テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
***
翌日。
担当店舗をまわり追加注文を確認し、年末年始のディスプレイについての打ち合わせも終わらせた後。
直帰しようかとも思ったが、週が明けると何日もせず、すぐに冬休みに入ってしまう。
坪井は、念の為にと会社に戻ることにした。
しかし思えばそれが失敗だったように思う。
時計を見ると19時を過ぎたばかりだ。まど人も多い営業部のフロア。入る前に、自販機に寄ろうとエレベーター付近に立ち寄った。
2階からそのエレベーターを使い降りてきて、今まさに帰宅しようとしている女子社員たち。
ボーッと横目に眺めていると、彼女たちが、はぁ……っと羨ましそうに息を吐き、交わす会話の内容が坪井の耳に届いた。
「八木さんと立花さんはこの後一緒に過ごすのかなぁ、過ごすよねぇ、クリスマスだもんね〜」
チャリン、と自販機に投入しようとしていた小銭を落とした。
まさかの、聞こえてきた名前に強く動揺しているみたいだ。
「仲良さそうに一緒にいたよね、並んで仕事してるだけでもラブラブっていうかさ)
(ら、ラブラブ……ねぇ……、へぇ)
昨日の様子を思い返せば、したくもないけれど、抗いようなく納得だ。
「いいなぁ〜。怖そうだと思ってたけど、立花さんと話してる時の八木さんってすっごい優しい顔してるよね!」
(はは、わかるわかるー……、キャラ変したの? って聞きたくなるよねー)
なんて、いちいち同意してる自分が死ぬほど虚しい。
さすが師走ということで。そこそこ朝から忙しく走りまわって、いい具合に真衣香のことを考えなくて済んでいたのに。
ここにきて一気に押し寄せてきた嫉妬の渦に、心が飲み込まれていくのがわかってしまい肩を落とす。
缶コーヒーを買うどころではなくなり、ゴン……っと壁に頭をついた、その時。
「……うお!」
ブブ!っと、タイミングよく振動を伝えてきたスマホ。慌ててポケットから取り出して眺めると、友人からだった。
(お前かよ)
と、毒づく。真衣香であるわけない……と、もちろんわかっているが。それでもいつもどこかで期待してしてる自分がいる。片想いとやらが見せる願望だ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!