テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
れもんてぃ🍋
無一郎の決意
・・・・・・・・・・
柊依さんが上弦の壱の鬼と戦い負傷して帰ってきてから、僕と有一郎は今までよりもっと修行に励むようになった。霞の呼吸も水の呼吸も、それぞれの剣技に更に磨きをかける。
1日でも早く強くならなくちゃ。たくさん鬼を倒して階級を上げなくちゃ。柊依さんと同じくらい…、いや、もっと強くなって彼女を守るんだ。柊依さんは、僕たちのお師匠様で、大事な家族なんだ。
柊依さんが蝶屋敷に運び込まれてから10日経った日、ついに彼女が意識を取り戻したという伝達を受け、僕も兄さんもそれぞれの修行場所から一目散に走って蝶屋敷へ向かった。途中、脚が縺れたりすっ転んだりしながら、それでも構わず柊依さんのところへ急いだ。
10日とちょっと振りに見た柊依さんの笑顔。僕も兄さんも勢いよく彼女に抱きついてわんわん泣いた。僕たちを抱き締めてくれた柊依さんの華奢な身体は、10日程寝たきりだったせいか筋肉が落ちて少し小さくなっている気がした。
それから更に2週間くらい経って、柊依さんはようやく花柱邸に帰ってきた。屋敷で働く隠の人たちも大喜びで、兄さんと僕も嬉しくて堪らなかった。
柊依さんは蝶屋敷でも機能回復訓練を受けてきたらしいけれど、まだ完全に復活した感じがないから、と僕と有一郎を相手に出合わせして欲しいと頼んできた。2対1で、しかも柊依さんは療養期間が明けてすぐなのに大丈夫か心配した。でも自分が寝ている間にいっぱい修行していた僕たちの剣技を見たいって言ってくれて。しんどくなったらすぐ中断するという約束で僕たちは木剣を構えた。
『2人ともすごく強くなったね!びっくりしちゃった』
「えへへっ…、ありがとう」
「いっぱい稽古したんだよ。早く強くなって柊依さんを守らないといけないからね」
『私を?』
僕の言葉に柊依さんが群青色の瞳を大きく見開いた。
「そうだよ!もっと強くなって柊依さんを守るんだから」
「お、俺だって同じ思いだよ!」
負けじと兄さんも口を開く。
『ふふ。2人ともありがとう。頼もしいね』
柊依さんはそう言って優しく微笑んだ。
その日の夕食は久し振りに柊依さんと一緒に食べた。療養中、お粥から少しずつ胃を慣れさせていた柊依さんは、もう普通の食事ができるようになっていた。
「柊依さん、お願いがあるんだ」
『どうしたの?』
「料理教えて欲しいな」
「は!?お前、1人で米も炊けないような奴が何言ってるんだよ」
兄さんは山で暮らしていた時から料理をしていたからいいけれど、僕はからきしだ。兄さんが驚くのも無理はない。
「これから炊けるようになるからいいんだもん。自分が好きなものくらい自分で作れるようになりたいし」
『ふろふき大根?』
「うん!」
『もちろんいいよ。覚えたいって思ってる時がいちばん吸収が早いから。無一郎くんにも料理教えてあげるね』
「やった!ありがとう!」
「結局自分の好きなものかよ」
喜ぶ僕に対し、兄さんはじめっとした視線を向けてきていた。
「柊依さん」
『はーい』
その晩、僕はまた柊依さんの部屋を訪ねた。
『どうしたの?』
「…ぎゅーして……」
『いいよ。おいで』
部屋に入り、腕を広げてくれた柊依さんに抱きつく。あったかい。安心する。嬉しい。幸せ。
「…柊依さん……。僕ね…、嫌な夢を見たんだ。柊依さんがどんどん遠くに行っちゃって、なかなか追いつけなくて、それで、誰かに柊依さんが斬りつけられて死んじゃう夢…」
『物騒な夢ね』
「その夢を見た日、柊依さんが大怪我したって連絡があったんだ。…夢の中の柊依さん、血がいっぱい出て、やっとの思いで僕が傍に辿り着いた時にはもう手遅れで。……怖かった…」
今でもはっきり覚えている夢の内容。怖くて悲しくて、また涙が出てくる。
たとえ夢でもあんな思いは二度とごめんだ。
『…そっか。大丈夫よ、夢だから。たまたま同じ日に夢と似た出来事が起こっただけ。大丈夫よ、無一郎くん。私、今こうして生きてあなたとお話できてるんだから。ね?』
「…うん……」
頬に零れた涙を柊依さんがそっと拭ってくれた。そして、僕は再び彼女に抱きつく。柊依さんは優しく頭を撫でてくれていた。
「…一緒に寝ていい?」
『いいよ』
この日も柊依さんに甘えることにした僕。一旦自室に枕を取りに行き、また柊依さんの部屋へ。
布団の中でぎゅっと柊依さんにしがみつく。
柊依さん、どこにも行かないで。お願いだから、僕たちを置いて死なないで。
そんな考えを巡らせていたらまた涙が滲んできた。それに気付いているか否か分からないけれど、柊依さんは僕をそっと抱き締め返して、優しく背中をとんとん叩いてくれた。
あの日以来、眠るのが怖くなった。夢を見るのが怖かった。でも、柊依さんが大丈夫と言うならそう思いたい。
柊依さんの心音が響いてくる。背中に伝わる手のひらの温もりも心地いい。
いつの間にか寝ていたみたいだ。夜中ふと目が覚めると、隣には規則正しい寝息を立てる柊依さん。
寝顔もきれい……。睫毛、長いなあ。
やっぱり僕、柊依さんのことが大好き。出会ってまだ半年も経っていないのに、こんなにも大切な存在になっている柊依さん。
早く強くなりたい。兄さんのことも、一般の人のこともだけれど、柊依さんも守らなくちゃ。僕が守るんだ。この先もずっと彼女が笑っていられるように。
僕は隣で眠る柊依さんにまたぎゅっと抱きついて瞼を閉じた。
続く
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!