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るな
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私が芸能界に入ったのは、父から貰ったDVDを見たからだ。
小学生の頃だろうか。あの動画を見た日から
私は目を奪われた。
あの少年に。
暗めの室内。ファンたちが好きな推しのメンカラでペンライトを振る、そんな熱気があって、幸せであるだろうその空間を撮ったあのライブ映像。
それを見てつい、惑わされた。
目線はいつも、ペンライトにもセンターの男の子にも向けられずに私は端にいる少年にだけ固定される。
オットー・スーウェンという、ネズミ色の髪の少年だ。癖っ毛だが、それが愛らしさを引き立てている。私から見たら愛おしさの化身だ。
そんな彼が楽しそうに、嬉しそうに、向日葵のように笑っている。
私がこの動画を見た時、思った。
──この人に大金を貢ごう、と。
─────────────────
『にーちゃ!私芸能界入る!そしてバリバリと稼ぐ!!』
『なんで!?』
「……なんて言ってたのが懐かしいよな」
「遠い目をどうしたのよ。目潰しするよ?」
「やめろよ!?」
桜が舞う、春の季節。双子の兄と私はルグニカ学園の校門の前に立っていた。
ルグニカ学園、古き良き名門校であり近年では普通科に加え芸能科が増設された高校だ。
なぜこの高校の前に居るかはお分かりだろう。
そう!皆さんわかっているだろうが。私達はルグニカ学園に入学する新参者、という訳だ!
「それにしてもお前がアイドルをやるなんてな……」
「何?私家で可愛いって褒められてるもん。そんなの芸能界入るならアイドル一択でしょ。」
詩奏は両手を腰にあて、自慢げに口角を上げる。
「いやー?きっとお前が推してるやつがアイドルやってたから……じゃねーのかなって思ってたんだけど。」
「ひゃうっ!……な、なんでそれを……、あ」
「やっぱそうじゃねえかよ!!」
耳まで真っ赤に染め、ゆでダコみたいにしている顔を手で覆い被せて自ら墓穴を掘りに行く詩奏。
しかし、長年兄弟として詩奏を見ている昴は容赦なくツッコミを入れる。
「それにお前この前T○itterで炎上してたじゃん。推してるやつに好き好きってツイートしてたし。」
「う”っ…………今は認められてるからいいの、あと今はXだよ。昴。」
「まじかよ。……あとそれツッコミする所じゃなくね?」
傷口に塩を昴に塗られるが詩奏はもう開き直り、苦笑いをしながら堂々とする。
ちなみに昴は呆れた目線を向けている。
「それにしても……お前の推しがもう”アイドル引退してる”やつで良かったな。引退してなかったらもうちょっと炎上してたぞ。」
「私的には炎上してもいいから戻ってきて欲しいのに」
「愛が重い!!」
“アイドル引退している”
──そう、私の推しは昴が言っているように
私の推し、オットー・スーウェンはアイドルを引退しているのだ。
なんでしてるんだよお!!この公式!アホ!!分からずやぁ!!
ちなみに引退理由は詳しくは伝えられていないが、世間では
「年齢や身長がグループのコンセプトに合わなくなったからではないか」
と考察されている。
ちなみに言うと、推しているオットーくんの元グループは幼い男の子達を中心のメンバーだったので理由なんて明らかなのである。
それにしても外すのはおかしいよ!!私が推し始めてた時には居なかったよ!?握手会にだって行けてないし、グッズも中古しか買えてない!なんつー対応だよ!!経済の力で潰してやろうか、公式の会社ぁ!!
「ほら、そろそろ遅刻するから行くぞー。」
「嫌だァ!私は推しが居ない世界なんて生きていけないんだあ!!」
「……話のキャッチボールはどこに行った??」
────────────────────
「○○中から来た菜月詩奏です。ロズワール事務所の『Re:star』でアイドルをやってます。」
入学式が終わり、何があるかと言うと……
そう、自己紹介!自己紹介の時間ですよ!!
という訳で、自己紹介をしているが
皆の視線の行方は私ではない。
2人の少女に向けられていた。
2人の名は鬼野恋夢(レム)と鬼野愛夢(ラム)。
私と同じく『Re:star』のメンバーであり、メンバー内でのグッズ売上で1位2位を争うほどの人気メンバーだ。
容姿から見てもまるで現実離れしており、透明感のある髪質に、羨ましいほど整った顔。
そして双子だからと言って全くの別人だと思わせるような性格。
一見してみると分からないギャップと、上記示したような理由で人気を博している人物なのだ!!
