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第98話 〚拒まれた未来〛(恒一)
夜。
部屋の明かりは消えているのに、
恒一の目だけが冴えていた。
(……おかしい)
これまでなら、
澪の動きは“読めた”。
どこに行くか。
誰といるか。
どんな表情をするか。
すべて――
自分の中では、繋がっていたはずだった。
◆
「……違う」
小さく、声が漏れる。
最近の澪は、
“見えない”。
いや、正確には――
見えているはずの未来が、成立しない。
◆
恒一は、机の引き出しを開ける。
中には、
過去に思い描いた“未来”がある。
同じ帰り道。
同じ時間。
二人きりになるはずの瞬間。
(このはずだった)
何度も、
頭の中でなぞった未来。
◆
けれど。
澪はそこに、来なかった。
予想していた場所に現れず、
想定していた反応もせず、
何より――
迷っていなかった。
◆
「……選んだ、ってことか」
その言葉を口にした瞬間、
胸の奥が、ひどく冷えた。
澪は、
“流されなかった”。
誰かに守られる側にも、
縋る側にもならず。
自分で、選んだ。
◆
(拒まれた……)
恒一は、
初めてその事実を真正面から理解する。
自分が思い描いた未来は、
澪にとって――
いらない未来だった。
◆
窓の外で、
遠くの電車の音が響く。
恒一は、
マスクを外したまま、
虚ろな目で天井を見つめた。
「……まだだ」
掠れた声。
「まだ、終わってない」
◆
でも。
その言葉に、
以前の確信はなかった。
未来を“掴める”と思っていた手は、
今、何も掴めていない。
◆
恒一は、
ゆっくりと拳を握る。
(拒まれたなら――)
(別の形を、考えるしかない)
その考えが、
静かに、歪んでいく。
◆
一方で。
澪の未来は、
もう“恒一の想像”の中には存在しなかった。
彼女の未来は、
彼女自身と、
選んだ誰かの手の中にある。
恒一は、
初めて知った。
未来は、奪うものじゃない。
――そしてそれが、
最も残酷な拒絶だということを。