「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
防音とはいえ、大声すぎたかもしれない。パソコンの画面に映る自分の顔を見て、reluは思ったよりも疲れていることに気付いた。白い髪の毛にぴょんと跳ねたアホ毛、虹色に染めた毛先。青と緑のオッドアイには苛立ちが宿っている。幼さの残る顔立ちの青年だが、アホ毛が無邪気に揺れているのが何とも言えず自分を笑っているように感じた。
「あぁ…!!!!思いつかへん!!!!」
reluは机の上に突っ伏して叫んだ。作曲ソフトにはいくつもの音の帯が並び、音楽が形になっている。しかし、思い通りに進まない作業に苛立ちを覚え、部屋を飛び出した。スマホとギターを手に、時刻は午後11時。大阪の街は霞草のように光の粒が並び、静かに輝いていた。
人気のない路地に座り込み、reluはギターを爪弾く。アコースティックギターの音色が夜の静寂を優しく包み込んだ。
「うまいなぁ」
「うわぁ!?!?!?」
突然横から声がした。reluは驚いて飛び上がり、振り返ると、黒いパーカーを着た人物が立っていた。アコギを背負い、長いフレアスカートを履いている。
「そんなにびっくりせんでも」
パーカーの人物は笑いながら言った。reluは胸を抑え、まだ心臓がバクバクしているのを感じながら尋ねた。
「そりゃあびっくりするで…名前はなんですか?」
「ウチは黒羽。安心して。悪い人ちゃうから。」
黒羽と名乗るその人物の笑顔には、どこか安心感があった。reluは少し落ち着きを取り戻しながらも、この突然の出会いに興味を抱き始めた。
「自分はreluいいます。」
黒羽は頷くと、背負っていたアコースティックギターを抱えて地面に座った。reluも黒羽の隣に座る。
「で、reluは家出してきたん?」
黒羽はギターをチューニングしながら尋ねた。reluは首を横に振った。
「自分、曲作っとるんです。高校の軽音部の。五人グループで、文化祭に向けてオリジナル曲出すねんって言うたはええねんけど…」
「あー、思いつかへんと。」
「そうなんよ……」
黒羽は共感するように大きく頷いた。そしてスマホで何か打ち込み始めた。
「何系の曲がええ?なんか青春系とか感動系とかあるやん」
「えー…自分のグループは来年の夏に発表あるんで、青春系ですかね……」
「なるほどねぇ。じゃあ…」
黒羽はしばらく考えると、ギターで弾き語りを始めた。中低音の高低差の無いメロディ。だんだんコードが追加され、夏らしいビートと爽やかな旋律がギターから発せられる。
「……浮かんできた」
黒羽が弾き終わると、reluは宙を見ながら言った。黒羽は嬉しそうに笑うと、躊躇いながら言った。
「……うちさ、余命二年なんよ。せやからreluと会えるのも、これで最後だと思う」
その言葉にreluは胸の辺りが痛むのを感じた。そうなんや、と返し、ギターを片付け始めた。
「なんや、もう帰るんか」
黒羽は寂しそうにギターを背負って立ち上がった。黒羽はreluより身長がだいぶ高い。黒羽を見上げ、静かに言った。
「…あんたが死んでも、れるが死ぬわけちゃうです。せやけど……あんたが死ぬの、めっちゃ悲しい」
黒羽は目を見開いてreluの言葉に耳を傾けていた。reluは大きく息を吸い、意を決したように言った。
「……会えるんが最後でも、れる…すたぽらのライブには、絶対きてくれや!!!!!」
reluは黒羽を指差しながら叫んだ。夜の大阪に響くreluの声は、透き通っていた。
「絶対見に行ったる!!!死んでも化けて出てやるわ!!!!!!」
黒羽も笑顔で言った。その顔は、reluの親友によく似ていた。そういえば、あいつも余命十年って言ってたな……
翌年。reluたちすたぽらは見事文化祭で曲を発表した。余命十年のリーダーも弾けるような笑顔で歌っていた。あの時の黒羽のように。
「その黒羽さんってさ、今どうしてるんだろ」
ライブの直前、リーダーは空を見上げながら呟いた。
「……死んでも化けて出るって言っとった」
幕が上がり、拍手が聞こえる。屋外のため舞台裏も明るい。階段を登り、ステージに立つ。reluはギターを抱え、客席を見た。
「あ、」
客席の1番奥、中央の方。全身黒でコーディネートした人がいる。その人はreluをじっと見つめると、小さくピースをした。reluはニヤリと笑い、リーダーを見た。
「それでは聴いてください!」
ついにこの瞬間が来た。
「Starlight Polarisで、夏空ファンファーレ!」
コメント
2件
リクエスト く だ さ い