「菜月昴です。前の詩奏とは──で────」
「───、────。」
「────────。───」
その後も自己紹介は続いていき、
───キーンコーンカーンコーン
よく聞く学校ならではのチャイムが耳に響く。
「──ちゃん、──ちゃん!」
「詩奏ちゃん!大丈夫ですか?」
ぼんやりとしていた詩奏の意識を取り戻したのは水色髪の少女、レムだった。
そんなレムは心配そうに何度か瞬きをしながら、こちらを覗き込んでいる。
「───レム!?」
「はい、詩奏ちゃんのお兄さんである昴くんのレムです!」
「長い長い。名乗りが長い。」
キョトンとしたような顔で首を傾けるレムの顔面偏差値に遅れをとるが、ここは幼なじみである詩奏、キッチリとツッコミを入れる。
「それより本当に大丈夫なんですか?詩奏ちゃん、意識だけ何処かに行ったのかと」
「ただ推しの事考えてただけだから……レムもわかるよね」
「分かります!昴くんがあれやこれやしている事を考えていると何時間も時が進んで行ってしまいます!」
「………うん、まぁ。そんな感じ」
幼なじみであり、推し活仲間であるレムと推し活談義について花を咲かせる。
……いや、花を咲かせているのか?
まあ、咲かせていることにしておこう。
自分で言うのもあれだが傍から見ると近づく事も恐れ多いだろう雰囲気に一人の男が入ってきた。
──私の兄、菜月昴である。
「よっ、レム。久しぶりだな」
「昴くんっ!!お久しぶりです、昴くん。時間が流れても変わらないそのお顔を見てレムは感服しました!」
「そんなところで感服しないで欲しいけどな!」
レムが昴の声を聞くと目を輝かせ、かつてないほど愛らしさを見せる。
ふんすふんす、とスバルの話を聞いており
私はまるで蚊帳の外になっている。
「──ところで昴くん!詩奏ちゃん!今日一緒に帰りませんか?姉様は仕事があるので先程帰ってしまったんです……」
『え?』
昴と詩奏の声がハモリ、「ジンクス!」と叫びたくなるが必死に抑え周りを見渡す。
何処を見渡してもあの傲岸不遜で、毅然としているあのラムがいない。
「あのラムがいないとは……なんの仕事なんだよ」
「社長のお手伝いです。」
「サボりじゃねえーか!!」
説明を入れとくと、社長とは我がグループ『Re:star』の所属している事務所……ロズワール事務所の現社長のロズワール・メイザースだ。
芸能事務所の社長でありながら小説家としても活躍しており、ロズワールの資産は数えることも出来ない……という噂もある程の、……まぁヤバいやつなのだが。
そのロズワールにラムは今お熱中、らしい。
ま、そんな奴の事はさておき。
「私はいいけど……昴は?」
「俺もOK、やる事ないし」
「……売れてないから?」
「嫌味か?蹴り飛ばすぞ」
「乙女にそんな事言わないでー!」
「妹が……乙女……??」
「顔に痣作ってやろうか?」
───────────────
まずい、完全に遅れた。
説明するなら、この状況はマリアナ海溝より深く、アパラチア山脈より高ーい理由がある。
簡単に言うと担任に荷物を運ばされたのだ。
あのクソ教師……っ!!
てことで、そんな事もあり、山あり谷あり地獄ありって事で廊下を走っているのだが。
この校舎マジで広い、広すぎて迷子になる。
流石の名門校ちゃいますわー
毎日稽古で築き上げた体力がジリジリと削られるのを実感しながら、新品の制服をなびかせる。
走っても走ってもまるで同じような所ばっか。無限ループでもしてんじゃないのか?
