたディランは自分の顔を触り、手を握り締め、息を吐いた。


「お母様め、いくらなんでもあの仕打ちはないだろう……」

「まぁ正直怖かったですがね」

「抗議は後でするとしよう。今は目の前の事件を解決するぞ」

「へい」(ほぉ? どうやら洗脳は少しだけ良い方向に向かってるな)


ディランは魔法で傷を治しつつ、目の前の変態達の会話に耳を傾ける事にした。


「どうして人々には俺様達のセンスを理解できないのだろうな?」

「ええ、ですが、いずれ理解出来る日も来るでしょう」

「そうだな。コーアンの妹くんよ、新たな現実を受け入れるのもまた強さだ。見よ、このコーアンを。これ程までに服を着こなしているではないか」

「きたないモノ見せないでくれます?」


相変わらず辛辣な言葉を返すツーファンだが、ケインは朗らかに笑い飛ばし、コーアンは慣れているのか軽く反論するだけ。会話が成立する気配は無い。


「ふぅ……これだけ説得しても意味を成さないとは」

(説得要素どこにあった?)


ついにというか、割とあっさりとツーファンが諦め、息を吐く。

一連の流れを見ていたアデルが、呆れてジト目になっている。


「そうか。では引き続き──」

「変態野獣2匹、これより討伐します」

(殺る気満々だああああ!!)


しれっと去ろうとしたケインに向けて、右手に小麦粉の塊を持って、ツーファンが構えた。その目には明らかな殺意が宿っている。

その視線をまともに受けたコーアンは、嬉しそうに笑っていた。


「ははは。変わらないなぁツーファン。ウチを燃やして出て行った時も、そんな目をしていたな」

「何この兄妹、怖いんですけど!?」


思わず叫んだアデルだけでなく、ボルクスも引き気味である。

一応王子であるディランだけは、冷静に判断しようとしていた。


「要望を聞いて、モノによっては上手く隠しながら案内することも……」

「おそらく望みはアリエッタちゃんに関わる可能せ──」

「倒すしかないようだな。教育に悪い」

「アンタがそれ言っちゃう!?」


ツーファンが懸念を口にしている途中で、その意思を固めるに至ったようだ。幼い子はディランにとって、あらゆる意味で保護すべき対象なのである。

ボルクスのツッコミはスルーされ、王子が真面目な顔で料理人の横に立ち、戦闘態勢に入った。その右掌の先には、水の塊が浮かんでいる。


「俺様の行く道を拒むか。ならばこの大胸筋で応えねばならんな」

「以前のオレとは違うぜ、ツーファン。あれから復興で鍛えられたからな」


変態2人はゆらりと動き、一気にポーズを決める。


『ふんっ!!』

バリィッ

『!?』


服の上半身が弾け飛び、ツーファン以外の人が驚愕する。


「うおおお!? 俺様の服がああああ!!」

「なんてこったああああ!! お気に入りの外用なのにいいいい!!」


服を破った本人達が一番驚いていた。むしろ嘆いていた。そしてディラン達をキッと睨む。


「お前らっ! 何て事しやがるんだ!」

『何もやってねぇよ!!』


勝手に自滅し、勝手に自分達のせいにされ、男達が一斉にツッコんだ。

しかしこの流れに動じず、むしろ利用してぶち壊そうと動く者もいる。ツーファンは手に持った小麦粉をディランの水塊にぶつけ、瞬時に練り上げた。そうして出来上がった生地を片手分千切り、突き出す。


「【1ミリロングパスタカッペリーニ】!」


無数の極細パスタが、弾けるようにツーファンの手から伸び広がり、半裸の変態2人に襲い掛かる!


