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FORSAKENの神殿、その日のアズールの私室は、やけに静かだった。
「ふふふ……やはりMowl殿の毛並みは素晴らしい。一本一本の密度が高く、羊毛フェルトとの相性も抜群だ」
デスクの上には、換毛期のブラッシングで集められた黒と白のふわふわした抜け毛が山積みになっている。
そして中央には一本のフェルト針。
アズールは背中の触手四本を器用に動かし、一斉に針を突き始めた。
チクチクチクチクチクチク!!
魔導糸を織り込みながら、毛を少しずつ固め、形を整えていく。
触手の動きはもはや職人というより工場の自動機械だった。
数時間後。
「……よし!」
アズールは満足そうに息を吐いた。
手のひらの上には、高さ十センチほどの小さなMowl。
黒ハチワレ模様。
黄色いリボン。
茶色のマント。
右目のモノクルまで忠実に再現された、超リアルな羊毛フェルト人形だった。
しかも素材はMowl本人の毛百パーセント。
触り心地も香りも完全に本物。
「これは喜んでもらえるぞ」
アズールがうなずいた、その瞬間だった。
「やあアズール、何を作って……あ」
部屋のドアが開く。
赤いシルクハットをかぶったスペクターが入ってきた。
アズールの手元を見た瞬間。
時間が止まる。
「…………」
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
「なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
神殿中に響き渡る絶叫。
ザッ!!
スペクターは目にも止まらない速度で距離を詰めると、両手でそっとミニMowlを持ち上げた。
「小さいMowl!?」
「えっ、毛並みも本物!」
「匂いまでMowl!!」
「アズール!! これどうやって作ったの!!?」
「は、はい! Mowl殿の抜け毛を羊毛フェルトにしてみました!」
「天才だよ!!」
スペクターの顔が一瞬で満面の笑みに変わる。
「今日から君はMowl二号!」
そう言うと、ミニMowlを頬へすりすり。
頭をなでなで。
両手で包み込み。
最後は胸ポケットへ大事そうにしまった。
「ポケットに入るMowl……最高……」
完全に幸せそうだった。
◇
その頃。
回廊を歩いていた本物のMowlは、小さく首を傾げていた。
「……妙ですな」
胸の黄色いリボンを整え、モノクルをかけ直す。
「先ほどから、スペクター様の歓喜の波動を感じます」
嫌な予感しかしない。
Mowlは静かにアズールの部屋へ向かった。
コンコン。
「失礼いたします」
ドアを開ける。
そして固まった。
ソファに座るスペクター。
胸ポケットからちょこんと顔を出す小さなMowl。
「Mowl二号〜、今日のおやつは何がいい?」
「ちゅ〜る?」
「ササミ?」
「今日は一緒に寝ようね〜」
デレデレである。
アズールは満足そうに腕を組んでいた。
「気に入っていただけたようで何よりです」
「…………」
本物のMowlは無言だった。
左目がギチチ……と細くなる。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
スペクターの胸ポケットを見つめる。
そこには小さな自分。
しかも可愛がられている。
「……スペクター様」
重厚な低音が静かに響く。
「その……お戯れはほどほどになさってはいかがでしょう」
「ん?」
「私めという本物がおりますゆえ」
「人形にそこまで情を注がれる必要は……」
しかしスペクターは満面の笑み。
「でもねMowl!」
ポケットからミニMowlを取り出して見せる。
「この子なら、ぎゅーって抱きしめても首骨が鳴らないんだよ!」
「ポケットにも入る!」
「どこへでも一緒!」
「可愛い!!」
「…………」
その一言が。
Mowlの胸を深くえぐった。
(首骨が鳴らない……)
(ポケットサイズ……)
(常に一緒……)
どれも本物には勝てない。
静かにアズールを見る。
無言。
ただし圧力だけで部屋の温度が二度ほど下がった。
「ひっ」
アズールの触手四本が一斉に逆立つ。
「Mowl殿、落ち着いて」
「…………」
Mowlは何も言わない。
そのままスペクターの前まで歩き、静かに膝をついた。
マントを整える。
リボンを直す。
モノクルを軽く押し上げる。
「……スペクター様」
「なぁに?」
「人形は、あくまで人形」
「命令を理解することも」
「紅茶を淹れることも」
「ご一緒に執務することも」
「膝の上で喉を鳴らすことも」
「できませぬ」
少しだけ間が空く。
そして。
Mowlは意を決したように、そっとスペクターの膝へ頭を乗せた。
控えめに。
遠慮がちに。
黒ハチワレの頭を、すり……
すり……
「……私めの立場まで、取られてしまっては困ります」
最後の一言だけ、小さかった。
ほとんど聞こえないくらい。
でも十分だった。
「ーーーーーーーーっ!!!!」
スペクターの理性が吹き飛ぶ。
「Mowlが!!」
「ヤキモチ焼いてる!!」
「甘えてる!!」
「可愛いぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ガバァッ!!
「ぐにゃあっ!?」
勢いよく抱き締められたMowlの首から。
ミシッ。
メリメリ。
ゴキッ。
「スペクター様……っ!」
「少々……!」
「力加減を……!」
「首骨が……!」
「あはは!」
「やっぱり本物はこの音だね!」
「違いますぅぅぅっ!!」
◇
その夜。
玉座には、いつも通りスペクターが座っていた。
膝の上には本物のMowl。
胸ポケットにはミニMowl。
ご満悦である。
スペクターは本物のMowlを撫でながら、時々ポケットのミニMowlも優しくつつく。
「どっちも可愛いなぁ」
「最高だなぁ」
そしてMowlは。
スペクターに撫でられながらも、ポケットから顔を出しているミニMowlをじっと見つめていた。
左目がギチチ……と細くなる。
「……私めの方が」
小さく呟く。
「絶対に」
「モフモフにございます」
その様子を少し離れた場所から見ていたアズールは、背中の触手でメモ帳を開いた。
『Mowl殿は意外と独占欲が強い』
そう書き込んだ直後。
視線を感じる。
振り向く。
Mowlと目が合った。
「…………」
「消してください、その記録」
「はい、すぐ消します」
アズールは触手四本で全力でページを破り捨てた。神殿の平和は、今日もかろうじて保たれた。
城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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