テラーノベル
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「クリスマスなぁ、そりゃまぁ、せっかく週末なんだし。もちろんマメコを構ってやるつもりだけど。な?」
「……え!? あ、は、はい……?」
八木が上体を折って、真衣香に顔を近付け囁くと、顔をほんのり赤く染めて目を泳がせながらも小さくうなずく。
コクコク、と何度も。
傷口に塩を塗り込む痛さとは、まさにこの感覚か。心臓のあたりがぎゅうぎゅうと締め付けられてるように痛く、苦しい。
「んで、坪井はこんなとこで何してんだよ」
八木が刺々しく坪井に問いかける。
“害”になると判断してるうちは近づかせない、と。八木は確かに言った。
色々と解せない部分はあるが、今もなお、そう判断されてることは間違いない。
固まる坪井の代わりに答えたのは真衣香だった。
「八木さん、坪井くんは高柳部長に頼まれた書類を持ってきてくれたみたいです。八木さん宛の」
「へぇ」と、真衣香の肩に手を回しながら答える。
(いちいちいちいち! 触りすぎだろ……仮にほんとに付き合ってても、八木さんのキャラ的に女にベタベタしそうにないのに、しかも会社。仕事中!ふざけんなって)
やはり、見せつけられている。ギリっと奥歯を痛いくらいに噛み締めた。口の中に鉄の味がじわりと広がり気分が悪い。
「どーぞ、高柳部長からです」
一応目上の人間である八木相手に、礼儀もマナーも何にもない。バサッと真衣香を抱き寄せてない方の腕に叩きつけるように書類を渡した。というよりも、押しつけた。
横目に、八木の腕の中、小動物のようにすっぽり収まる真衣香を見てしまう。視界に入った途端、眉間に力が入った。
隠すことも叶わず表情が険しくなってしまっていたようだ。
「いや、なんで睨まれてんだよ俺」と、八木の苛立ったような、ダルそうな声を聞いて。
自分の表情をコントロール出来ていないことに気がついた。
「いや、全然……睨んでないですから……」
慌てて、取ってつけたような笑顔を作るけれど、八木には見透かされていそうで、どうにも居心地が悪い。
坪井は仕事は終わりましたとばかりに「じゃ、お疲れ様です」と早口で言い残し、その場から逃げるように立ち去ってしまったのだった。
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