テラーノベル
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電話している間に、兄が鍵を預けたスタッフさんが私と兄の上着などを取って来てくれた。
彼は荷物をコピー機の上に置きながら
「フロアがすごい盛り上がりですよ。いつもより‘踊ろう’という気になっている客が多い」
と笑う。
「分かる、分かる。サイサイに少しリズム取りとステップを教えてもらっただけで‘ダンス’って感じになるんだよ。自己満足に十分なくらいにはすぐに踊れるよな」
緒方先生がそう言うと‘三度目です’と言っていた人がフロアを見下ろしていた視線を私に向けた。
「才花さん、でよろしいですか?」
「はい」
「Scenic Gem責任者の植木です。才花さんにご相談があるのですが?社長、いいですか?」
「ここの責任者の前で俺は無力だ」
「なに言ってんだ…あ、失礼…羅依は俺の後輩なんですよ、社長だけど」
そう笑った植木さんは
「才花さん、火曜日と水曜日の20時のオープンから30分、50人限定でフロアに入れるので、さっき緒方が言っていたリズム取りとステップですか?そんなのをレクチャーしてもらえますか?」
と私を真っ直ぐに見た。
「これは…どういう展開ですかね?」
「火曜水曜が一番客が少ない曜日です。そこへクラブを楽しめるダンスを教えてもらえるというオプションを加えたいんです。バク転なんかはやめて下さいよ?」
「いや…それくらいは分かります…」
何気に失礼じゃないか、植木さん?
「お仕事ってことですか?」
「はい。日給1万円でいかがですか?」
「…30分が日給に変換されてます?それに、50人も集まりますか?」
「30分のために、レクチャーの内容を考えて、曲を決めて、着替えて、ウォーミングアップしますよね?それに50人限定にして通常営業を30分遅らせる。しかも講師が世界的ダンサー。客にとって付加価値的なメリットがとても大きい。才花さん一人が50人集客出来るのですから、1万でも安いですよ」
「なら、サイサイ、もっともらったらいいよ」
「それはいらないけど…クラブダンスってことですよね?」
出来るかな…
「名前にこだわりませんが、そうです。くれぐれも、バク転やバク宙、バク転の途中で止まったみたいなのはダメです。ケガ人が出る。フロアに手をつく動きはなしで…」
「ちょっとしつこく言われてるんだけど…?」
羅依を見上げると
「才花ちゃんの一番ヤンチャな時を‘荒らしか?’と見てた人だからなぁ」
タクがケラケラと笑っている。
「…羅依、これも羅依?」
「いや、初耳」
「Scenic Gemにプラス?」
「確実にな」
「私のダンスが会社に貢献するの?」
「そうだ」
「植木さん、このお話お受けします。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。来週早速いい?」
「…1週間もありませんけど?」
「今からホームページに告知出すから、心配しなくても客は集まるよ?」
「…鬼だ…」
「アハハ、そう言わずにすぐにチャチャッと考えて来てよ。音源の渡し方なんかは社長が知っているし、30分の音を作って来て」
私はカフェでしか仕事をしたことがないから、鬼上司というのが本当に存在するのだと今夜初めて知った。
コメント
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チャッチャッって鬼上司😂羅依の先輩なんだ〜植木さん!ってことはヤンチャだね! 死・苦・夜・露(キ ̄Д ̄)y─┛~~~ っで!その植木さんはさっきのフロアの盛り上がりやサイサイと緒方先生のレクチャーを見て閃いたの?スゴい👏 才花ちゃん🥹ダンスとの新しい生活が始まるね😭嬉しいよ〜😭私も並ぶよ✌(´>ω<`)✌