僕の住む小さな町に、小さな花屋ができた。
従業員は女性が一人…しかも、かなりの美人らしい。
僕は興味本位で花屋の前を通ってみた。
平日の昼下がり…青い空。
誰もいない店内で花束を作る女性。
確かに美人だ…長い黒髪、大きな瞳、白い肌に小さな顔。
儚げな姿はまるで「蝶」の様だと見つめていると…ふと目が合った。
「いらっしゃいませ、プレゼントですか?」
「えっと…はい」
まさか興味本位で来たとは言えず、仕方なく店に入った。
「あの…貴方が、この花屋の経営者…なんですか?」
「そうですよ。私一人で経営してます」
「へぇ…お若いのに」
「若く見えるだけですよ。私、もうアラサーなので」
失礼な話題だと思ったが、彼女が笑ってくれたので安心する。
それにしてもアラサーか…僕より年上だ。
「それで…今回はどんな花を?」
「あ、えっと!…その作っている花束は買えますか?」
特に何も決めていなかった僕は、彼女が作っている花束を指差した。
「こちらは…ドライフラワーにする花束でして」
「ドライフラワー?」
「はい。うちの看板商品なんです」
確かに…天井を見上げれば、沢山のドライフラワーが吊るされている。
「へぇ…看板商品がドライフラワーですか」
「私、ドライフラワーが好きなんです。ずっと綺麗に鑑賞できるので」
「確かに…じゃあ、ドライフラワーをください」
「かしこまりました」
微笑んだ彼女は、やはり蝶のように儚く美しかった。
買ったドライフラワーを受け取る際、僕は勇気を振り絞って聞く。
「あの、お住まいはどちらですか?」
「…え?」
「最近…行方不明者が多発しているの、ご存じですか?誘拐かもしれません。帰り道…危ないので良かったら送りますよ」
彼女は目を見開いて驚いた顔をした。
若い女性の行方不明が多発しているのは事実だし…僕は心から心配して言っている。
「いえ…大丈夫です。行方不明は…家出かと思いますけど…」
少し怯えた表情をした彼女を見て、我に返る。
これではまるで、やばい奴だ。
自分が気持ち悪い人間に感じて、逃げるように家に帰った。
あぁ…誤解させてしまった。僕は何て馬鹿なんだろう。
来月になったら謝りにまた店に行こう…。
申し訳ない気持ちとは裏腹に、脳裏に焼き付くのは…美しい彼女の線の細い身体と、守ってあげたくなる表情だった。
後日
この町で多発していた行方不明が、誘拐殺人だと発覚した。
犯人も捕まった。
若い女性を言葉巧みに誘い込み、殺害。
自分のアトリエに吊るして、血を抜いてミイラ化させていたと言う…
世にも恐ろしい事件だ。
しかも、そのアトリエは犯人が経営している店の二階。
犯人は女。年齢は二十代後半。
花屋を経営していたらしい。
平日の昼下がり…晴れた空。
『私、ドライフラワーが好きなんです』
部屋に飾ったセピア色の枯れた花を見ながら、蝶のような彼女の言葉を思い返した。
コメント
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ドライフラワーが好きな花屋のお姉さんに惚れた彼は一体どーなったんですかね……🤔💭 自分のアトリエに吊るしているって考えただけで恐ろしいです……😱💦今回もゾクッとする怖さがあったけれど最高でした😖👍