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幻滅

彼は今日も夢から切り捨てられた。毎日のように見ている夢は幸せな物語に過ぎず、現実は絶望的なものである。今でも思い出す、自分が死体処理をしている姿。そして、それを偶然に見かけて、震えながら泣き叫んでいた親友。そして、自分を見放した先生。今でも思い出せば自然と牙が出た。

オーランは涙をポロリと目尻から落として、起き上がる。たった数日前の記憶が頭の隅で蘇っていた。

鼻を突くような消毒液の香りは、相変わらず院内に広がっている。深夜の病院は照明も薄暗く、人影一つ無かった。そんな中、手術室を通りかかったオーランはそこで立ち止まる。

ヒラリと白衣が見えたのだ。赤紫の鱗らがサアと美しく覗いて正面を通り抜けた。恐らく、エバンが仮眠室へ向かっているのだろう。オーランはそれを睨んで、足音を立てないように後を追った。

「何故、夜な夜な私を追いかけている。お前はここを出たんじゃなかったのか」

ふと足を止めて、振り返った。淡い色をした眼が暗闇の中で煌々と光っている。オーランはポケットに隠していた仕込みナイフを取り出して、答えもせずにそれを振り上げて襲いかかった。エバンは咄嗟に避けて、警棒を出すと彼の手元を二発ほど叩いて、腕を掴む。

「そんなに私が憎たらしいか。お前が医学部を辞めることになったのは人を殺めたからだろう?」

オーランは酷く絶望した。そして心の中で何度も何度も繰り返す。

──……黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。

と。まるで経でも唱えるかのように何度も何度も何度も。そして、ジッと眼を大きく開いて口を開けたまま、舐めるようにエバンの顔を眺めた後に手を振りほどいて外へ無我夢中に走った。拳を握り締めたまま、ただ、雨に濡れた地面を踏みつけて家まで帰ったのだ。

もう、失うものが何一つ無い。朝、凍えそうになりながら紅茶を淹れつつ、ふと考える。頭に浮かんだ人物はサーフィーだった。海軍の上層部でありながらも裏の業界に手を染めている有名な竜だ。それも、浅葱の毛に薄浅葱の長髪……そして一目でわかる美貌が特徴であった。そんな彼のことをふと思い出したオーランは、すぐに連絡帳を漁る。小声でブツブツと言いながらページを捲り、その名を見つけた。

……プルルルルル……

電話をかけてみると、すぐにガチャリと出た。柔らかい声が耳に入る。

「はい、要件は?」

「オーランです。覚えていますか……?」

「ああ、あの医学部にいた子ね。どうにかしたの?」

軽く笑いながら、適当に聞いているようだった。

「……あの、今から会いたいんですけど」

「俺に? どこで会おうか」

「俺の家じゃ駄目ですか」

「何、誘い文句のつもり? 別にいいよ」

「電話は繋げたままでお願いします」

「……うん」

電話の外から、何やら準備をする音が聞こえた。暫くの間はその音だけが聞こえて、すぐ車に乗ったかと思うとオーランが話し出す。

「俺、人を殺したんです」

「……物騒な話だな」

「親友を虐めてた奴が許せなくて、つい殺してしまいました。何人も、です」

「後悔してる?」

「……いいや」

「ふぅん」

「そこから癖になって何人も殺めました。親友に関わる人間、全員殺してしまおうと思った。だからでしょうね、貴方のお兄さんには失望されましたよ。俺もこの通り、犯罪者になってしまった」

「あー、えー。それで? 俺に何を求めてる?」

「ヒラール・ポッセナに入ってますよね」

「……なあにそれ。海軍だよ、俺は」

声のトーンは今までと変わらず明るい。だが、その奥にあるドス黒い闇が薄ら見えていた。

「嘘だ」否定し、激しく言った。

「貴方は暗殺者でしょう?!」

「あは、違うってば。勘違いだよ。ところで何? 俺を家につれてきて何するわけ?」

「…………あと何分くらいかかりますか」

話を逸らして、焦らされたように舌打ちする。その反面、サーフィーの声は落ち着いている。

「あと少しだ。シベリアみたいな街中が見える。左手に石で出来た馬鹿みたいにでかい豪邸が建っていて、その先はずぅーっと商店街」

「なら、すぐそこですね。言うまでもないでしょうが、爆発物や武器、暗器は持ち込まないでくださいよ」

「拳銃も駄目だと? ケチなクソガキだね。一人で野垂れ死ねばいいのに」

「はぁ、車見えましたよ。さっさと」

「ちぇ、分かった」

吹雪の中から車が見えたと思えば、外に出ていたオーランに突撃するような勢いで家へと向かってくる。そして急ブレーキでピタリと止まった。そこから迷彩服を着たサーフィーが出てきた。髪を一つに結び、ゴム手袋をしている。オーランはそれを見るなり、何かを隠し持っていないかと体を探り始めた。頭、胸ポケット、服の中、ズボン……と。そして家に入れると鍵を閉めて手首をシッカリ掴んだ。