「っ!」

パキキッ


カッペリーニは筋肉の身体に当たると弾けていく。ツーファンの動きに気付いたケインが、自分とコーアンの顔をガードしていた。


「ほう……」(全身と見せかけて目を狙ってくるとは、本気マジだな)

「おっ」


感嘆の声を漏らすケイン。同時にコーアンが何かに気付き、視線を上に向けた。

その先には、空中で雲に乗り、小麦粉生地を振りかぶるツーファンの姿があった。


「【2ミリロングパスタスパゲッティ】!」


先程より太いパスタが上空から降り注ぐ。太さの分だけ速攻性が無くなるが、頑丈で壊れにくいのだ。熟練したラスィーテ人のスパゲッティは、石をも貫く針となる。

そしてそれをまともに受ける気は、コーアンには無い。


「食らうかっ! 【煎餅・固焼きハード】!」


どこに隠し持っていたのか、餅を取り出し、硬化させて傘にした。石より遥かに硬くなった煎餅は、降り注ぐスパゲッティを衝撃の轟音と共に防ぎ切った。


「助かったぜコーアン」

「まだです」


コーアンの言葉を聞き、腕を降ろしたケインが見たのは、正面に立つアデル1人。

この時既に、ディランとボルクスはケイン達の両側へと走っていた。


「やるな、挟み撃ちか」

『【魔渦風マギツイスター】!』


両側から魔力の竜巻で挟み込んだ。普通の人には絶対にやらない強力な魔法である。

ここまでのツーファンとのやり取りと、フレアの『殺す気でかからないと返り討ちに合う』という助言に従い、斬撃が発生しない魔法の中で強めのものを選んだのだ。それでも普通であれば全身千切れるような乱れきった渦の攻撃だが。

しかし──


「ぬぅん!!」

バウッ


2人を包み込んでいた乱れ竜巻は、ケインの気合と共に弾け散る。今まで見た事も無いあり得ない防がれ方に、ディラン達4人は驚愕した。

そしてディランはある事に気が付いた。


「その光……」


ケインの身体を覆う淡い水色の光。それはコーアンも一緒に包み込み、魔法を防いでいたのだ。

ディランもボルクスも、その光自体に『魔力』を感じていない。しかしディランはその光に心当たりがあった。


「エテナ=ネプト人か」

「ご名答だ。まぁこの力は滅多に使わんがな」


そう言って、ケインは光を消した。その直後、


「むんっ! はぁ~…ほっ! ふんっ!」


いきなり全力でポーズを取り始める。掛け声も大きい。横でコーアンも一緒になってポーズを取り始めた。

最後にビシッと決めると、息を整え腕を降ろした。今度は光ではなく湯気が立ち昇っている。


「良い感じに温まったぜ。おい兄ちゃん達、これ以上邪魔しない事をオススメするぜ」

「オレ達も警備隊だ。無駄に争う事は望んではいないからな」

『だったら最初から普通の服着てこい!』


奇行を繰り返す変態2人に対し、ディラン達からは…いや、ディランですらも正論しか言えなかった。




ばふっ

『うわあっ!』


ミューゼの家の裏の建設予定地で、再び起こるメレンゲの大爆発。メレンゲは上に打ちあがっただけで、近くにいたアリエッタ達には直接的な被害は無い。

しかし、上に打ちあがったという事は、再び大量のメレンゲがニーニルの町に降り注ぐという事でもある。


「ああああもうビックリしたのよ。なんでこんな所で爆発……のよ?」

「ちょっとパフィ? 降ってくるメレンゲってどうにかなりません?」

「焼いたり飾りつけたりするくらいなら出来るのよ」

「いやそうじゃなくて。どうしようもないって事ですか……」

「それよりも気になるのよ」

「何が?」


パフィは先程爆発が起こった場所を見た。パルミラとオスルェンシスも、釣られてそちらを見る。


「メレンゲが出てきたのはそこなのよ」

「えっ…あ、そういえば」

「それに……」


どうしても気になる事があり、パフィは周囲を見る。アリエッタがピアーニャを抱きしめ、ミューゼが植物を伸ばしてメレンゲを空中で食い止め、ラッチが嬉しそうにその手伝いをし、サンディが汚れていないメレンゲを拾ってクッキーにしている。ネフテリアはリージョンシーカーに行った為、ここにはいない。

一緒に周囲に視線を巡らせたオスルェンシスが、ある事に気付いた。


「あっ……」

「うん、さっきからシャービットがいないのよ」

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