テラーノベル
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私は急いで上の窓に両腕をブンブンと振ってから、軽く数回ジャンプして全身の力を抜く。
ビートだけで始まる曲は大人っぽく、若さに任せたパワー系の技が多いのよ…父が好きだと言ったロス大会の構成は今の私には難しい。
でもあれほど高くまで跳べなくても忠実に同じ振りをしないと、現地でも見てその後も何度も見ている父には違うと分かるだろう。
よしっ…助走なしのバク宙で抱え込まずに身体を伸ばした状態で行う技、フラッシュキック。
ダンスというよりアクロバット…フラッシュキックはなかなか高さが出しにくいからあまり安定せずバク宙の方が簡単だけど…右足を思いきり上に蹴り上げ、左足はそれに後から遅れてついてくるようにして…トン、トン…やったっ、自分がめちゃくちゃ笑っているのを感じながら休まずステップ入れて回ってフロアにタッチ…終わった。
ぅおおおぉぉ…歓声と同時に人も押し寄せてくる…と、身を屈めた私をひょいっと抱き上げた羅依。
そしてタクと兄、緒方先生が羅依の進行方向を確保する。
「婚姻届を出しに行く」
「ぇ?今?」
「今日が第二の人生の始まりだろ?」
「うん…でもどうやって…」
「上で証人欄は埋まってる。俺も署名済み。あとは俺の才花だけ」
そう言って歩く間にもチュッ…チュッ…と時折頬や鼻先にキスが降ってくる。
それを見ていたギャラリーが
「Queenだ」
「Kingが溺愛?」
「Kingの寵愛だっ!」
などと私の知らないところで噂し始めるのだ。
上のスタッフルームには数名のスタッフさんがおられるだけで、父はいなかった。
「勝手なことをしてすみませんでした」
まずはスタッフさんたちに頭を下げて謝ると
「いえ、おめでとうございます」
「社長の勝手という方が当たってると思いますよ」
温かくニコニコと言って頂いた。
そして一人が私に水を差し出しながら
「ここから見るのは三度目です」
とおっしゃるので、ますますごめんなさい…だ。
小さくなる私の前に記入済みの婚姻届が広げられる。
「こんなのいつ用意したの?」
「才花の絶望から救う手段として、いくつもの方法は考えていたからな。才花が岡久先生のところに入院中に届けは手元にあった。書いたのは今日だ」
「タク、ありがとう」
「おめでとう、才花ちゃん」
羅依の証人がタク。
私の証人が父。
「お兄ちゃん…電話貸して」
「親父?ん…」
私は兄が掛けてから渡してくれたスマホを耳に当てた。
「お父さん」
‘才花、おめでとう’
「うん、ありがとう」
‘この前才花に会えたのが人生最良の日だと思っていたが…今夜のような日を迎えて感謝している。ありがとう’
「うん…羅依だよね?」
‘羅依だからな’
「うん」
‘体、無理しただろ?大丈夫か?’
「うん」
‘緒方くんにも感謝だな’
「本当にそうなの。すごくバランスのいい仕上がりなの。強すぎる部分もなく、左右差もなく…左右アンバランスな生活を一時期していたと思えない仕上がりで先生には感謝しかないね」
‘今日の才花を見られた幸せと、一樹を見られたことも嬉しいんだよ’
「うん」
‘兄妹だけでなく…一樹が羅依と拓史と緒方くんと並んでいただろ?一樹の仲間だからね…それが嬉しかった’
「うん、今も4人一緒にここにいるよ」
‘そうか’
「お父さん、サインありがとう。今から出して来るね」
‘気をつけてな。おめでとう、才花。成美も喜んでるよ’
「お母さんにも報告に行くね」
‘お願いするよ’
「うん。じゃあね」
コメント
3件
波が止まらないよぉ。 笑顔でロスのダンスをお父さんにそして自分のために踊った才花ちゃん。 お父さんは、満面な笑みで輝いてる娘を上で迎えて抱きしめたかっただろうと思うと…ああぁ💻が見えないよ〜。才花ちゃんとの再会でお兄ちゃんも仲間とこうやって一緒にいることが増えて、ね、お父さん…😭そして婚姻届の証人がお父さん😭 King✨Queen✨おめでとうーっ🥳🎉🍾🥂✨
悲しすぎるコトもあったけど、、 サイコ~に俺好みに輝いたね✨✨✨ おめでとう🎉
この高揚感、何と表せばいいんだろう。幸せな未来しか描けない❗️