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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第64話 修学旅行2日目〚九人で歩く、同じ京都〛
朝の京都は、
少し冷たくて、静かだった。
ホテル前に、
1班の九人が集まる。
澪、えま、しおり、みさと、りあ、
海翔、玲央、湊、真壁恒一。
「今日は清水寺から行こっか」
海翔の一言で、
自然に動き出す。
坂道。
土産物屋。
八つ橋の匂い。
「写真撮ろー!」
えまが言って、
みんなで笑う。
湊は少し遅れて、
でも今日はコミュ障モードじゃない。
「……京都、
思ったより坂多いな」
ぽつっと言って、
それだけで笑いが起きた。
澪は、
その輪の中にいた。
昨日、
「守られていた」と知った。
でも今日は、
“普通”だった。
——少なくとも、
そう見えていた。
***
問題が起きたのは、
清水寺を出た後だった。
「次、
この通り行けば——」
海翔が地図を確認している間に。
「あ、ここ!」
真壁恒一が、
急に声を上げた。
「この店、
テレビで見た!」
誰かが止める前に、
真壁は店の中に入っていった。
「……え?」
「ちょ、
真壁?」
呼び止める声は、
聞こえなかった。
数分後。
「……いないよね?」
「……いない」
ざわっと、
空気が変わる。
「……連絡、取れる?」
澪の声は、
少しだけ震えていた。
海翔がすぐに、
スマホを出す。
——出ない。
——少しして、
やっと繋がる。
「……今どこだ?」
『え?
えっと……
よく分かんない』
海翔は、
深く息を吸った。
「動くな。
そこにいろ」
場所を聞き出して、
再集合。
迷子は、
無事に“回収”された。
***
「……なんで勝手に行くの?」
えまが、
抑えた声で言う。
真壁は、
きょとんとした顔だった。
「え?
別に悪くなくない?」
「時間、
決まってたよね?」
しおりの言葉にも、
真壁は首をかしげる。
「みんな、
細かくない?」
その空気の中で。
真壁は、
澪の方だけを見た。
「……ごめんね、澪」
その一言に、
空気が、
一気に冷えた。
澪は、
言葉に詰まる。
「……う、うん……」
それだけ言うのが、
精一杯だった。
でも。
えま。
しおり。
みさと。
りあ。
海翔。
玲央。
湊。
全員の表情が、
一瞬で変わった。
(……なんで、
澪だけ?)
誰も、
口には出さなかった。
でも、
伝わった。
「……もう時間ないね」
海翔が、
静かに言う。
本当は、
もう一か所
行く予定だった。
でも。
その場所は、
行けなくなった。
***
それでも。
お土産屋を回って。
抹茶を飲んで。
写真を撮って。
「これ、
可愛くない?」
「え、
それ澪っぽい」
笑顔は、
ちゃんとあった。
——真壁恒一を除いて。
澪は、
気づいていた。
(……私だけに謝るの、
違う)
(でも、
言えなかった)
4時頃。
電車に乗って、
ホテルへ戻る。
窓の外に流れる、
京都の街。
澪は、
膝の上で手を握った。
楽しかった。
でも、
どこかで。
“同じ班なのに、
同じじゃない”
その感覚が、
はっきりと残ったままだった。