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夜。街の中心部、再開発地区。
ガラス張りのビルの壁面に、巨大な広告が流れている。
《治安維持局・特務課》
【新体制発足。市民の安全を守ります。】
白いロゴ。
白い制服。
白い言葉。
正義の色だ。
そのビルの向かい。
人通りの少ない歩道橋の影に、男がひとり立っていた。
黒いコート。
黒い手袋。
髪は目にかかっていて、表情が読みづらい。
白石結城は、スマホでその広告を眺めていた。
「……へぇ〜」
口元だけが笑う。
「まだその名前使ってんだ。」
「ほんと、盗むの上手いよねぇ。正義って」
画面の広告は切り替わり、三人の写真が映る。
中央には、堂々とした男。
その隣に、無表情の男。
そして柔らかく微笑む女。
下には名前。
BRAVE
SHIRO
GRACE
結城は、息を吐いた。
「……ブレイヴに、シロと、グレイス…かぁ」
喉の奥で、何かが小さく鳴る。
笑いか、呪いか、区別がつかない。
「すっごく綺麗だね」
「吐きそうなくらいに」
その夜、治安維持局は式典を開く。
一般市民を招き、正義の再出発を宣言するためのイベント。
正義は“見せる”ものだ。
人は、見たものを信じる。
会場の外には警備員。
金属探知機。
監視カメラ。
厳重 。
でも、結城は知っている。
正義は、守りが下手だ。
自分たちが正しいと信じてるから。
結城は会場の裏手、搬入口へ回る。
黒い箱をひとつ、床に置いた。
中身は爆弾じゃない。
ただの小さな装置だ。
小さく、静かに、確実に働く。
結城はその箱に触れながら、独り言みたいに言った。
「今日はね、殺さないよ」
誰もいないのに、笑って続ける。
「正義サマは死ぬと悲劇になるからさ」
「生きて恥かいた方が、いいでしょ?」
式典が始まる。
ステージには白い幕。
白いライト。
白い拍手。
司会が高らかに言う。
「本日、治安維持局特務課は」
「新たな正義として生まれ変わります!」
拍手。歓声。
市民が涙を拭う。
その瞬間。
会場の大型スクリーンが、ふっと暗転した。
次の瞬間、映像が切り替わる。
そこに映ったのは、過去の記録。
“元・特務課”の作戦映像。
暗い路地。
血。
違法な取引。
銃。
爆破。
誰かの悲鳴。
そして、はっきり映る。
白石結城と、BRAVE、SHIRO、GRACE。
四人が並んでいる映像。
市民のざわめきが、波みたいに広がった。
「えっ? 」
「嘘でしょ……?」
「今の英雄たちが?」
司会が顔色を変えて叫ぶ。
「止めろ!誰だ!!」
ブレイヴが、ステージ上で動く。
一瞬だけ、視線が泳ぐ。
シロはスクリーンを見つめたまま、何も言わない。
グレイスは、微笑みを作ろうとして、失敗した。
かつての家族の顔を、見てしまったから。
会場の照明が一斉に落ちる。
暗闇。
悲鳴。
だが爆発は起きない。
誰も死なない。
代わりに、会場の入口が自動で閉鎖されて
外の看板が点灯した 。
《治安維持局・特務課》
『本日の式典は中止となりました。』
『皆様は安全のため、しばらくその場でお待ちください。』
閉じ込められた。
市民はパニックになる。
「なんでよ?!正義なのに!!」
「助けてよ!!そのための正義でしょ?!」
その声が、結城の一番好きな音だった。
正義が崩れる音。
結城は、会場の天井裏。
配線の間に座っていた。
小さなイヤホンから、会場の音が流れてくる。
彼は、静かに笑った。
「あっははは!!ほらねぇ〜」
「正義って、ほんと危機管理が甘いねぇ」
「守る側の顔して、守られる側のこと何も見てないでしょ」
そして、ポケットから古い身分証を取り出す。
白石 結城
特務課
指でなぞる。
「捨てればいいのにねぇ」
「……捨てたら、僕が空っぽになるじゃん」
「僕だけはやめないよ」
「だって僕、史上最悪の悪党サマだよ?」
そして、目だけで笑った。
「君たちが“正義”になった日からねぇ」