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第61話 〚見覚えのある瞳〛(恒一視点)
――やっと、
振り向いた。
人混みの中で、
澪がこちらを見る。
その瞬間、
胸の奥が、ぞくりとした。
(……やっぱり)
その目だ。
驚いて、
警戒して、
でも完全には拒絶していない――
恒一は、そう“思い込んだ”。
(俺のこと、分かってる目)
花火の光が、
一瞬、澪の横顔を照らす。
浴衣。
揺れる髪。
人に流されそうで、
それでも立ち止まっている姿。
(……守らないと)
理由は、
いつの間にか、すり替わっていた。
自分が望んでいるのに、
それを“澪のため”だと信じるために。
「澪」
もう一度、
名前を呼ぶ。
今度は、
少しだけ声を柔らかくした。
(怖がらせたら、だめだ)
恒一は、
そう判断した。
(俺は、優等生だし
乱暴なことなんて、しない)
――頭では、そう考えている。
でも。
澪が、
一歩、後ろに下がった。
その動きに、
胸が、ちくりと痛んだ。
(……なんで?)
苛立ちが、
じわりと滲む。
(海翔のせいだ)
すぐに、
答えが出る。
(あいつが、
澪を変えた)
恒一の視線が、
無意識に、
澪の手元へ落ちる。
(……あいつと、手、繋いでたな)
思い出しただけで、
奥歯が、きしっと鳴る。
(でも今は、いない)
人混み。
花火の音。
誰もこちらを見ていない。
(チャンスだ)
恒一は、
一歩だけ、近づいた。
「……大丈夫だよ」
自分でも、
驚くほど、
落ち着いた声だった。
(ほら、
怖くないだろ?)
そう思った瞬間――
澪の目が、
はっきりと、
“拒否”を映した。
その瞳。
中二の頃、
初めて見たあの目とは、
違っていた。
(……違う)
恒一の胸に、
嫌な感覚が広がる。
(俺を、
見てない)
そのとき。
遠くから――
確かに、
誰かが走ってくる気配がした。
(……誰だ)
恒一は、
歯を食いしばる。
(邪魔、するな)
花火が、
夜空で、
大きく弾けた。
その音に、
全てが掻き消される前に――
恒一は、
決断する。
(……今しかない)