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〈??? side〉
5月下旬
雨の降り注ぐ通学路から見えるその学校はいつもよりも重力を感じているようにずっしりと、厚い雲に覆われた空はそのせいか狭く近く見えた。
昔ながらの木目の廊下が教室まで続いているが、湿気を吸い込んだ天然木の匂いが鼻にまとわりついて離れない。
湿気だけでワイシャツが透けてしまいそうなくらいのこの季節が苦手だ
そんな憂鬱な感情を抑えられずに教室のドアを開けた
…………………………………………………*
〈smile side〉
毎日のように見るこの教室が人生の一瞬にすぎないと思うとなんだかそれだけで美化されるような気がして少し変な気持ちになる。
nk 「おはよー」
kn 「おはよう」
元気よく挨拶するふたりを見るとやはり俺とは違う、と思う。
sm 「はよ」
kn 「梅雨早く明けないかな、俺雨とかあんまり好きじゃないんだけど」
nk 「俺意外と雨好きなんだよな」
sm 「え、理解できん」
nk 「なんかどんよりしてる感じも自然の原理の顔色が見れて好きなんだよね」
kn 「情景よりも体感のこのじめじめがまじで無理」
nk 「あー、それは同感」
nk 「え、てか雨で思い出した。知ってる?最近噂になってるあの話」
kn 「あー、階段の?」
【旧校舎の階段】
あなたは知っていますか?
この学園に広まる古い御話。
学園旧校舎の階段の噂。
雨の日に旧校舎の東玄関から上へと続く階段を順番に数えながら登ると願いが叶うという話
方法は簡単。
階段を前にして目を閉じ、手を合わせては心の中で願いを唱えます。そこから一段、二段、と声に出しながら上の階に上がるだけ。
でも、絶対に四段目を踏んではいけません
踏んでしまった人は異世界に連れ去られてしまうから。
連れ去られてしまった人は異世界で彷徨い続け、戻ってくることはないんだとか、、。
nk 「旧校舎あるけど立ち入り禁止だし」
kn 「だからこそあり得そうな気もする」
nk 「え、きんときは信じる?七不思議」
kn 「ちょっとだけ?あまりにも胡散臭くなかったら信じちゃうかも」
nk 「スマイルは?」
kn 「スマイルは信じなさそう笑」
sm 「信じないかな」
nk 「俺こういうの面白くて信じちゃうんだよなぁ」
ガラガラッ
br 「あ、いたいた!」
br 「あのぉ、教科書貸してくれませんか」
他クラスに遠慮なく足を踏み入れてきては毎度の如く教科書を借りにきたらしい。
入学してからぶるーくが忘れ物をしてこなかった日はないんじゃないのか?
sm 「何の教科書?」
br 「す、数学なんすけど」
グイッ
kn 「ほい、俺の貸したげる」
br 「きんときありがとぉ!!」
nk 「寝ないでちゃんと受けろよ?」
br 「僕が寝るのは夜だけだし」
母のように注意するなかむと子供のように拗ねるぶるーく、それを見守る優しい瞳をしたきんとき。
雨の日の学校はあまり好きじゃないけど、こういう日常は案外気に入っている。
長い授業を耐えて、四限目が始まってしまえばもう後は楽だ、とほっと息を漏らす。
気がつけばお昼の時間のチャイムが鳴り響いた
nk 「雨だし、いつものとこでいい?」
kn 「おけー」
昼は空き教室で食事をとる。
きんとき、なかむ、俺は同じクラス
きりやん、ぶるーく、シャークんがひとつ飛ばして隣のクラス
いつも俺たちが集まるのは上の階に行って屋上へ続く階段の目の前に位置する空き教室。
sh 「てかさ、聞いた?」
kr 「何を」
sh 「昨日係の仕事で旧校舎に入った女子生徒が行方不明になってるって」
は?
そんなことあるわけない。
旧校舎の係の仕事があるとはいっても先生との同伴は当然必要だ。
動揺してみんなの顔を窺うけれど、俺と同じで驚きを隠せていないようだった
nk 「それまじで言ってる?」
sh 「まじまじ」
br 「行方不明になったの隣のクラスの齋藤さんだって」
br 「優等生だからって理由で先生は1人で行かせたらしいよ」
kn 「あの噂が本当だったってこと?」
nk 「みんなも噂信じてるの?」
sh 「信じてるっていうか、クラスではその話が持ちきりだしな」
br 「今回の件が本当なら信じちゃうかもなぁ」
sm 「え、まじかよ」
kr 「俺は信じないかな。」
意外だった。
いちばんそういうことに敏感そうだと思っていたが、現実主義らしい。
kr 「信じないっていうか、いるのが事実でしょ」
nk 「え、てことは見えるの?」
kr 「そうだね、今もなかむの肩あたりにいるよ?」
nk 「ぇ」
br 「やばい僕も見えてきたかも」
kr 「何言ってんだよ笑、 冗談だってば」
kr 「でも今回のことは近づかないのが吉だと思う。」
まるでその声色は、先ほどの冗談話とは異なり本当に警告しているようで、とてもじゃないけれどたかがひとつの噂話でするような目つきではなかったのを今でも覚えている。
みんなが怖いだの、やめろよぉだの話す声は膜を張られたようにこもって聞こえて
ただ、雨音だけが俺の耳を強く振動させる。
その瞳から目が離さずに、一つの絵画を見ている気分だった