青赤
桃赤
「おーー!すごい!!めっちゃ積もってんね」
珍しくボキャブラリーのない声で紫ーくんが白い息を吐きながら言う。
何時間も飛行機を乗り継いでやっと到着した北海道。目の前にはチカチカと目がおかしくなりそうな真っ白な雪景色。吹雪で迷子になったら方向なんて分からなくなりそうだ。
「え、俺ちょっとあの雪山ダイブしてきていい?」
「おお!僕もやりたいー!!」
「….雪まみれになって風邪ひいても知りませんからね」
ため息をつく黄くんに小学生みたいにはしゃいでいる橙くんと青ちゃん。
寒がりな俺は、この冷たい気温に上手く動けなくて、やっぱりもう1枚ヒートテックを来てくるべきだった、とはしゃいでる4人の後ろで思わずぶるぶるっと身震いをする。
「ぴゃ、」
すると首元に暖かい缶のココアが当てられた。
「も、桃くん」
「….ん」
そこにはすました顔の桃くんが立っていた。
びっくりして目をぱちぱちしている俺の手に彼はココアを握らせると冷めないうちに飲めよ、と言い捨て去っていった。
俺が昔から寒がりなの知っていて気にかけてくれたんだろう。小学生の頃、登校時よくマフラーをつけ忘れたり、うまく巻けなかった俺の首に桃くんがよく巻いてくれた。
そーゆー思わせぶりなことするから俺みたいな馬鹿が勘違いしちゃったんだぞ、と不貞腐れながらココアで温まっていると青ちゃんがぎゅっと抱きついてきた。
「寒いね赤くん」
「あ、青ちゃん//皆いるからっ!」
「いーじゃん、皆雪に夢中だよ?」
更にぎゅーっと抱きしめてくる青ちゃんに恥ずかしくて固まっていると少し不機嫌そうな顔で俺の手元に視線を落とした。
「そのココア、買ったの?」
「え、あ….うん」
桃くんに貰ったなんて言えるはずもなく慌てて頷く俺。また彼の顔が更に曇る。
「ふぅん….」
「….その、えっと、….実はね」
「赤ーー!青ちゃんーー!早く!!置いてくよー!?」
やっぱり彼氏には嘘をつきたくなくて、口を開きかけると黄くん達が呆れたようにこちらに手招きをしていたので慌てて3人の後を追いかけた。
───
どうせなら景色のいい山の上から降りようと俺たち5人は3人乗りのリフトに乗った。
てっきり青ちゃんと2人で乗るものだと思っていたのだけれど、黄ちゃんと紫ーくんにイタズラ顔で両腕を捕まれ3人で乗ることになった。
青ちゃんはぶうぶう文句を言っていたが橙くんと楽しそうに喋りながら後ろから着いてきている。
「で、最近どーなの赤くん」
「….どーって何が….???」
キョトンとする俺に紫ーくんははぁ〜っとため息をついて俺の方に身を乗り出してきた。そしてバーにいるお姉さんのような伏し目で俺を見てくる。
「青ちゃんとどこまで進んだの?」
「へっ!?!?//」
「あっ、それ僕も聞きたいなぁ〜」
黄くんも面白そうにニヤニヤして俺の肩に腕を組んでくる。
「….えっと、その….//今この話しなくて良くない!?景色見よーよ!!//せっかくだし!ね??」
「ダメです。逃げられませんよ赤。」
頑張って話題を逸らそうとするも時すでに遅し。
「で、どーなの?もうヤッちゃった感じ?」
「やっ//!?!?!?//」
「純粋無垢な赤がっ….もうあの猿に汚されているなんてっ….」
オイオイと泣き出す黄くんと生々しいことしか聞いてこない紫ーくん。
じっーっと俺を見つめてくる視線に耐えられず、マフラーに顔を埋めながら小さな声で言う。
「…….ちゅーは、した…….//ふ、ふかいほーの….その…….よ、よるのほーは//….まだ….」
「くはっ、!」
「うぐっ!!」
何故か2人が胸や頭を抑えて悶えている??
