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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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今日、私はここから飛び降りる。

ここは至って普通の学校の屋上。

屋上に入れる学校なんて珍しいと思う。

それだからか屋上理由で入学してきた人だって

沢山居る。

よく屋上から飛び降りたら死ぬだなんて

言うけど、結局は打ちどころの問題だと思う。

頭から落ちれば多分、案外低くても死ねる。

でも、頭じゃなくて、

打ちどころが良い場所だったら?

きっと重症で済むだろう。

それでも私は死にたいんだ。

この世界に飽き飽きしたんだ。

私は人見知りで、

人に話しかけるのが怖くて、

失敗が怖くて、

何もかも出来ない無能なんだ。

でも、1つだけ出来ることがあった。

それはヴァイオリンが弾けるということ。

でも、

これは好きで弾いてるわけできっと上手くない。

きっと才能でも何でもない。

だってプロになりたいとか

そういうんじゃないんだもん。

そう思いながら私は柵の外に立つ。

そのとき、

「ねぇ、飛び降りるの?」

という声と共に柵の内側に男子生徒が現れた。

まるで幽霊のように。

私は驚きながらもその人の足元を見る。

赤色の上靴。

3年生の先輩だった。

幽霊だと思ったが足は透けていない。

普通に先輩なのだろうか?

こんな時間には誰もいないと思ってたのに…。

「てか僕暇なんだけど、少し話し相手になってくれない?」

話し相手?

私、人見知りだから会話成り立たないと

思うんだけど…。

そう思いながらも私はなぜだか頷いてしまった。

「じゃあさ、好きなことってある?」

「…好きなことですか?」

「そう、好きなこと!」

「私は────」

『私はヴァイオリンを弾くのが好きだ』

そう口に出そうとしたが声が出ない。

前にもこんなことがあったからだ。

私は自分に話しかけてくれたことが嬉しくて

色々1人でバーって話しちゃった時、

その子は少し引いていた。

きっと興味がなかったのだろう。

あの時の目が怖いんだ。

きっとそうなんだ。

「私は、何?」

目の前を見ると不思議そうに顔を覗き込む男子生徒。

「….その前にあなたの名前はなんですか?」

私は話を逸らすため、出任せに喋った。

「名前?….言わなくてもいい?」

聞いたのに言わないっていう選択肢は

有りなのだろうか。

「逆に聞くけど君は?」

「…佐藤、未佳です」

きっと聞こえていないだろう。

そんなくらい小さく、枯れた声でそう言った。

「みか…未佳ね!」

でも聞こえていた。

ただそれだけなのになぜだか嬉しかった。

きっと私は単純なやつなんだろう。

「それで、未佳ちゃんの好きなことって何?」

微笑みながら聞く名無しの先輩。

言ってもいいのだろうか。

言ったら、

もしかしたら、

話が弾むかもしれない。

でも、

もしかしたら、

あの時と同じ目をされるかもしれない。

そんな考えが頭の中で

ぐちゃぐちゃに混ざっていく。

それでも、信じてみたい。

この人の微笑みを信じて話してみたい。

そう思った。

「私は──、ヴァイオリンを弾くのが好きです」

「ヴァイオリン?」

「いいね!」

「ここに持ってくることって出来る?」

「ぇ….?」

想定外の反応に私は驚いた。

私の話に興味を持ってくれる人が居たんだって。

私を同等の立場で話してくれるんだって。

あの時のような引いた目じゃなくて、

そんなにキラキラとした目で

私と話してくれるんだって。

凄く胸が苦しくなった。

「どうしたの?」

この人の声はよく耳に響く。

重くなくて、

透き通っていて、

とても綺麗だと思う。

「なんでもないです」

「僕、君の弾くヴァイオリンの音色が聞きたいな」

私の音色が聞きたい?

『もし微妙な反応をされたら?』

そんな悪魔の囁きが頭の中で響く。

それと同時に

『でも、きっと、この人はそんなこと言わない気がする』

という天使の声も聞こえた。

「明日…またここに来て弾きます…」

「いいの?」

「はい」

「じゃあ待ってるね!」

そう言って犬のように笑う名無しの先輩。



先輩は私の弾くヴァイオリンの音色を

黙って聞いてくれた。

褒めてくれた。

「私、先輩のおかげでなんだか心が軽くなった気がします!」

「それは良かった」

「また明日も会えますか?」

「…どうだろうね」


そう言って先輩と別れ、

次の日私は屋上に行ったが、

先輩の姿は無かった。

それどころか、

先輩の声も姿も思い出せない気が….。


でも私、

先輩のおかげで新しい友達が出来たんです。

きっと先輩のおかげですね。

先輩、

また会えたら私の弾くヴァイオリンを

聞いてくれますか?



𓂃◌𓈒𓐍


「未佳、君にはまだ未練が残っていただろう?」

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