テラーノベル
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秋が深まり始めたある日の放課後。
教室の窓から差し込む夕陽が、
机の上を橙色に染めていた。
ひなはノートを鞄にしまいながら、
隣の席に座る恵ちゃんの様子をそっと見つめていた。
最近、少しだけ様子がおかしい。
以前のように明るく笑ってはいる。
けれど、
時折ふっと表情が曇る瞬間があった。
誰にも気づかれないように、
ほんの一瞬だけ。
「恵ちゃん、大丈夫?」
帰り支度をしながら、
ひなは小さな声で尋ねた。
恵ちゃんは一瞬だけ驚いたように目を見開き、
すぐに笑顔を作る。
「え? 全然大丈夫だよ!」
いつもの明るい口調。
でも、
長い付き合いではないはずなのに、
ひなにはその笑顔の奥にある不安が見えてしまった。
「……無理してない?」
その言葉に、
恵ちゃんの手がわずかに止まる。
「ひなって、ほんと鋭いよね」
苦笑しながら、
恵ちゃんは視線を伏せた。
「ちょっとだけ……考え事してるだけ」
「そっか」
ひなはそれ以上問い詰めなかった。
話したくないことを、
無理に聞き出したくはなかったから。
その日の帰り道。
学生寮へ向かう途中で、
ひなは偶然綾小路くんと並んで歩くことになった。
秋風が白い髪を揺らす。
「最近、恵ちゃんの様子がおかしい」
ひながそう言うと、
綾小路くんはわずかに視線を向けた。
「そうかもしれないな」
あまりにも淡々とした返事。
けれど、
その声にはどこか含みがあった。
「綾小路くん、何か知ってるの?」
彼はすぐには答えなかった。
しばらく歩き続けた後、
静かに口を開く。
「知らない方がいいこともある」
その一言に、
ひなの胸が少しざわついた。
「でも」
綾小路くんは足を止め、
ひなの瞳を見つめる。
「お前が気づいたことには意味がある」
「……え?」
「軽井沢のことを気にかけてやってくれ」
それは、
彼にしては珍しい頼みごとだった。
「うん、もちろん」
ひなが力強く頷くと、
彼は小さく目を細めた。
「お前なら、きっと支えになれる」
その言葉に、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
自分にも、
誰かを支えられる力があるのかもしれない。
その夜。
ひなは寮のベッドに横になりながら、
昼間の恵ちゃんの表情を思い出していた。
無理に作った笑顔。
どこか怯えたような目。
そして、
綾小路くんの静かな言葉。
『軽井沢のことを気にかけてやってくれ』
親友の違和感。
それは、
まだ形の見えない不安の始まりだった。
けれどひなは決めていた。
もし恵ちゃんが苦しんでいるなら、
今度は自分が支えたい。
かつて、
たくさんの人に支えてもらったように。
窓の外では、
秋の風が静かに木々を揺らしている。
その音を聞きながら、
ひなはそっと胸に手を当てた。
友情も、
恋も、
そして新たな試練も。
すべてが少しずつ動き始めていた。
コメント
1件
読了しました📖 恵ちゃんの違和感、とても丁寧に描かれていて、胸がきゅっとなりました。ひなが彼女の“ほんの一瞬の曇り”を見逃さなかったところ、すごく優しいなって。綾小路くんの“知らない方がいいこともある”って台詞も重くて、でも最後の“お前なら支えになれる”で救われる感じがしました。親友の異変に寄り添おうとする決意が、夕陽と秋風の描写にぴったり合ってて、すごく好きです。続きが気になる……恵ちゃん、大丈夫かなあ。
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