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BARから助け出された樹奈は市来組の知り合いが経営しているという個人病院に搬送された。
身体の衰弱はしているものの幸い大した怪我もしていないので、三日程度安静にしていれば退院出来る事になった。
「気分はどうだ?」
「……あ、はい。だいぶ、良くなりました」
「そうか、それは良かったな」
樹奈が入院している間、恭輔は何かと気にかけて何度か彼女の病室を訪れていた。
「あの、巽……さん」
「恭輔でいいと言ったろ?」
「で、でも……」
樹奈は助け出された時に郁斗や恭輔たちが市来組という組織の人間で、更に恭輔がそこの若頭である事を知ってか、そんな相手を名前で呼ぶのはどうかと名字で呼んだものの訂正されてしまい戸惑うも、
「名字で呼ばれ慣れねぇから構わねぇよ」
「……そうですか。それじゃあ、恭輔……さん」
本人たっての希望ならばと納得して名前を呼び直す。
「何だ?」
「あの、白雪ちゃん……じゃなくて、詩歌ちゃんは、無事なんでしょうか?」
「……それに関しては、まだ調査中だ」
「……やっぱり、私のせいで……」
樹奈は自分が迅と関わったせいで詩歌が捕らわれてしまったと思っているが、詩歌に関しては樹奈の事が無かったとしても起こっていた事案なので彼女がそこまで気に病む事も無いのだけど、詳しい経緯を知らない樹奈は自分のせいだと思い悩んでいた。
そんな樹奈を見兼ねた恭輔は側にあった椅子に腰掛けると、
「別に、お前だけのせいじゃねぇよ。詩歌に関しては他でも動いていて、恐らくお前の事が無かったとしてもいずれ捕らわれていた。だからお前がそこまで気に病む必要はねぇんだ」
これ以上悩まないよう気にしなくていいと話してきかせるも、
「でも……私、……」
恭輔の言葉を聞いてもなお自分を責めようとする樹奈の瞳には、涙が滲んでいく。
女に泣かれるのが苦手な恭輔は樹奈が泣き出しそうになったからか反射的に彼女の身体を引き寄せると、
「泣くな。泣いても状況は変わらねぇ。詩歌は俺たちが捜索してるし、必ず見つけて助け出す。だから、お前が詩歌に対して悪いと思っているなら詩歌が戻って来た時、彼女の力になって寄り添ってやればいい。そうだろ?」
泣いたり悲観するのではなく自分に出来る事をすればいいと、恭輔なりに慰めてみる。
そんな風に言われるとは思わなかった樹奈は恭輔の言葉に小さく頷くと、
「……はい。私、彼女が助かったら、きっと、彼女の力になります……」
彼の言った通り詩歌が助かったその時は、必ず彼女の力になろうと心に誓うと、恭輔の胸の中で静かに涙を流す。
そんな樹奈を泣き止ませようと恭輔は暫く樹奈の背中を撫で続けながら、彼女が泣き止むのを待っていた。
それから暫く経ち、樹奈は落ち着きを取り戻した。
「……恭輔さん、ありがとうございました」
「何がだ?」
「その、あの時助けてくださった事と、今も慰めてくれて」
「別に、特別な事をしたつもりはねぇよ」
「……でも、私は、嬉しかったです……」
「そうか。まあ、早く元気になれよ」
「はい」
「それじゃあ、俺はそろそろ帰る」
言って恭輔が椅子から立ち上がり帰ろうとすると、
「あ、あの、恭輔さん」
「ん?」
「……あの、退院したら、私に、何かお礼をさせてください!」
「礼? んなもん要らねぇよ」
「嫌です! それじゃあ私の気が収まりません」
「……分かったよ。それじゃあ、退院して落ち着いたら、ここに連絡して来い」
お礼をしたいという樹奈の申し出を受ける事にした恭輔は胸ポケットから名刺を一枚取り出すとそれを樹奈に手渡した。
「それじゃあな」
「はい」
貰った名刺を嬉しそうに持つ樹奈を前に自然と表情が緩んだ恭輔。
そんな彼が病室を出て行くのを、樹奈は笑顔で見送った。