「こりゃ、耐えてる青ちゃんも凄いわ….//」
「なんか意外です….//」
「な、なんで2人が恥ずかしがってんの!?/」
「いやぁ、今の顔青ちゃんに見せてあげたかったなぁ」
「なんで!?!?//」
言わなきゃ良かったと真っ赤な顔で不貞腐れる俺に紫ーくんは俺の頭をポンポンとお母さんみたいに撫でた。
「でも安心したよ。青ちゃん、相当赤くんのこと大事にしてるんだね」
「紫ーくん….」
「2人が幸せそうで何よりです。」
「黄くん….」
優しく笑う2人に俺は嬉しくて笑った。
「ありがとう….!!」
お礼を言うと2人はまたはぁーっとため息をついた。
「赤はほんと可愛いね。やっぱり青ちゃんじゃなくて僕の嫁に来る?」
「え、」
「えーー?黄くんばっかずるいよー?赤くん、俺と付き合お?」
「え、え、」
「ふふ、ジョーダンだよw」
「真に受けちゃってwほんといじりがいがありますねw」
「も、もーーー!!!//」
―――
リフトから降りた後、ガイドさんに器具の付け方や滑り方を教えてもらった。流石というか、青ちゃん達は既にコツを掴んで上手に滑っている。
俺も頑張って何とかゆっくりだが滑れるようになってきた。
「赤くん大丈夫?ゆっくりでいいんだからね」
「ふはは、w赤なんか産まれたての小鹿みたいになってるなw」
「うぅ….」
「ぎゃーーー!!」
橙くんが笑うと少し先で紫ーくんが悲鳴を上げていた。見るとどうやら派手に転倒したらしい。
「あ〜、あれは起き上がるの大変そうやな」
「僕達ちょっと先いって助けてくるから赤くんは先に滑ってて」
「はぁい」
颯爽と滑り去って行く2人に俺に合わせてくれてたんだな申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
一生懸命滑っていると、視界の端にまだ誰も滑っていないような綺麗な雪山があり、1匹の白いキツネがちょこんと座ってこちらを見ていた。
「….可愛い!!….あっ、」
思わず呟くとキツネは小さな森に向かってはしっていく。と思ったらまた足を止めてこちらを見た。綺麗な毛並みに澄んだ琥珀色の瞳。
「着いて来いって事かな….?」
何故かそう言われてる気がして、何とか体の向きを変えてキツネについて行く。
しばらくキツネの姿を探していると、元いた場所から少し離れてしまったようで切り離されている崖があった。慌てて戻ろうとしたところ、木の枝に氷柱が連なっているところが見えた。
「綺麗….」
何故かそこにはさっきのキツネとその仲間たちがちょこんと小さな石の上に座っていてこちらを見ている。
「もー、君たちここにいたの?」
近づくとキツネ達はさぁーっと逃げていった。
少し不貞腐れながらまた氷柱に視線を戻す。
「ほんとに綺麗….」
足を踏み込んで氷柱に手を伸ばそうとした瞬間、
「え」
ぐるりと視界が反転した。
―――
紫ーくんを無事救出し、滑っていくのを見守ったあと辺りに赤くんが居ないのに気づいた。
「橙くん、赤くん知らない?」
「….赤?そーいえばおらんなぁ」
僕達は赤くんからそこまで離れたつもりはないからすぐ近くにいるはず。少し戻って辺りを見回してもいない。
「….黄と一緒に先降りたんやない?ほら、俺達と紫ーくんの間に黄いたし」
「そうかな….?」
不安になって辺りをまた見回していると、リフトの方からアナウンスが聞こえてきた。
“少し吹雪いて来たのでリフトは一時停止します。今滑っているお客さん様は危険ですので直ちに降りてくださいーー”
「青、赤もきっともう下についてお前のこと待ってるんやと思う。危ないから降りるで?」
「うん….」
嫌な予感を無理やり拭いつつ、僕は赤くんに会いたい一心で橙くんと山を降りていった。
―――
「赤ですか?」
下まで着いて暖かく大きなログハウスに入ると、黄くんと紫ーくんがココアを何食わぬ顔で飲んでいた。沢山の生徒の中に赤くんの姿は見当たらない。
「….てっきり青ちゃん達と降りてくるものだと….」
黄くんの言葉に血の気が引いてくる。
紫ーくん達も顔を真っ青にしている。
きっとみんな、考えてる事は同じだろう。
….彼の身に、危険が及んでいるかもしれない。
「っ!!」
