テラーノベル
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スペクターの執務室は、静かだった。
重厚な本棚。
赤い絨毯。
薄暗いランプの灯り。
そして中央。
巨大なデスク。
スペクターはその椅子へ優雅に腰掛け、
脚を組みながら書類へ目を通していた。
一見、
いつも通りの光景。
ただひとつ違うのは。
デスクの下。
そこへ、
ノスフェラトゥが息を潜めていることだった。
首輪と鎖で繋がれて。
主の足元にうずくまっている。
「……」
喉が熱い。
細い鎖はデスクの脚へ固定され、
逃げ場はない。
しかも。
今日は最悪なことに、
来客がいる。
コツ、コツ。
革靴の音。
「スペクター様、東区画の参加者管理ですが」
アズール。
大きなウィッチハットを揺らしながら、
真面目な顔で報告書を抱えている。
ノスフェラトゥは息を止めた。
近い。
声が、
すぐ頭上から聞こえる。
少しでも動けば。
少しでも音を立てれば。
全部、
終わる。
スペクターは平然としていた。
「ああ、続けて」
穏やかな声。
まるで何も隠していないみたいに。
だが。
その足先が、
ゆっくり動く。
「……ッ」
ノスフェラトゥの肩が震える。
革靴の爪先が、
顎を軽く持ち上げた。
ぐい。
無理やり視線を上げさせられる。
デスクの裏。
暗い空間。
そこから見えるのは、
脚を組んだスペクターの姿だけ。
スペクターは報告を聞きながら、
足先でノスフェラトゥの顎を撫でていた。
完全に遊ばれている。
「現在、スラッシャー周辺の監視ですが――」
アズールは気づかない。
いや。
本当に気づいていないのか、
わざと知らないふりをしているのか。
その声を聞きながら、
ノスフェラトゥは必死に呼吸を殺す。
次の瞬間。
靴先が、
ノスフェラトゥの耳の付け根をぐり、と撫でた。
「……ッ」
危うく息が漏れそうになる。
ノスフェラトゥは慌てて自分の口を押さえた。
すると。
机の上から、
くすり、と小さな笑い声。
見えている。
スペクターには全部。
必死で耐えている顔も。
震えている肩も。
「スペクター様?」
アズールが不思議そうに顔を上げる。
「何か?」
「いや」
スペクターは笑う。
「かわいいものを見つけただけ」
ノスフェラトゥの背筋がぞくりと震えた。
絶対に、
自分へ向けられた言葉だ。
アズールは少し首を傾げるが、
深くは追及しない。
「……続けますね」
「うん」
机の下では、
スペクターの靴先がさらにゆっくり滑る。
喉。
鎖。
胸元。
じわじわと弄ぶみたいに。
ノスフェラトゥは唇を強く噛む。
声を出すな。
少しでも息を漏らせば終わりだ。
アズールは真面目に報告を続けている。
そのすぐ下で、
自分は主の足に翻弄されている。
羞恥と緊張で、
頭が熱い。
すると。
机の上で、
アズールがふと笑った。
「最近ノスフェラトゥ見ませんね」
「寂しい?」
スペクターの声。
「少し面白かったので」
「へぇ」
その瞬間。
靴先が鎖を軽く引いた。
しゃら。
「……!」
ノスフェラトゥの身体がびくりと跳ねる。
危ない。
今、
本当に声が出かけた。
スペクターは平然とグラスへ口をつける。
完全に遊んでいる。
ノスフェラトゥは悔しそうに睨み上げる。
だが。
暗闇の中、
見えるのはスペクターの脚だけ。
その余裕が腹立たしい。
不意に。
スペクターが片手を持ち上げた。
小さなナイフ。
その刃先で、
自分の指先を軽く切る。
赤い血が滲む。
「……!」
ノスフェラトゥの瞳が揺れた。
甘い香り。
吸血鬼の本能を直接刺激する、
主の血。
スペクターはアズールと会話を続けたまま、
その指をゆっくりデスクの下へ差し入れる。
「――それで、参加者名簿は」
平然とした声。
なのに。
指先から零れた血が、
ノスフェラトゥの唇へ触れた。
「っ……」
命令はない。
だが。
“舐めろ”とわかる。
ノスフェラトゥの喉が熱くなる。
今ここで。
アズールがいる真下で。
そんなことを。
羞恥で頭がくらくらする。
だが。
スペクターの血の香りは、
理性を削るには十分すぎた。
ノスフェラトゥはゆっくり唇を開く。
そして。
恐る恐る、
指先へ舌を這わせた。
「……ぁ」
微かな鉄の味。
熱い。
甘い。
スペクターの指が、
唇をゆっくり撫でる。
「……いい子」
囁きは、
デスクの下にしか届かない。
ノスフェラトゥは必死に息を殺しながら、
主の指へ縋るように舌を絡めた。
そのすぐ上では。
アズールが何も知らない顔で、
真面目に報告を続けていた。
コメント
1件
もうこれ…読み終わった瞬間息止めてた🥀 アズールが真面目に報告してる真下で、鎖に繋がれて足先で弄ばれてるノス♡♡♡トゥの立場が辛すぎてしんどい… 血を舐めさせられるところとか、羞恥と本能の狭間で震えてるのが手に取るように伝わってきた。 スペクターの「かわいいものを見つけただけ」って台詞も含めて、この支配関係の描き方が本当に上手い…沁みた🖤
ゆゆゆゆ