テラーノベル
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日曜日。さやかちゃんとの約束の日。 清桜駅の前にある、どうしてここにあるのかよく分からない女神像の前。
今の時間は、9時55分。約束の時間まで、あと5分。
普通なら、もう到着してていい時間だ。特に、さやかちゃんみたいなタイプは、時間前に来るものだと思うけど、いまだに姿が見えない。
やっぱり、描画範囲外で消えちゃってるから、会えないって事なのかなあ。
ぐぬぬ、この世界に携帯電話があれば。
初代さくハイが発売された頃は、肩から下げるタイプの、今の感覚だと冗談みたいな大きさの携帯電話しかなくて、ほとんど普及もしてなかったはず。
そういう時代のゲームだから、登場人物は携帯でやり取りなんてしない。私も出来ない。
こういう状況になったら、待つしかないのが辛い。
しかも、相手はおそらく来ない。相手に来る意思があったとしても、姿が消えてしまうのでは、来れないも同然だ。
まあ、待つよ? 何時間でもとは言わないけど、一時間くらいは待つよ? それでも、やっぱり寂しいものは寂しい。
「佐伯さん!」
へ、今の声は?
「ごめん、遅くなっちゃった。アタシが頼んだのに」
声の方を振り向けば、笑顔のこのみちゃんと、申し訳なさそうなさやかちゃんがいた。
え?来るの? いや、来るだろうけど、ここ、描画範囲外だよ?
「佐伯さん、どうしたの? そんな顔して」
「アタシ達が、一緒に来たから、驚いてるのかな?」
「あ、そうそう。そこで偶然、橘さんと会って、お喋りしながら来たら、遅く来ちゃった。待ったよね、ごめんね」
いや、待ち合わせ時間の2分前だから、遅くなってないよ。このみちゃんは、遅れる事に慣れてなさそうだ。
「え……、あ……、な……なんでもございません。考え事をしていたら、ちょっと呆けてしまって。そもそも、まだ約束の時間にもなっておりませんから、謝られては罰が当たってしまいます」
内心、結構動揺してるのだけど、なんとかいつもの調子で返せた……と思う。
いや、本当になんで来たの、いや、来られたの。
いや待てよ、描画範囲外で消えるというのは、私の推測でしかない。
他の条件があって、それで描画範囲の法則が変わるとか、なんとかかんとかあるって事かも?
「そ、それじゃあ早速行きましょうか。善は急げと言いますし」
「うん、行こ行こ!」
「今日はよろしくね、佐伯さん、小鳥遊さん」
「はい、よろしくお願いします」
駅前には、服飾店はたくさんある。
大型店は、ちょっと駅から離れた所にあったりするから、駅ド真ん前の店は特化型だったり、意外とマニアックな店がだったりする。
「まさか……、あそこに行かないよね?」
さやかちゃんが恐る恐る指差したのは、この辺りじゃ有名なロリィタファッションの専門店。
ピンクの甘ロリ、モノトーンのゴスロリ、これでもかと盛られたフリル。店員さんまでゴスロリで、お人形さんみたいな顔つきの可愛い娘ばかりだ。
ここは、ガールズサイド3作目で、主人公が攻略対象のイケメンに、半ば無理矢理ロリータファッションを着せられた店じゃないか。
物語に出てこないだけで、初代の頃からあったのか。
「ああいうのは、お気に召しませんか」
「アタシには、あんなの似合わないよ」
さやかちゃんは、赤面しながら、おどおどした口調で否定する。
本当は、カワイイ物が好きなのに、それを隠して生きてる。ステータスには、そう書いてあった。
こういう機会でもないと、着られないし、着せてあげる事も出来ない。
けど、本人はノーと言ってるから、ロリィタのお店に押し込むなら、タイミングをよく見極めないと、ブルドーザーが再起動してしまうかもしれない。
「橘さんは、かっこいい系だと思うから、そういうお店より、普通のレディースのお店がいいんじゃないかな」
そうこうしてるうちに、このみちゃんが一般的なアドバイスを出す。私としても、それが無難だと思う。
「そうですね、では、レディースのお店に入りましょうか」
みんなで、近くの店を選んで入ってみる。
お店の中は、どこにでもある普通のレディース向けの洋服店だ。
正直、今のさやかちゃんの服装、Tシャツにジーンズって組み合わせは、似合ってはいるけど、シンプルすぎる。
スタイルが良いから、何を着せても似合うと言えばそうなんだけど、せっかくのデートなんだから、もうちょっと女の子らしい格好をさせたい。
じゃあ、どんなのを着せたらいいのかと言われても、私には分からない。というかもう、最 終的にロリィタを着せるプランしか頭に無い。
「佐伯さんは、どんな格好させたいと思う?」
