テラーノベル
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名産品ショップ Fortress の店内。着替えて戻って来たチバラキVのメンバー。倫が壁の時計を見ると午時4時15分。
倫「こりゃ今から店開けてもしょうがないね。今日はこれで仕事終わりにしよう」
沙羅「倫さん、話分かるじゃん。今夜はゆっくり飲みに行けるな」
瑠美「智花さん、どうかした? なんか顔色が悪いよ」
智花「気になって仕方ないんですよ。才能って生まれで決まるものなのかしら」
瑠美「拓君の事? まだ5歳なんだから、そんなに焦る事ないんじゃ……」
智花が声を荒げる。
智花「子ども持った事もないあなたに何が分かるんですか!」
沙羅「おい! 心配して言ってる仲間にそんな言い方があるかよ!」
倫「店の中で喧嘩すんじゃないよ! いいからみんな帰りな」
店を出て道を歩く智花に後ろから玲奈が走って追いつく。
玲奈「智花さん、ちょっといいですか?」
智花「どうかした? 玲奈さん」
玲奈「智花さん、ちょっとどうかしてます。何か悩んでいるのなら、あたしに聞かせてくれませんか?」
智花「さっきのは悪かったと思ってますよ。でも玲奈さんに関係ある事じゃないし」
玲奈「いえ、あります! あたしはレッド。戦隊のリーダーですから。チームワークに悪い影響が出るならそのままにできません」
智花「あ! 確かに……そうだよね。分かった。亭主に電話するからちょっと待って」
智花がスマホを取り出し電話をかける。
智花「もしもし、あ、私。悪いけど晩御飯は拓と適当に外で済ませてくれない? あたしちょっと市役所の仕事の打ち合わせが入っちゃって。うん、うん、ごめん。じゃあ」
智花が電話を切り玲奈に向き直る。
智花「じゃあ、居酒屋付き合ってくれる? 素面じゃ話しにくい事でね」
場面転換。大衆居酒屋の奥の席。向かい合って座りビールと焼鳥を前に話す玲奈と智花。
智花「私が元女子プロレスラーだった事は前に話したよね」
玲奈「はい。あたしもジムの名前だけは知ってました。有名な団体ですよね」
智花「あたしはそこでこう呼ばれてたのよ。無勝の女王って」
玲奈「はい? ムショウ?」
智花「私の選手としてキャリアは5年。戦績は100戦100敗ゼロ勝。一度も試合で勝った事がないから、無敗ならぬ無勝の女王ってわけ」
玲奈「智花さんって力持ちだし、運動神経悪くないし。それでも勝てないモノなんですか?」
智花「プロレスって、最初の3分の2までは一応シナリオがあんのよ。試合は一種のショーだからね。こう技の応酬して、ここでこっちがピンチになって、次にあっちがピンチになってとかね」
玲奈「へえ! 知らなかった」
智花「で、最後の3分の1の時間でガチンコの真剣勝負。ここからはお互い手加減なしのレスラー同士の本気の戦いになるわけ。私は一度も勝てなかった」
智花がジョッキのビールを一気に飲み干し、店員に大声で言う。
智花「すいませーん! ビールお代わり。大ジョッキで」
玲奈「そんなに飲んで大丈夫ですか?」
智花「酔わなきゃできないのよ、この話」
お代わりのジョッキがテーブルに置かれ、智花が続ける。
智花「試合に負けても終わったら、お客さんにはヘラヘラ笑って愛想振りまかなきゃいけない。体(てい)のいいピエロの役だよ。顔は笑ってても心の中じゃ泣いてたのよ」
玲奈「そうだったんですか。バレーボールではそんな気遣いないですね」
智花「結局、才能がなかったのよ。あるいは適性がなかった。100回目の試合で負けた後、ジムの会長からとうとう引退を勧められてね」
智花がビールのジョッキをドンと音を立ててテーブルに置く。
智花「自分の才能や適性をきちんと見極められなかった人間の成れの果てなのよ、私は! 自分の子どもには、将来こんな惨めな思いして欲しくないの! だから拓にどんな才能や適性があるのか、できるだけ早く知りたいのよ」
すっかり暗くなった路上。少しふらつく足取りで家路につく智花を見送る玲奈。
玲奈「大丈夫ですか? ずいぶん飲みましたもんね。あの、お宅まで送りましょうか?」
智花「ああ、大丈夫、大丈夫。みっともない愚痴聞いてくれてありがとうね。じゃあ、お休み……ヒック」
遠ざかる智花の後ろ姿を見送る玲奈。
玲奈「子どもに自分と同じような苦労はさせたくない……それ自体は正しいんだろうけど」
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