桜の綺麗な薄ピンク色の花弁が吹き乱れるここは、人が訪れる事は滅多に無い秘境の地。
今日も1人でお花見をするマイペースなウサギのもとに、どうやら可愛らしいクラゲが迷い込んだみたいです。
*
大きな桜の木の下で、女の子が困ったような顔で水色の綺麗な髪を揺らしていた。
「ここは…?わたし、寝てたはずじゃ…」
「迷い込んじゃったみたいだね〜!」
不安そうに当たりを見回す女の子の顔を、誰かが後ろから覗き込んだ。
「ひゃあっ!!だ、だれ!?」
小さな悲鳴をあげた女の子に、白い耳が特徴的な女の子がにっこり微笑む。
「はじめまして〜、ボクはバイトのシロウサギだよ!!」
独特な間延びした話し方に思わずほうけていた女の子は、シロウサギが首を傾げたことに気がつくと慌てて口を開いた。
「あたしはみくら、泡沫みくらだよ!」
泡沫みくらことみくらは困っていた。
初めて来た旅館での、初めての宿泊。みくらは それだけで充分楽しかったし、疲れた。
だからこそ夜はたっぷり寝て疲れを癒したいと考えていたのに、寝たはずの自分はいつの間にか知らないところで立っている。
(本当にここは何処なんだろう…シロウサギ?さんは慌ててなさそう…ここに来たことがあるのかな?)
みくらが1人で思案していると、シロウサギが枕の手を握って歩き始めた。
「初見の人でしょ〜?案内したげるね」
「え!?えと…あたし帰りたいの」
そう告げると、目の前のシロウサギはものすごく嫌そうな顔をした。
本当に、ものすっごく嫌そうだ。
「あー、えっと…ヤ、ヤッパリ案内シテホシイナァー?」
みくらの言葉ににこっと笑ったシロウサギは一本道をてくてくと歩いて行った。
「ここは、秘境の地サクラ!!人の立ち入りを禁じられた神域だよ〜」
「秘境の地…サクラ…?」
「うん!」
一本道を歩くしばらくの間、みくらはずっとシロウサギのマシンガントークに耳を傾けることになった。
(ええと…要するに)
(ここは普通の人は滅多に入ることができない秘境の地、名前はサクラ…)
(バイトはシロウサギとその親友1人の合計2人だけ…)
(あたしは何らかの弾みで迷い込んじゃった…ってことだよね?)
「サクラに入るのはカンタンなんだけど、出るのはややこしい手順が必要で逆に時間がかかっちゃうんだぁ〜」
そんな、とみくらは愕然とした。
だって向こうには自分の帰りを待っているかわいいクラゲや魚たちがいるのだ。
「もう、帰れないの?」
「え?全然?」
ズルッとみくらの足元がすべる。
(この人は本当になんなんだろう……)
あまりにもマイペースすぎるシロウサギに翻弄され、みくらは既に疲れ切っていた。
「あ、サクラの客室に着いたよ!!今晩はここでボクといっぱいあそぼーね〜」
「うん、そうだね」
みくらは抵抗することを諦めて、クラゲらしく相手の作った波に流されることにした。
コメント
2件
おぉ〜……!!面白そう……
三人称視点が難しい… 自分の代理とみくらちゃんをコラボさせる強欲っぷりを発揮させました!!(ごめんね!!)