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退院してから数日が経ち、自宅に戻った樹奈はベッドの上で恭輔の名刺と睨めっこ状態。
「……連絡して来いって言ってたけど……本当にいいのかな……」
いざ連絡しようとするも、極道の若頭ともあろう人相手に電話をかけるとなるとどうにも気が引ける。
「……それに、いつ頃掛けたらいいんだろ……今でもいいのかな?」
昼間は忙しいかもしれないから夜に掛けようか迷っていたものの、気付けば日付が変わる時刻になってしまう。
「やっぱり、こんな時間じゃ迷惑だよね。明日にしよう……」
そう思い直して電話をかけるのを止めようとしたのに、誤って発信ボタンを押して電話を掛けてしまう。
「あ、ヤバっ! 掛けちゃった……」
こうなると今切ればワン切りになって印象も悪い。
仕方なく何度かコール音を耳にしていると、数回程で相手が電話に出た。
「誰だ?」
恭輔は自らの連絡先を教えただけだったので樹奈の番号を知らず、彼からすれば知らない番号からの電話だった。
しかも、こんな時間となれば不信感も抱くだろう。
電話口の声のトーンが些か不機嫌気味に聞こえた樹奈は萎縮するも、
「あ、あの……夜分遅くにすみません……樹奈ですけど……」
名乗らない訳にもいかないので恐る恐る名を名乗ると、
「ああ、お前か。どうした?」
相手が確認出来た事で恭輔の警戒心が解かれたのか、声のトーンが一気に優しくなるのを樹奈はひしひしと感じていた。
「えっと、その、先日退院しまして、色々と落ち着いたので……改めてお礼を……」
「ああ、そうか。退院おめでとう。行けなくて悪かったな。ちょっと色々と立て込んでてな」
「いえ、そんな! 色々とお世話になりました。助かりました」
「当然だろ。お前は巻き込まれたようなもんだしな」
確かに、樹奈は詩歌絡みで巻き込まれはした。けれど、自分も普段から結構危ない人たちと関わりがあったと自覚もしていたから、一概に巻き込まれた被害者とも思えなかった。
「いえ、これは自分の撒いた種でもあります。仕事柄、危ない人との付き合いも無かったとは言えませんし……」
「まあ、そう思っているなら、これからは気をつけろ。危険な組織の人間は腐る程いる。女は特に、付け込まれる事も多いからな」
「はい、気をつけます」
「それで、用件はそれだけか?」
「あ、えっと、その……この前もお伝えしたと思いますが、何かお礼がしたいです」
「礼と言ってもな……その気持ちだけで十分なんだが」
「でも……」
お礼がしたいと言ってはいるものの、具体的に何をすればいいのか分からない樹奈。
恭輔としても特にそれを望んでいる訳ではないのだけど、断っても樹奈は納得しない事を分かっているので、
「なあ樹奈、今から少し出られるか?」
突然、そんな言葉を投げ掛ける。
「今から、ですか?」
「ああ。礼をしたいというなら、今から少しだけ付き合って欲しい所があるんだが、どうだ?」
突然の誘いでしかも夜中なので、提案した恭輔もどうかと思ってはいたけれど、彼はこれから少し行きたい所があったのでその同行を樹奈の言う『お礼』に出来ないかと話を持ちかけた。
そんな恭輔の言葉に樹奈は、
「分かりました、それならば是非、お願いします!」
驚きはしたものの恭輔の希望に添えるならと喜んで話を受けた。