閑話です。書きたかったので書きました。
そんなこんなではしゃぎまわって、ふと空を見ると月が登り切っていた。気絶していたので私は眠くないのだが、顔を見るにサペンタはそうでないらしい。すごく眠そうにしている。
サペンタも使用人室に戻って明日もあるので寝る、といったので私もそうしようと、小屋に入ったところ。
サペンタが口から零した。
「あ、私、自分の部屋に戻れないんだった…」
「え?」
疑問を口に出した瞬間、サペンタが焦った声で訂正する。
「え、うー…、いや違って。やっぱりなんでもないです。おやすみなさい」
んなアホな。やっぱりなんでもないわけあるか。声は小さかったけれど、ちゃんとはっきり聞こえたのに、その言い訳が通ると思うのか。
そそくさと部屋を出て行こうとするサペンタの肩を身体強化を使って捕まえる。重心が変わってちょっと転びそうになってたので腰も抑えて。
「何が言いたかったのか教えなさい、吐かなければ私と一緒のベッドで寝てもらうことにするわ」
「……口を滑らせたから、わかっちゃったみたいですね」
何もわかっていないので、「?」と思ったが自分から進んで吐いてくれるのなら問題ない。
分かったふりして、「えぇ」とサペンタに言う。
「そうです、私、昨日から使用人用の部屋に戻れないんです。こんな時間に本館の鍵開いてないので。
気を使われたくなくて隠してましたけど」
「…?????」と、一瞬思ったが、そうか、サペンタの言う通りこんな時間なんだから防犯上の理由とかで鍵はあいてないだろう。
いやでも護衛はいるだろう、その人に説明すれば、と言ったが「旦那様の部屋の前にしかいません」だそうだ。それなら入れないか…。
いや、ちゃんと一回考えれば捕まえる前にだってわかることじゃないか。ちゃんと考えてから捕まえればよかった。わかったふりもしなくてよかったのに。
「よし、じゃあ一緒に寝ましょう。それでいいわよね」
勢いで言ってしまったが、本当に一緒になると問題が発生する。どうしよう。
小屋の中は狭い。よってベッドも狭い。二人ベッドに乗ればぎゅうぎゅうだ。
私はさほど寝相が悪いほうではないが、それでも寝返りを打つことがあるだろう。そうなればどちらかが落ちるのは確定。本当にどうしよう。と思っていたけれど、
「大丈夫です。昨日も大丈夫だったので、今日も大丈夫です。おやすみなさい」
なら逆に、ついて行って、一緒に寝てあげるべきだと思った。
体を合わせて眠ることに全く抵抗はない。寒いし、あと豚と寝るのに比べれば全部マシだし。
いろいろしてくれるサペンタに、ねぎらいの意味を込めて、一緒に寝てあげたい。
あとお泊り会みたいで楽しそう。というかお泊り会だけやりたい。
というわけで、場所を聞き出す。
「…ちなみに、どこで寝てるの?」
「木箱のベッドで寝てるあなた様が気を遣うような場所じゃないです。まともなベッド貰ってから心配したらどうですか」
いや、うん。まぁ、それはそうなのだが。
「じゃあ、アンタが寝たら寝るから。寝場所まで案内して」
「いや、木箱のベッドよりはましな場所なので。大丈夫です」
「嘘でしょう。そうじゃなかったら一緒に寝ようなんて言わないわよね?」
「いや、朝のあなた様みたいに寂しかっただけですよ、誰かと一緒にご飯食べたくなるならわかりますよね?