そんな疑問を持ちながら唇を噛み締め、角を曲がろうとした瞬間。
──人とぶつかった。
ガンっと衝撃が頭に響き、尻もちをつく。
「いった……っ」
恐らく額と相手の額がぶつかったのだろう。詩奏は頭を抑え、痛みに耐える。
たんこぶが出来たら大丈夫かな?仕事に影響ないかな?と思考を回していた時。
──声がした。
聞き覚えのある声だ。
毎日聞いていた声。
耳に残って音程だって再現だって出来る、あの、高めのトーン。
ふと、顔をあげる。
見えたのは眼鏡をかけた男子生徒だった。
制服的には芸能科とは違って普通科だろう。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
灰色のあの優しくて、
見ただけで落ち着けるような髪色で。
眼鏡をかけているが奥から見える、あの澄んだ青色の瞳。
「あの……大丈夫です……「……おっとー…………すーうぇん、だ。」
「か……て、え……?」
「オットーくんだよね!?本物!?え、なんでいるの!?私生きててよかった、この学校来てよかった!まじ顔かっこ可愛いんだけど……神?作ってくれた人神なの!??ありがとう、神様!!」
「……っえ、……ええ??」
「しゃべったあああ!!声いい!鼓膜破れる破壊されるうう!!好き好き大好き!声の新入荷入ったよお!!」
「ちょっ、ちょっと!落ち着いてください!」
ポカン……とした後、ハッと思い出したように落ち着けと言うように手を前に出す。
「とりあえず!……貴方は誰なんですか?僕の名前とかなんで知っているとか色々聞きたいんですけど」
「はい!落ち着きます!…………
私は芸能科の菜月詩奏。ロズワール事務所の『Re:star』っていうグループでアイドル活動をやってる貴方のファン」
「ファンって…………ええ!?ロズワール事務所!?あの!?」
「うん、あの変態社長が経営しているあの事務所」
ピシッと指をオットーの方へ向け、自己紹介をする詩奏。
変態……?と疑問に思いながら綺麗なご尊顔を近ずけてくるオットー。思わず吐血しかけるが深呼吸をする。
「オットーくんは?あ、私は芸能科の1年A組」
「あ……はい!えっと知ってると思いますが、オットー・スーウェンです。普通科のB組です。」
「ふむふむ……よし、脳内メモでメモった。了解」
「なんでメモられてるんですかね……、これ。」
脳内の重要メモに記憶したところでドタドタと足音が聞こえてくる。
「しそっ……ふー……おまっ、どこまで行って……」
「昴!?」
「…………知り合いですか?」
「うん!双子の兄」
「似てないですね。」
「悪いかよっ、2卵性双生児で悪かったなっ!」
はぁはぁと過呼吸になりながら汗をかく昴に、
きっと無意識であろうオットーに鋭いツッコミが入る
「あっ、すみません……」
やっぱり無意識だったわ。
「つか……お前っ、レムと待ってんだけど!レムが許しても俺が許さねえぞ!?」
「………………えへっ!」
「おいっ!」
レムが待っているという事実を知って罪悪感は出てきくる。
しかし、昴に謝るという選択肢は無いんだ!私は!
ということで私は手を丸め、頭にちょこんと乗せて可愛こぶる。ちなみに舌を不〇家ペコちゃんみたいに出してるおまけ付き。
「…………なんか……すみません。会話の邪魔になってしまって」
……………なんだって!?!?
じゃれ合ってた昴との時間をすっぽかし、オットーの方へ目線を向け、声を出す。
「邪魔なんかないよ!!てかそんな奴いたら私が潰
してや──「ごめんなー?多分こいつの方が邪魔」
「酷い!!」
「てか帰るぞ、レムマジで健気に待ってるから」
「少しだけっ‥‥少しだけっ!!」
引きずられて運ばれそうになる詩奏にオットーは苦笑いしか出なくなる。
しかし苦笑いの威力は詩奏にはゼロ、いやマイナスだった。
(こんな私を見ても笑ってくれるオットーくんマジ聖人……!!)
