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こんな感じの毎日が続いて、二か月が経った。
私も暮らしに慣れて、私兵団の訓練にもある程度ついていけるようになった。サペンタとの仲もまぁ、良好だ。少なくとも、タメ口で話してもどちらも怒らないくらいの関係にはなれているはず。
ごはんに関しても多少改善された。サペンタがいうには「最初だけご飯を貧弱にしておいて服従心をなんか出させる目的があるっぽいです」だそうだ。私以外の嫁いできた女の子もこんな感じの洗礼を受けるらしい。怪しい宗教団体かな?
…そして、夜の話だ。いまだに嫌なのには全く変わらない。ふざけるな、って感じすらする。余裕も全くできてなくて、毎回ひぃひぃと苦痛に耐えるほうで言わされている。もうちょっと手心とかないのか、と思ったりもしたのだが、まったくない。
股のあたりが何度か裂けたので、その時は身体強化を治癒力の強化に回す。歩けないのが暇なうえ、雑談相手のサペンタはめんどくさいんで先に寝ときますね、と言って布団を奪って寝に行ってしまう。
しかし、そんな夜の生活も今日で終わりだ。どうやら、妊娠したっぽい。ちょっと遅れたのかな、と思ったがだいぶ長い間来てないのだ。
妊娠すれば、さすがに手出しはできなくなる。私がここに来させられた理由の一つが、「スキル持ちの子供を産むこと」だから。ざまあみろ、豚。
「サペンタ? もうあれ来なくなったんだけど。これって、もう夜のお呼ばれ行かなくていいわよね?」
「…そうなんですか、おめでとうございます」
ちょっとだけ、サペンタが言葉に詰まる。
…あ、そうか。妹か弟かが流れて、母がそのあとに亡くなったんだっけ。それならば、普通の祝福はできないだろう。
トラウマが残ってるのは、かわいいと思ったが、他人の肉親に起きた不幸な過去を嘲笑うのはひどい話だ。この感情は、頭の隅においやってしまおう。
にしても、私が母親か。まさかこの屋敷に引っ越して60日くらいでこんなことになるとは。お父様、いやおじい様になるのか。彼とは全く連絡が取れてないし、教えたら驚くんじゃないだろうか。
あぁ、わくわくする。どうしよう、この胸の高鳴り。責任の重圧よりも、それ以上に期待が勝つ。
これじゃあだめだろう。親として、しっかりしなければいけないのだ。とりあえず、予定の確認だ。
「出産予定日はいつごろになるかしら? ちょっと、いやかなり楽しみになってきちゃった。教育係はあなたに任せるから。よろしくね。あ、そうだ。遊び道具も用意しなきゃ。こんな小屋の中じゃ暇で暇で仕方ないでしょう。ちゃんと木を使って、ささくれ立たないようにして。母である私が直々に作ってあげれば、愛情たっぷりのいい子に育ってくれるかしら。ちょっとぐらいグレても構わないけれど、最後にはお母さま、お母さま、って言ってくれるくらいのお母さんっ子がいいわね。もちろん、サペンタのほうにも懐かせてもかまわないわよ
ほかには何すればいいかしら。えっと、そうだ、教科書。サペンタ、あなたの母親が使ってた教科書とかない? 肉体労働くらいだったらやってあげるから、ちょっと用意してくれないかしら。大事なものかもしれないけれど、ちゃんと大切に使うから。ね?ちょっとだけ。私に見せてくれるだけでもいいから。私の子供用の残りは写すから。
というか、ここ汚くないかしら?ちょっと雑巾持ってきてよ、サペンタ。娘に障ったら困るわ。いや、娘とは限らないわね。息子かも知れないけれど、どっちもかわいいに決まってるわ。あの豚の子供であるサペンタがかわいいのだから、絶対にあいつの遺伝子薄いわよ。
…あ、名前決めましょう。サペンタを父親代わりに育てていこうと今思ったんだけど、じゃあ『サ』を入れたほうがいいかしら。女の子だったら「サラ」、男の子だったら「サーロード」。いいじゃない。これで行きましょう。途中で迷ったらその都度相談しましょうね。
で、話を戻さなきゃ。なんだっけ、そう。出産予定日。いつになる?それまでに準備しなきゃ」
「なんというか、生まれてもないのに子煩悩なんですね。まずは、無事に生まれることを祈るべきじゃないでしょうか。
あと、私をサラッと父親にしないでください」
サペンタに私が”ちょっとだけ”早口でまくしたてたら、
「……いや。まぁ。しょうがなくないかしら?
頼れるものがあなたくらいしかいないわけだし」
「別に、父親なんていなくても人は育つんじゃないですか? 現に、優秀な私がいるわけですし」
「あなたが特殊例という可能性もあるわ」
「そもそも私は女性ですよ」
「何か、エッチなことでもするわけじゃないのに、性別なんて必要かしら?」
その時。普通ならありえない可能性が思いついたので、言ってみた。
「あ、わかった。サペンタ、実は私のこと好きだけど、同性だ「全然違うので黙ってください。頭沸いてます?」はい…」
速攻で否定された。大衆小説だったら二人で「そんな…」とかいいながら、キスとかしちゃう場面なのにも関わらず、速攻で否定して、ついにイカれたか、しょうがない、旦那様に毎日あんな目にあわされたらしょうがないな、とかそういう哀れみの目で見てくる。
「で、でも毎日一緒に寝てるじゃない!実質夫婦じゃないかしら?」
「なんでそんなに父親を求めるんですか… お父さんっ子だったんですか?
とりあえず、必要になったら手助けしますので。安静にだけしてください」
サペンタが冷たすぎる。私がお父さんっ子だったのは事実だけれど、それはそれとして割とこの屋敷においてサペンタに見放されたら終わりなのに。せめて子供が自立する16年後くらいまでは暖かく見守ってほしい。
「いや、16年後とか、だから気が早すぎるんですって。生まれてから考えてください」
「でも将来設計は大事よ」
「将来に夢見すぎてるんですよ、不確定な未来に。
それくらい現実を現実的に考えて生きてればこの館に来ることもなかったでしょうに」