いつの間にか、さやかちゃんが私の顔を覗き込んでいた。
「橘さんは、鍛えていてスタイルが良いので、短めのスカートで脚を見せるとかいかがでしょうか?」
「スカートかぁ……、制服以外で着るなんて、考えたことも無かったけど、着た方がいいのかな」
「朝倉くんも男の子ですからね。喜んでくれると思いますよ」
「そっか……、だったらいいかも」
さやかちゃんは、ちょいちょい照れたように恥じらう。
男勝りな空手少女も、やっぱり女の子なんだなぁ。
**********
「小鳥遊さんは?」
私が提案したコーデを、一通り試した後、さやかちゃんは今度はこのみちゃんの方を見る。
「うーん、試着を見て思ったんだけど、もっと可愛い格好が似合うと思う」
このみちゃんは、さやかちゃんが試着している最中も、イマイチ納得いかないと言いたげな顔をしていた。
さっきはこのみちゃんも、かっこいい系が良いって言ってたけど、考えが変わったみたい。
このみちゃんの方が、絶対ファッションには詳しいはず。ここは、彼女の美的感覚に任せよう。
描画範囲の問題もあるけど、このみちゃんを呼んだのはこのためだ。
「可愛い格好って言うと、どういうの?」
「もっとピンクとか、可愛い色も入れて、フリルとかも欲しいかも………あっ、そうだ!」
このみちゃん、今アナタ、何を思いついたの。目がキラキラ輝いてるよ。
いや、何を思いついたかは分かってるけど、このみちゃんからその発想が出てくるとは、思わなかったよ。
「さっきのロリィタのお店、行ってみようよ!」
「え……、あそこ……行くの?」
さやかちゃんは、私の方に顔を向けてきた。
私は、ロリィタを着せたかったから、この展開は嬉しい。ただし、ブルドーザーにエンジンが掛かっちゃわないか、心配になる。
「ま……まあ、ロリィタドレスだけがロリィタではありませんし、アクセサリー一つでも、可愛い印象になるかも知れません。見るだけ見ましょうか?」
「分かった……、見るだけなら……」
********
ロリィタファッション専門店。
入るや否や、お人形さんみたいなロリィタ店員達が、一斉に挨拶をしてくれた。
「いらっしゃいませ〜〜」
おお、すんごいアニメ声。
こちとら、ギャルゲーのヒロイン二名とモブ一名なのだけど、わたし達がビビるレベルで萌え萌えアニメ声。
いやまて、店員さん達もギャルゲー世界の住人だわ。同じモブなら私より可愛くても、なんの不思議もないか。
「本日は何をお探しですか〜?」
店員さんが早速、わたしとこのみちゃんに話しかけてきた。
店員さんには、ロリィタファッションを見に来たオタク二人と、訳も分からず連れてこられた連れに見えるだろう。
フッフッフ、甘いな。客はその連れなのだよ。
「お友達の、デート衣装を見繕っておりまして、あーでもないこーでもないと悩んでいた所でございます。
こちらに来れば、何か知見が得られるのではと思いまして、ここに連れてきたという次第です」
さやかちゃんの手を引いて、店員さんの前に突き出した。
さやかちゃんは、ファンシー空間に見とれて、すっかり呆けている。
今の話を、聞こえてたかな? 多分、耳に入ってない気がする。心ここに在らずって顔だ。
「まあ、デートの御予定ですか〜。それは、誠心誠意お手伝いさせていただきますね」
店員さんは、猫なで声のまま、さやかちゃんの手を握って、試着室の方へ連れて行こうとする。
手を引いている店員さんは、かなり年が行ってる感じ(アラフィフくらい?)だけど、声と動きがつくと、フランス人形が動いているように見えるから不思議だ。
他の店員さんも、ドレスを用意したり、アクセサリーを選んだり。
今から、さやかちゃんを飾り付けしてやろうと、みんな目をキラキラさせている。目を強調したメイクも相まって、目力がすごい、下手したら殺気の域だ。
持ってるのはロリィタファッションだけど、気迫だけならチェストー! と斬り込む薩摩藩士もかくやだぞ。
「こちらへどうぞ〜」
店員さんが、試着室のカーテンをさっと開けて、さやかちゃんを中に招き入れる。
その試着室が、めちゃくちゃ広い。三畳くらいある。
フリフリドレスなんて、一人じゃ着られないし、着付けをする店員さんも入る。その上店員さんもフリフリだから、広く作られてるんだろうな。
「お姫様、準備をさせていただきますね」
「え……」
お姫様と呼びかける声を聞いたさやかちゃんは、ようやく正気に戻ったけど、時すでに遅し。
ロリィタ店員二人と共に、さやかちゃんはカーテンの向こうへ消えた。
#見るなら自己責任で
えれめんたる
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