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#契約結婚
鷹槻れん

13,871
【作品紹介】
ソファでくつろぐ|宗親《むねちか》と|春凪《はな》。
深まる秋の気配に、隣へ座る春凪がブルッと震えるから…。
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※産後1ヶ月くらいの春凪と、宗親です。
(2022/10/14〜10/15)
最近何だか朝晩めっきり冷えるようになってきた。
十月も半ばともなれば夜を渡る風は深い深い秋の様相。
ちょっと前まで妊娠中だったこともあり、衣替えが間に合わなくて、パジャマがまだ夏仕様のままの春凪だ。
前開きボタンのパジャマには、胸を出すためのスナップがないので授乳のたびに前ボタンを開けるか、裾から服をまくり上げないといけないのでちょっぴり恥ずかしい。
今度、秋冬仕様の授乳用のパジャマを新調したいなと春凪はぼんやり思った。
宗親が赤ん坊を見てくれている間に、クローゼットをかき回して薄手のカーディガンを一枚、どうにかこうにか引っ張り出して半袖パジャマの上に羽織った春凪だったけれど。
こんな風に何もせずソファーに座ってテレビなどを見ていると、空調完備のこの部屋にいても段々手足が冷えてきてしまう。
ベビーベッドではお腹いっぱいで満足したのだろう。
可愛い我が子がスヤスヤと寝息を立てている。
「安芸、今日は春凪がいなくても珍しくいい子に寝てくれたよ」
自分の時間が持てるのは、こんな風に赤ちゃんが眠ってくれている間だけだ。
宗親がベビーベッドへ向けられた春凪の視線を追って、穏やかな声音で言う。
基本的に仕事が忙しくて育児の大半を春凪任せになってしまっている宗親だけれど、帰宅すれば春凪が何も言わなくても積極的に子育てに関わってくれるし、家事も手助けしてくれる。
本当に良き夫であり、良き父親だ。
「たまには夫婦水いらずもいいと思いませんか?」
半ば無意識。
春凪がブルッと小さく身体を震わせて「寒……」と一人ごちて両足をソファーの上に引き上げて抱え込んだと同時、隣に座っていた宗親が無言で立ち上がってどこからともなくふわふわのブランケットを手に戻ってきた。
「春凪、もう少しこっちにおいで?」
言いながらふわりと春凪の右肩にブランケットを掛けると、自分も春凪にくっ付くようにして春凪の左隣へ座ってその中に収まる。
「あったかいですか?」
ブランケットの中。
愛しい妻の肩を抱き寄せて問えば、小さく「はい……」とどこか緊張した様子でギュッと身体を縮こまらせたまま春凪が答える。
このところ朝も夜もなく生後ひと月ちょっとの安芸にかかり切りの春凪は、宗親が子供の面倒を引き受けるとすぐ、うつらうつらと寝落ちしてしまうことが多い。
だが今夜は寒さのお陰だろうか。
こんな風に春凪が起きていられること自体珍しいから、宗親はこの機を逃したくない。
宗親と春凪が住むタワーマンションの周辺から聴こえてくる虫の音は、いつの間にやらジーワジワと熱気を感じさせる夏の蝉達のラブコールから、涼風をはらんだコオロギや鈴虫などといった秋の虫の声に変わっていた。
さすがに地上七十m近い高さにあるこの部屋まで草むらで営まれる虫達の歌声が聴こえてくることはないのだけれど、仕事への行き帰りのたび耳にするから季節の移ろいは肌で実感している宗親だ。
ふんわりと温かなブランケットに包まれて、左側に宗親の体温を感じた春凪は、何だかどんどん恥ずかしくなってきて。
「こ、こんな風に宗親さんとくっつくの、久しぶり過ぎて……えっと、何だか照れ臭い……です」
ギュウッとブランケットの中で身体を縮こまらせながらしどろもどろで言ったら、すぐそばで宗親が小さく笑う声が聞こえた。
「僕も……久々過ぎて何だか妙な気分です。――ねぇ春凪。このままキスしても構いませんか?」
口付けくらい、いつも何も言わずにしてくるくせに。
わざわざそんな風に聞いてくる宗親のことがたまらなく意地悪に思えて、そっと窺い見たら、どこまでも黒く深い宗親の澄んだ瞳と視線がかち合って。
春凪はドクンッと心臓が跳ねて身動きが取れなくなってしまう。
「春凪。お願い。許可を頂戴?」
春凪にとって好みのド・ストライクのお顔は未だ健在。
間近で自分を見詰めてくる宗親の艶めいた表情に、身体の芯から燃え上がるような熱が生じてぶわりと耳まで熱くなる。
春凪はその熱を心に秘めたまま、「して……ください」と消え入りそうな声音でつぶやいて、宗親の方へ顔を向けたままそっと目を閉じた。
まだ産後ひと月足らずの春凪の身体は回復しきっていないから……。
これ以上先に進むことは出来ない宗親と春凪だけれど、それでもただ二人、こんな風に寄り添うようにそばにられるだけで。
この上なく幸せなのだ――。
END(2022/10/14-10⁄15)
コメント
2件
あーん、今回も糖度高め♥
みぅです🤍🥀 118話、読み終わりました…。 春凪ちゃんと宗親さんの、産後ならではの距離感と温かさがとても丁寧に描かれていて、胸がぎゅっとなりました。授乳パジャマの話とか、久しぶりにくっつく照れ臭さとか、リアルで愛おしい。 「キスの許可を頂戴」って聞く宗親さんの意地悪な優しさ、たまらないです。 ただ隣にいるだけでこんなに幸せなんだなって、読んでいてこっちまで温かい気持ちになりました。大切な一瞬を切り取ってくれてありがとう…🌙