テラーノベル
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「……いや、絶対それ、奥さんのお腹にいたの店長の子どもでしょ? 一年妊活してできなかったのに、パートし始めてすぐできたんでしょ?」
「……いっちゃんは本当に察しがいいね」
皮肉でもなんでもなく、気持ちいいくらいズバッと言ってくれた。あまりの潔さに、悲しみよりも先に笑いが込み上げてくる。
「いつきくん……全部、お金返してもらわなきゃダメだよ!」
だいきの食いつくポイントがそこなのが、いかにも彼らしくて面白い。
「別にいいよ。俺と結婚してる時に産まれた子だから、ついこないだまでは俺の子だった。渡してたのは子どもへの養育費だったし、そこは割り切ってるんだ」
「いや、でもさ。前払いした将来の進学資金は関係ないじゃん? 俺が取り立てに行こうか? そういうの得意なんだけど」
「やめろよ。せっかく彼女の幸せが形になったんだ、壊滅させないであげて」
「……いつきくん、本当に好き」
「なんで、いっちゃんなんだよ!」
急にいっちゃんにぎゅうっと力いっぱい抱きしめられて、笑いが止まらなくなった。だいきはといえば、なんだか感慨深い顔で俺を見つめている。もしかして感動してるのか? 俺、そんな大したことは言ってないぞ。
本当は、どこかでホッとしているんだ。
自分が幸せにできなかった分、彼女を受け取ってくれた人がいた。俺の役目は、これでようやく終わったんだ、と。
これからは、俺を大切に思ってくれる人を、俺も同じように大切にできる。過去の引け目から解放されて、ちゃんと自分の道を生きていけるんだ。
終わらないいっちゃんのハグに苦笑しながら、ふとりゅうせいの方へ視線をやった。
彼は、あまり興味がなさそうな、どこか遠い目をしていた。……そっか。りゅうせいからすれば、いきなり他人の泥沼の離婚事情を聞かされても、どうしようもないよな。
俺がりゅうせいを突き放した本当の理由も言っていないし。りゅうせいだって、ただ「社内恋愛は無理だから」と断られたとだけ思ってる。
俺たちの間に流れる沈黙だけが、冬の冷たい空気を含んで、少しだけ重かった。
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