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「狭山社長、これでハッキリしただろう? これ以上彼らにSAYAMAカンパニーを任せることは不可能なんだと」
これもきっと聖壱さんと柚瑠木さんの中では決まっていた計画だったのでしょうね。だけど私は聞いてなかったから、後でもしっかり文句を言わせてもらうわよ?
さすがに今度こそ常務も諦めたでしょう、そう思って狭山常務を見ると彼はブルブルと身体を震わせていて……
「違うんです社長、私達はみんな聖壱達に騙されたんです! この女たちもグルになって私達を……!」
まさか今度は聖壱さんを悪者にして誤魔化そうというの? そんな言い訳が今更狭山社長に通じる訳がないでしょう⁉
思わず狭山社長を見ると、彼は何かを考えるように顎に手を当てていて……
「確かに僕は聖壱と二階堂君に、こんな方法をとるようにと言った覚えはないけれど。全く、自分たちの大切な人を危険にさらすなんて……」
そんな、これは聖壱さんと柚瑠木さんが狭山社長とSAYAMAカンパニーのためを思ってしたことで……
けれど私達を囮に使ったことは決して褒められることではない、狭山社長の言う通りなんだわ。
「そうなんです、聖壱達は目的のためなら、自分たちの妻ですらこんな事に利用する奴なんです!」
……なんですって⁉ いくら何でも言っていい事と悪いことがあるわよ? 私と月菜さんを自分たちの都合よく利用しようとしたのは狭山常務たちの方じゃないの。
私の夫とその親友を陥れようとする、この男だけは絶対に許さない!
そっちがそういう手を使うのならばこっちだって……!
「確かに私達は、聖壱さんと柚瑠木さんに今日の囮として選ばれただけの妻よ。彼らがそのために私と月菜さんに契約結婚を求めてきたのもまぎれもない事実だわ」
「香津美……? お前何を……っ!」
ごめんなさい、聖壱さん少しだけ私のやりたいようにやらせて頂戴ね。私はこのまま引き下がれるような可愛い性格はしていないのよ。
「ほら、社長。この娘たちも聖壱たちの事をこう言って……」
自分にとって都合のいい会話にはすぐに乗って来るのね、けれどそれも全てこちらの思い通りになっているとも知らないで。
「確かにそうなのだけれど……狭山常務達の人質になることは私の方から進んでやったことなのよ。それに聖壱さんや柚瑠木さんは、私達のことを契約妻だからと言ってないがしろにしたことなど一度だってないの。私達を道具の様に扱おうとする狭山常務たちと違ってね!」
「……くっ、この生意気な小娘が!」
怒りのあまり私に拳を振り上げる常務の拳を、聖壱さんが右手で受け止める。その姿がちょっとだけカッコイイと思ったのは内緒にしときましょう。
「覚えておけよ、お前達。私をこんな目にあわせて……いつか後悔する事とになるからな!」
唸るように絞り出す低い声、この状況でもまだ負け惜しみを言う事が出来るのね。けれどこれ以上は、聖壱さんや月菜さんに手は出させないわ。
「聖壱さん達の罠にまんまとかかっておいて、偉そうにしないで欲しいわね? 狭山常務の方こそ、私の大切な夫を陥れようとしたことをこれからたっぷりと後悔するといいんだわ」
悔しさで思い切り顔を歪める狭山常務に、私はこれ以上ないほど嫌味な笑顔を見せてやったの。私みたいな生意気な女に馬鹿にされることがきっと彼には一番辛いはずだから。
「この性悪女がっ……聖壱、お前はこんな女が妻で本当にいいのか? この娘はいつかお前を裏切るに決まって……!」
「いい加減にしてくれ、眞二叔父さん! それ以上香津美を侮辱することは許さない。もう……諦めるんだ」
私が誰かに聖壱さんを悪く言われるのが許せないように、彼も同じように思ってくれている。少しずつ協力し合う時間があったからこそ、お互いが相手の事を大切に思えるようになっていったんだと思うの。
それに聖壱さんはこんな私の事をずっと大事だと……好きだと言ってくれるとても暖かい人。そんな聖壱さんだから、私は……
「そうだよ、眞二。不正取引に誘拐……証拠もそろっているし、警察もすぐに来る。もう諦めるしかないと思うよ」
狭山社長は静かに聖壱さんの隣に立つと、そこから動けないままでいる狭山常務に声をかけた。
狭山社長の言い方は優しかったけれど、狭山常務が反抗出来なくなるような強い言葉だった。さっきまであんなに言い訳していた常務は俯いてその場にへたり込んでしまった。
するとすぐに部屋に数名の警官が入って来て、狭山常務や周りにいた数名の男女を連れていく。その様子を見て私も安心してしまい気が抜けたのか、フッと目の前の景色が揺らいだと思ったらそのまま意識が遠くなっていった……