ほら、私、実母が死にましたし」
「じゃあ寝るまで一緒にいてあげるってことで」
「屋敷の外にあるのであなた様はいけません」
「自由時間なら、そうね」
「眠いので早く寝させてください」
「いや、だから寝させてあげるから、連れて行けって言ってるのよ」
「あー、えっとー、一人じゃないと寝れないんです」
「さっきと言ってること矛盾してるわよ。寂しかったとかなんとか言ってたじゃない」
「それはー、えっと、冗談で…誤解させてすみませんね」
追い詰められてどうしようもないとき、人は最終手段に出る。それは「受け入れる」だ。
こことは違う異世界でエリザベス・キューブラー・ロスとかなんかそんな名前の人が言ってる気がする。
「…本当に眠いので、見せたらここに戻って寝てくださいね。
気を遣われるのが嫌でこう言ってます、お願いしますよ」
「…………わかったわ」
サペンタの案内に連れられて、ちょっと歩く。
ここです、と言われたそこには丘があった。上を見ると建物も無く星がよく見えて、草がちょうどいい感じに茂っている。
昼寝するなら太陽にあっためられてちょうどいいだろうけれど、今は夜だ。寒い。寝たら何かしら確実に体調を悪くする。
「…うん、一緒に寝ましょう」
「え、ここから小屋に戻ろうっていうんですか? めんどくさいし、いい加減眠いんですよ」
「いや、そうじゃなくて掛布団だけここに持ってくるわ。だいぶ薄いけど、ないよりマシよね?
しかも私もおまけについてくるから、あったかいわよ」
「別に要らないです。気を遣って言わなかったけれど、よく知らない人と一緒に寝たくないです」
よく知らない人と言われたのは非常にショックだが、無視する。
「風邪ひかれたら困るのだけれど。あの豚、一人倒れたからってもう一人つけてくれるわけじゃないでしょ?
予定がわからなかったりすると大変困るのだけれど」
「明日の予定は今日と一緒ですよ。夜の呼び出しまで一緒です」
「それは知りたくなかったのだけれど、風邪って割と寝込むこともあるじゃない。明日だけの予定を伝えられても困るわ」
はぁ、とため息を吐いてこちらを見てくる。
どうして私がこんなに意固地になっているかというと、お泊り会ごっこがしたいのと、引っ込みを付けたらなんとなく負けたような気がする、つまり、ただの意地という客観視すれば意味の分からない理由なのだが、これはかなり力強い動機だ。
少なくとも、サペンタ側から何かしら対価を差し出されなければ一緒に寝るのは取り消すことはない。
「……もうめんどくさいです、好きにしてください。」
無事勝利。ということで、走って小屋に掛け布団をとってくる。布一枚を持って来るだけなのでらくちんだ。
戻ってみるとサペンタはもう眠る体制になっていた。丘の上に体を横倒して、寝息すら出してそうって感じだ。
黙って横に寝転がり、掛け布団を寝ころびながらかける。
「…だきつかないでください」
「しょうがないじゃない。掛け布団小さいんだから」
「……さみしいんならそういってください。好きにだきついていいですから」
眠りかけなのか、とろんとした声のサペンタの声に、心が揺らされた。
寂しい…?そうか、私は寂しかったのだろうか。お泊り会がしたいというのが寂しさの表れだったのだろうか。
家族から離れて、あんな暴力的なのをさせられて。寂しくならない少女はいないと思うが、私はどうなのだろうか。
…すごく、寂しい気がする。そうなんだ。さみしい。さみしいなぁ。
「寂しいよ、サペンタ…」
思えばこの数日間、いや数年は気を張ってばかりだった。
サペンタと出会って、ちょっと久しぶりに軽口を叩いた気がする。
そういえば、友人と呼べる存在も、今日初めてできた気がする。気がするだけであってほしいが。
さみしい。お父様も、お父様が言うには会えない。力強く、サペンタに抱き着く。
「んぐぅ……やっぱりさっきの、なしで。やさしく、おねがいします。
貴族ですし、わたしより年上なんですからできますよね…」
サペンタって年下なのか、衝撃だ。
いや、それはどうでもいい。これにしては、抱き着いたサペンタの体は冷たい。夜の風に冷やされたんだろう。でも、内側はあったかい。そう、おなかのあたりとか。
私もとろんとして、あたまがまわらなくなってきたころ。寂しさは無くなって、というか、そもそも本当に寂しかったのか?それすらも考えられなくなったころ、それ以上になんというか、「よかった」という感情になったころ。
サペンタが「あったかい」と言ってくれた。そこからは、サペンタの寝息しか聞こえなかった。
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