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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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ふくよかな、おとこのこ……。
おとこのこ。
『ママ、あのこ、いたいいたいされてる』
『え? どの子?』
『いたいいたいってないてる』
『本当にあの子? あの子、見た目もふっくらしているしブランド物の服を着ているし、清潔そうよ。本当?』
『忘れなさい。見てなかった。いいね。るかはなにもみていない。いいね』
「流伽ちゃん、あれ~これって言ったらダメな情報だったのかな?」
頭が痛くなって蹲った私に、笹目さんは少し焦ったのち、うーんと唸った。
「なんで見ちゃった流伽ちゃんが苦しいのかしら。一慶くんは頑張って乗り越えているのに。貴方は思い出したら、なんで辛いのかしら」
「なんの話なんですか」
頭が痛くて押える私に、笹目さんは静かに笑った。
「一慶くんはね。流伽ちゃんの幸せだけが一慶くんの幸せだから、だからもう過去なんて全然苦しくも痛くもないのよ」
「だから、何の話ですか」
「ふふ。……分かってるくせに」
笹目さんの目はもう笑っていなかった。
「貴方が胸を痛める必要はないわ。一慶くんには未来しかいらないのよ」
ふふと笑う笹目さんは少し怖い。
穏やかなのに迫力がある。目がいつでも鋭く成りそう。
「相手の幸せを一番に願い、ずっとそばに居たいと思う人。それが運命」
「なるほど。私の幸せを一番願ってくれる人かあ」
「そして背中を任せて戦える、命を懸けて県下の高校を制覇していくうちに熱い感情が込み上げてくる」
それはたぶん、昨日笹目さんが読んだという漫画の話だろう。
やっぱ昭和、平成の漫画を読むのが今は流行ってるんだよね。雑誌とかテレビで散々紹介されたし、子育てが忙しい母親には、家で楽しみ娯楽の一つなんだ。
余計なことを考えてしまったけど、でも私の幸せを考えてくれている人。
それは一河も水咲も家族もそうだと思う。私も皆の幸せを願っている。
でも恋愛対象として考えてくれているとなれば、それはやはり。
「流伽――っつ! 俺の流伽―――っ」
どたばたとカレールーを背中に乗せて走ってきたのは、どこからどうみてもゴールデンハムスター。
「カレーは甘口? 辛口? 中辛?」
「え、一慶さん、甘口派じゃなかったですか? ルームシェア初日に食べたカレーが一番おいしかったですよ」
「流伽が可愛くて分量忘れちまった」
また適当なことを言う。
ハムスターの体なら、香辛料の多い食べ物は絶対にやめた方がいいのに。
「甘口でいいですよ」
「そうか。嫌いな食べ物はないか?」
「ない、かな」
パッと出てくるような苦手な食べ物はない。
それに一慶さんが持ってきたカレールーは全て甘口。逆に甘口以外を答えたら、スーパーまで走って買いに行ってきそう。
「じゃあ夏野菜カレーにするから、野菜も食べてな」
「わ、おいしそう」
「蓮根は素揚げ、軟骨の唐揚げもあるから」
やはりスポーツ選手。カレーに唐揚げとか恐ろしい。
ちらっと覗くと炊飯器は三つ並んでいた。
ジャンガリアンハムスターは6匹、師匠さん、笹目さん、一慶さん。
八人で五合の炊飯器三台か。これってスポーツ選手では普通なのかな。
驚くことばかりだったけど、ここに居る方が一慶さんのことをよく知れると思った。
お見合いセンターの豪華なホテルでのルームシェアは、感覚が麻痺されるんじゃないかな。
豪華で便利で何も不便なく、理想的な場所。そこでお見合い相手とルームシェアって、まるで結婚したら二人はそこに住めるような感覚。
なんとしても私たちを結婚させてさっさと子どもを産ませるために、その人自体を知るってことじゃなくて、一時の間、お姫様や王子様に仕立て上げて、良い思いをさせてその気にさせ結婚に持ち込む。
あのお見合いセンターでのルームシェアは、狡い。
それならばシェアもせず、相手が無機質なパソコンに見えてもお祝い金がもらえるからと結婚する孔一くんの方がまだ清々しい。大嫌いだとはっきり意思表示できる分には。
私はまだ16歳の子どもで、政府に簡単に懐柔されてしまうぐらいちっぽけな立場でしかない。
「流伽―。ご飯できたよん」
「一慶さん」
「なんだい、ハニー」
嬉しそうに私の名前を呼ぶ彼に、私は勝手な妄想な理想を抱いてハムスターにさせてしまった。
「私、貴方がハムスターじゃなくて貴方に見えるまで、ここで一緒に下宿するってことはできますか?」