「行く先は? やはりベッド? それとも体を洗おうか。ならシャワー室?」

冗談半分に言う。オーランは睨みつつふぅと溜息をついた。

「ベッドですよ。サーフィーさんを縛って、置いておくんです」

「抱いてくれないの? 寂しいなあ。気持ちよくしてやろうと思って気合入れてたのに」

落胆したように肩を落とした。そして、ポケットから煙草を出して火を点ける。オーランの顔に煙がかからないように、後ろを向いて吐き出した。

「……俺は貴方を人質にして、リスティヒを脅そうと思った。無論、抱きたいですよ。でも抱いたらバレますし」

グッと握り拳に力を入れる。甘ったるい煙がそこらに充満した。

「我慢したら体に悪いよ? ところで、リスティヒと知り合いなんだね。そんなことして何がしたいの」

ぐっと顔を近づける。ギラギラと、翡翠のような眼に焔を宿している。静かに、そして激しく燃えていた。

「組織に入らなきゃいけないんです」オーランも引かずに、じっと睨む。

「何を焦っている?」

「俺はアイツが幸せになるのが許せない。家庭を持ってほしくもないし、他に友達を作ってほしくもないんだ。駄目だってわかってるんですけど」

「自分勝手だろ。そんなことでロースの人生壊して、何にもならないよ。うちの組織はね、国のために体を張る神聖なところなんだ。お前の野望が通じると思うなってこと」

自分の吸っていた煙草をオーランの口に激しく突っ込んで不機嫌そうに髪をいじった。

「行くなら処理水垂れ流しのサン・モーレにどうぞ」

「そこらは全員断ってきましたね。『エバンの生徒ぉ? リスティヒやツァーリ・ボンバに殺される。たまったもんじゃねぇや』って」

「はぁーん、そういうことね」納得し、うんと頷く。

「一緒に寝てから一旦話そうや。気持ちよくしてやる」

「そんなに飢えてるんですか? リスティヒとすればいいのに」

浴室までの道を歩きながら尋ねた。サーフィーは苦笑して、髪を掻き上げる。

「全然、気持ちよくないんだ。けど、そうだな……パローマは凄かったな。やっぱり職業病だろうが、言葉責めしてくるしテクが凄いしで意識が飛ぶね」

「子供、できないんですか?」

「……作る気もないし、対策してる。それに、パローマは兄ちゃんやエキドナのことが好きだろうし、俺は何でもないよ」

「お互い孤独ですね」寂しそうに俯いて、また表情を緩める。

「俺、警察に逮捕されないんです。先生が隠蔽したから……」

「あはは、得意分野だからそりゃあやるでしょ。それで? 全部隠して幸せに生きようとは思えなかったの?」

脱衣場に辿り着いて、服を脱ぐ。スラリとした体と、全身に入れられたタトゥー、膨らんだ胸に鍛え上げられた筋肉……服を脱ぐだけで印象がガラリと変わった。オーランは変わらず、筋肉はあるものの痩せた体をしている。お互い予想外で驚嘆しつつも、そのままシャワーを浴びるために浴室へ入った。

「親友だけじゃなくて、親友が嫌いそうな人も殺したくなるんですよ。それで思ったんです。あ、生活できないなこれ……って」

「俺に頼むべきだよ。俺とロースを殺してください。あ、ロースにしてくださいって頼んでくれても良い」

上手いジョークだとサーフィーはにたりと笑ったが、オーランは不快そうにした。

「……俺はサーフィーさんのこと抱けません。勇気もないんで」

「へぇ。なら、俺が上に乗って動くっていうのはどう?」

すぐに身構え、後ろから激しく裸絞をキメた。オーランは間もなく意識を失い、そのまま倒れこむ。サーフィーは呼吸を確認し、浴室から出ると全身をタオルで拭いた。迷彩服をまた着て、オーランを抱いたままその場から去る。その後、隼のような速さで車の座席の下側に詰めた。そのまま行こうと街を走れば、証拠隠滅のために来た黒い車が何十台も列を作っている光景が映った。それを見て、俺は矢張り、監視されているのかと思いつつ、黙って隣国まで車を飛ばした。

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