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学園祭の準備は佳境に入っていた。
私は泉の言葉を聞いてから、自分の「勢い」を信じるべきか、かぐやの「完璧な制御」を学ぶべきかで揺れ動いていた。
結局、私はもう一度、かぐやの力を借りることにした。
(よし、完璧な地図を使えば、私でも完璧になれるはず!)
学園祭当日、私たちの『星見カフェ』はクラスの中で一番期待されていた出し物だ。私は飾り付け担当のリーダーとして、備品の最終搬入を任されていた。
かぐやが作った備品の配置図は、まさに『パーフェクト・マップ』だった。
「備品は、倉庫のA区画、右から3番目の棚の、下から2段目」
「配置図の指示通り、カフェ入口の左手には、高さ1メートル50センチの黒い布を設置」
「テーブルは、対角線上に6台、1センチの誤差もなく配置すること」
完璧だ。このマニュアル通りに進めれば、私の不器用さも発動する隙はないはず。
私は、リーダーとしてクラスの数人のメンバーに指示を出した。が、私の衝動、バカさゆえの致命的な誤解が、ここで発動する。
「よし!みんな!まずは倉庫からA区画の右から3番目を持ってくるよ!ただし、1センチの誤差もないように!」
私がそう指示すると、皆は戸惑った顔をした。
「かちゅ?備品の搬入だよ?1センチの誤差って何?」
「え?だって、かぐやの地図に書いてあったじゃん。1センチの誤差もなく配置するって!だから、運ぶときから完璧にしないと!」
私は大真面目だ。かぐやが作った地図には、すべての指示に「誤差なく」「完璧に」という言葉が添えられていた。
私には、その指示が『搬入』の段階から適用されるものだと信じ込んでしまったのだ。
結果、作業は地獄と化した。
失敗その一:棚からの搬出に1時間。
皆が、備品の箱を1センチの誤差もなく棚から引き出そうと、定規と糸を使って奮闘する。
失敗その二:黒い布の設置。
高さ1メートル50センチの布を設置する際、私はメジャーを使って「1メートル50センチ」を測定することに全神経を集中。その結果、布の裏表が逆になっており、巨大なゴミ袋のような黒い裏地をクラスメイトに見せてしまう。
失敗その三:テーブルの配置。
テーブルを「対角線上に1センチの誤差もなく」配置しようとして、メジャーとレーザーポインターまで持ち出し、皆を巻き込んで大混乱。
「もうやだ!かちゅ、頭おかしいよ!こんなの無理!間違ってるでしょ」
「ええ!?だって、かぐやの地図がこう言ってるんだもん!かぐやの地図は完璧なはずだもん!」
私が泣きそうになっていると、陽太が汗だくになりながら駆け寄ってきた。
彼は裏方の警備担当で、こんなところにはいないはずだ。
「かちゅ!何やってんだお前は!備品搬入が全く進んでないって、かぐやから連絡が来たぞ!」
私は涙目で、分厚い『パーフェクト・マップ』を陽太に突きつけた。
「見てよ!この通りにやろうとしたのに、皆が言うこと聞いてくれないんだもん!」
陽太は地図を読み、私の顔を見て、そして大声で笑い出した。腹を抱えて、涙を流しながら笑っている。
「かちゅ!お前、まさかこの『1センチの誤差もなく配置』ってのを、搬入の時から適用しようとしたのか!?」
「え、だって……」
陽太は笑いを収め、私の頭をポンと叩いた。
「バカ!これはな、『テーブルを設置する時に最終的に誤差なくやれ』って意味だ!運ぶ時は、適当でいいんだよ!」
陽太は、私が3時間かけてもできなかった作業を、わずか10分でクラスメイトと一緒に完了させた。
彼は地図なんて見ず、クラスメイトの意見を聞き、大雑把に配置してから微調整を始めた。
作業が終わった後、陽太は私を隅に連れて行った。
「ねえ、かちゅ。お前は地図がなくても、みんなを連れて遠くまで行ける彗星だろ」
「でも、道に迷うじゃん。かぐやみたいに完璧な道筋がいいよ」
「違うよ。かぐやの地図は、かぐやだから使えるんだ。完璧な計画は、完璧な制御ができる人間が使って初めて意味がある。お前みたいな、衝動と勢いで動く人間が使ったら、かえって動きが鈍って迷子になる」
陽太は私に優しく言った。
「お前は、この地図を頼りにする必要なんてない。花千夢という存在そのものが、皆を惹きつける地図なんだから」
私は、かぐやの『パーフェクト・マップ』を握りしめたまま、その言葉の意味を理解できなかった。
完璧な地図を使っても迷子になる。私の不器用さは、本当に治らない病気なのだろうか。私もかぐやになりたかった。
【第7話 終了】