[岩泉編]
玄関が静かに開く音。
「……ただいま」
少し低くて、擦れた声。
部活帰りの疲れが滲む。
エプロン姿の🌸が顔を出すと
岩泉は驚いたように瞬きをする。
「お、おかえり!ご飯できてるよ!」
「……ああ」
短く返しながらも、
視線は🌸のエプロンに釘付け。
「わざわざ作ったのか」
「うん!食べてほしくて」
「……そうか」
その一言の裏に、何層もの照れと喜び。
食卓につくと黙々と食べ始める岩ちゃん。
でも、気づいてしまう。
――眉毛が、いつもより柔らかい。
「……っ、うまい」
ぽつりと落ちたその言葉は、
彼にしては最大級の賛辞。
「ほんとか?よかった!」
「いや、マジで。
こういうの…好きなんだよ」
食べ終わると椅子から立ち上がり、
じっと🌸を見つめる。
「片付けはあとでいい」
ぐいっと腕を引かれて、
そのまま胸へ抱き込まれる。
「い、岩ちゃん?」
「……心配してた」
耳元で低い声が震える。
「遅くなるってメッセ入れてこねぇし
電話も出ねぇから…」
言い訳のない不安が
全部、抱きしめる力に変わっている。
「無事でよかった、マジで」
不器用な優しさが
背中にそっと回された手に宿る。
「こうして待っててくれたの、…嬉しい」
いつもの強気な目が
ほんの少しだけ潤んで見える。
「ありがとな。
……俺のところにいろよ」
照れ隠しに髪をくしゃっと撫でてくる。
「次はちゃんと連絡しろよ?
心配させんな、バカ」
なのに声は優しい。
背中に落ちる手のひらが
“離さねぇ”って言ってるみたいで。
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