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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第63話 澪視点〚知らないところで守られていたと後で知る回〛
その話を聞いたのは、
夜だった。
部屋に戻って、
少し落ち着いた頃。
歯を磨き終えて、
ベッドに腰かけていたら、
玲央が何気なく言った。
「今日さ、
海翔、結構動いてたよ」
「……え?」
私は、
思わず聞き返した。
玲央は、
軽い調子で続ける。
「真壁が動くたびにさ、
位置、変えてた」
「近づかせないように、
自然に」
一瞬、
意味が分からなかった。
「……え、
でも、私、
普通にえまとかと話してたよ?」
「うん。
だからだよ」
玲央は、
少しだけ真面目な顔になった。
「澪が“普通”でいられるように、
って感じ」
その言葉が、
胸の奥に
静かに落ちた。
(……知らなかった)
今日一日を、
思い返す。
えまと笑ったこと。
湊のボケに吹き出したこと。
写真を撮ったこと。
全部、
いつも通りだった。
——でも。
それは、
“何もなかった”からじゃない。
「……私、
全然気づかなかった」
そう言うと、
玲央は肩をすくめた。
「気づかせないようにしてたんでしょ」
その瞬間、
胸が
きゅっとなった。
(また、
知らないところで)
(私のいない場所で)
誰かが、
私のために
動いていた。
安心と、
申し訳なさと、
少しの怖さ。
全部が、
混ざる。
(私は、
守られてる)
それは、
分かっていたつもりだった。
でも。
“どれだけ”
守られていたのかは、
知らなかった。
布団に潜り込んで、
天井を見る。
暗い部屋の中で、
海翔の顔が浮かんだ。
今日、
特別なことは
何も言われなかった。
いつも通りだった。
(……だからこそ)
(重たい)
優しさが、
重くなる瞬間がある。
ありがたいのに、
逃げたくなる。
でも。
同時に、
思う。
(私が知らないところで、
私の“普通”を
守ってくれてた)
それは、
怖いけど。
少しだけ、
あたたかい。
スマホを手に取って、
海翔にメッセージを打とうとして——
やめた。
今は、
言葉にできない。
(ちゃんと向き合うのは、
もう少し先でいい)
そう思って、
目を閉じる。
知らなかった。
でも、
知ってしまった。
この安心は、
誰かの覚悟の上にある。
——その事実だけが、
静かに、
胸に残っていた。