幾度と無くスバルに迷惑を被せ、被せられてきた詩奏の不屈の精神とオットーを何年も推してきた経験によりまさに無敵状態だった。
そんな詩奏に一筋の考えが浮かぶ。
「オットーくんっ!」
「は、!はい……?」
「連絡先!交換!して!!」
「それ問題になりませんか!?」
「いいから、いいから!ほら、スマホ貸して!」
「ロック解除のパスワードは?」
「え、0324ですけど……て、ちょっ!」
大丈夫、大丈夫と手を振りオットーからスマホを受け取りポチポチと操作する。
「よし!出来た!」
「えぇ……アイドルと連絡先交換って
僕炎上とかしませんよね??」
「大丈夫、なんかあったらシバいとくから。安心しろよ。」
「安心できないんですけどねえ……その説明。」
昴とワイワイとしているオットーを横目に詩奏は
L〇NEのトーク欄に増えたアイコンを見てニヤニヤする。
「て、事でもういいよな!?詩奏!じゃ帰ろう!今すぐ!」
「ふぇっ!?あ、うん!私幸せ、帰る!」
シソウは振り向き、オットーへ手を大きく振る。
「それじゃあ、オットーくん!また明日ね!」
自分が精一杯出来る可愛い顔で。
「はい、また明日よろしくお願いしますね。」
「あれ、明日って僕クラス違う気が……??」
────────────
「オットー兄さん、どうしたの?そんな幸先不安で死にそうな顔しているけど。」
「レギン、兄にそんな事言うなんて僕辛いですよ。……幸先不安なのはあってますけどね。」
自宅にて、オットー・スーウェンはリビングの机に顔を突っ伏していた。
「ある女子生徒に連絡先交換したんですよ。その生徒がアイドルをやっているみたいで……問題になったりしないかなと。」
「あー、オットー兄さんの所芸能科あるしね。どんな子なの?」
オットーが突っ伏している机の反対側にある椅子を引き、レギンが座る。
「僕のファン……みたいで。あとロズワール事務所にいるとか言ってました。僕がアイドルしてたのなんてもう何年も経ってんのにどこから見つけてきたんだか……」
「…………あー、あの最近話題になってた子?」
「なんで知ってんですか!?」
あはは、と軽く笑いレギンは口を開く。
「T〇itterで炎上してたんだよ、少し前。てか知らなかったの?」
「全く知らなかったですよ!!てかあの人何炎上してんですか!?」
「兄さんの好きなところを投稿してた」
「最悪だ…………」
オットーの立ち直りかけてた心が折れた。いや、元々折れてはいましたけども。
「───明日からどうしよう。本当に。」
オットーは明日への自分のことを考えて、また胃が痛くなった。
「それともう炎上してるじゃないですか、連絡先交換しなくても……」
──────────────
「明日から大丈夫かな…………死ぬかも」
「そんぐらいで死なないから大丈夫なのよ。安心するかしら、シソウ。」
「だって!!あの、オットーくんがいるんだよ!?絶対明日隕石降る。隕石降る。」
「そんなんで隕石が降ったら人間はもう死んでるのよ。だから大丈夫かしら。」
「無理無理無理無理ぃ!!」
詩奏の部屋にて、こちらも突っ伏していた。こちらはヨギボーにだが。
「とにかく、よぎぼーから離れるのよー!!」
「顔赤いから無理なの!無理無理!!」
「ありゃま……こりゃ戻るの多分1日はかかるな。」
「待てるわけないのよっ!!そんな事したらシソウと話せないかしら!!」
扉からひょこっと頭を出した昴に2人の最愛の妹、ベアトリスは憤慨する。
「それににーちゃもなのよ!!にーちゃも同じようなものかしら!!」
「へっ!?べ、ベア子は何を言って……っ」
「エミリアに会った時なんかヤバかったのよ!顔を真っ赤にして目を逸らし、立派に恋愛してたのよ!!」
「それは違ぇだろ!恋愛と推し活は別問題!あとなんで知ってんだよ!」
顔を真っ赤っかにして怒鳴る昴にベアトリスはニヤニヤと口を歪ませる。
「そんな風には見えなかったのよ、にーちゃ。それにベティはその現場に居たのを忘れたのかしら?」
「うぎゃぁぁぁあ!!」
──菜月家も平和だった。
「地獄の間違いだよ……これ」
コメント
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うわあああん第1話から既に尊すぎるだろ!!😭💕 詩奏ちゃんの推し活パワーが暴走しすぎてて笑ったけど、オットーくんとまさか同じ学校でバッタリ会うとか運命感じちゃうよ…!「連絡先交換して!」の強引さ、逆に清々しいし、兄の昴との掛け合いもテンポ良くて楽しい〜。二人とも家で悶えてるの同じで草。次話も絶対読む!!🌸