トイレや、更衣室などログハウスの中を彼の名前を呼びながら全部探すがいない。生徒や先生に片っ端から聞いても知らないという。
どうしようどうしようどうしよう
守るって決めてたのに。
僕の。僕の赤くん。僕の、僕だけの。
唯一無二の君。
やっと僕の腕の中で笑ってくれるようになった
『青ちゃん!!』
笑った顔が1番似合う君。
赤くんに何かあったら僕は。
また外に飛び出そうとする僕の腕を橙くんが慌てて掴んだ。
「青ちゃん駄目や!すごい吹雪やぞ!?危ないやろ!?」
「でもっ、でもっ….赤くんがっ….」
僕達の様子におかしいと思ったのか先生達が割り込んできた。生徒たちもザワザワし始める。
「どうしたの….?」
「赤がっ、….帰ってきてなくて」
黄くんが涙目で言うと、先生達は顔を強ばらせる。
「….分かったからあなた達落ち着いて」
「でもっ….」
「先生達、おうえん頼んで探しに行ってくるからあなた達はここで、」
その瞬間、扉が開いて吹雪がハウスに入ってきた。
….誰かが外に飛び出したのだ。
「…….桃さん!!」
先生が呼び止める間もなく、彼は真っ白な吹雪の中に消えていった。
―――
「ん….」
寒い。
ゆっくりと目を開けるとそこには真っ白な視界が広がっていて凍てつくような吹雪のせいで目が開かない。
何とか頭をあげると、数十メートル上に崖があった。そうだ、あのとき崖から落ちたんだ。
でも雪が多く積もっていたお陰で地面がクッションになって大きなけがはなさそうだ。
上を見るとそこまで崖は高くなくて、頑張れば登れそう。
青ちゃん達のところに戻らなきゃ。きっと心配している。雪に埋まった身体を一生懸命動かす、が何とか踏ん張って膝下まで来たのに左足が抜けない。どうやら落ちた衝撃でスッポリハマってしまったらしい。
「んーー!んっ!」
段々手足の感覚が無くなってきて、力が抜けてくる。頭がぼーっとしてきた。思わず雪の上に倒れ込む。自分の身体が確実に冷たくなっていくのが分かった。眠くなってきて勝手に瞼が落ちてくる。
….さむい。さむいよ、こわいよあおちゃん。
からだ、うごかないよ。
やだな、このまま死ぬのかな。
あぁ、でも。
俺にはこれくらいが丁度良いのかもしれない。
ごめんね、青ちゃん。俺の事、せっかく好きになってくれたのに。恋人になれたのに。黄くんと紫ーくんと橙くんにもまだ恩返し出来てないのに。それに桃くんにも….
下がっていく自己肯定感と体温、唯一暖かい涙が目尻に伝っていくのがわかった。
「赤っ!!!!」
視界が真っ暗に染まった瞬間、誰かに名前を呼ばれた気がした。何度も、何十回も、何百回も聞いたことのある声。
忘れたくても忘れられなかった声。
肩を揺さぶられて何とか重い瞼を開く。
そこには泣きそうな顔の桃くんがいた。
…..走馬灯?
だってこんなところに桃くんがいるはずがない。
というか、最後の最期まで桃くんとか酷い。
「も….も、く….?」
「赤っ!あかっ、….」
何度も名前を確認するように呼ばれ、ぎゅっと強く抱きしめられる。
….あったかい。
人の温もりってこんなあったかいんだ。
「….もう大丈夫だからな、ぜってぇ死ぬなよ」
その言葉に何故か安心して、俺はゆっくり目を閉じた。
To Be Continued….?
コメント
13件
続きめちゃくちゃ嬉しいです😭桃赤好きすぎふ
すごく作品好きです! 陰ながらはみぃさん応援してるんですけど、ストーリーが最高すぎて、なんかこれの小説出してほしい...。 絶対に死なせないからなって言う言葉が何故か私にぐっと来ました。 今回見るの遅れてしまったんですがとても最高でした。一つ一つの書き方が本当にうまくて...尊敬です。 これからも応援しても宜しいでしょうか?🥺
最新話更新ありがとうございます!!! 初心な青赤がとても可愛いかったし、それを見て嬉しそうな紫ーくんたちもすごく可愛いかったです! なによりも、桃くんかっこよすぎますよ...!!!こんなの惚れるに決まってるじゃないですか!笑 赤くんがいなくなったときの青くんの反応も愛が重めで少し狂った感じがとてもよかったです!! お忙しいとは思いますが、はみぃ様のペースでまた書いていただけるとすごく嬉しいです!