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「えー何がいい? 海鮮? ジンギスカン? ラーメン?」
その夜。
優吾のどこか楽しそうな声がキッチンから聞こえてくる。夕食の準備の真っただ中だ。料理は大体彼や北斗がする。
「慎太郎くーん、何食べたい?」
「え、全部美味しそうで分かんないです…」
そっか、と笑った。
樹もふらりと戻ってきて、こたつに入りテレビを見ている。
「じゃあ、ジンギスカンを食べてみたい…かな」
その言葉を受け、「よっしゃあ」と優吾は腕まくりをした。
すると、階段から足音がした。誰かが下りてくるようだ。姿を現したのは、金髪の綺麗な男性だった。慎太郎は思わず息を呑む。
彼は気づき、戸惑った視線をキッチンの優吾に送る。
「あ、今日から仲間入りの森本慎太郎くん。ほら、なんか挨拶しろ」
「…京本大我です」
小さく微笑んで言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「東京のIT会社で働いてるんだけど、テレワークとかいうやつでこっちに来てるんだって。会社の名前なんて言ったかな、忘れた」
ジェシーが説明するが、最後は自分で笑う。大我はスルーし、こたつに足を入れた。
「ってか北斗遅くね?」
ふと思い出したように樹が声を上げる。
「長引いてるんでないの」
優吾はのんびりと返した。
「いつも北斗さんは忙しいんですか?」
慎太郎はジェシーに訊いてみる。
「うん…帰り遅い日も多いね。ま、大丈夫っしょ」
うなずいた慎太郎は、キッチンに向かう。
「優吾さん、何か手伝えることありますか」
「おっ、じゃあ野菜切ってもらおうかな。出来る?」
「はい」
「あと、俺のことは高地でいいよ。みんなそう呼んでるし」
「じゃあ…高地くん」
アハハッと軽快に笑った。「いいねえ、仲間が増えて。楽しくなりそうだ」
と、玄関の扉が開く音がして、「ただいまー」と声があった。おかえりー、とみんなが返事する。
黒い髪の男性が顔を見せた。腕に白衣を持っている。
「あの…」と慎太郎は声を掛ける。「お邪魔してます。今日からお世話になる森本慎太郎です」
男性はさほど表情を変えずに、「そうなんだ。俺、松村北斗。よろしくな」
そう言い残し、リビングを出て行く。
大我と同様受け入れてくれたのかはあまり分からなかったが、ほかのみんなは何も言わない。慣れている様子だ。
しばらくして、鍋から食欲をそそる匂いが立ち上ってくる。
「美味しそう…」
「もしかしてジンギスカン初めて?」
優吾が聞く。
「はい」
「そっか。でも気に入るよ、きっと」と笑いかける。
そして、食卓に料理が並び、グラスにビールが注がれる。6人がテーブルで向かい合った。
「じゃっ、慎太郎くんの歓迎を祝して、乾杯!」
空中でカチンと高らかに音が鳴った。
続く