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(やっぱり強くなってる。レベルが上がったのは間違いなさそうだ)

この日は山を降りて街道まで出る予定だ。二人は未だに山の中だが、レビンは自身の身体が軽くなっている事実に疑問を深めていた。

「ミルキィ。後少しで山を降りきるけど、どう?」

「どうって…聞き方変えただけじゃないの。大丈夫よ。血が欲しいなんて思わないわ」

これもレビンの悩みの種の一つだ。ある程度衝動がくる間隔がわからない事にはレビンの不安は拭えない。

「そ、そんなに心配なら毎日す、す、吸わせたらいいじゃない!」

顔を真っ赤にして提案したミルキィだが、それについてレビンが気付くことはない。幼馴染の変化よりも、話の内容に衝撃を受けていたからだ。

「す、凄いよ!そうだよね!始めからそうしておけば良かったよ!馬鹿だなぁ僕は。こんな簡単な解決方法に気付かないなんて」

「で、でしょ?私はやれば出来る子なのよ!ママからもよく言われていたわ!」

その美貌以外、何も誉めるところが親であってもなかったからだという事を、ミルキィは知らない。

もちろん料理を頑張る前の話だ。

吸血鬼の吸血衝動は月に一度くらいの間隔だ。その為、気をつけていれば衝動に駆られる事はない。もちろんミルキィもこの事は母から教えられて知っているが、レビンの血を飲んだ時に感じた高揚感、全能感が忘れられなくなり、飲める機会を増やしたいと密かに画策していた。

もちろんよく考えなくても考えていなくとも恥ずかしいお願いの為、言い訳を考えていたところ、今回の件は渡に船であった。

(貴方の血が忘れられないの…なんて言えるわけないから良かったわ…)



二人は夕方前には街道が見えるところまで来ていた。

山を降りたところで辺りは森の為、景色は変わらない。二人からしたらちゃんと道があり、傾斜が少ないだけだ。

「い、いくわよ?」

「どうぞ」

レビンはもはや覚悟していた事であり、すでに当たり前の事として受け入れていたが、ミルキィは違った。

(うぅ。レビンの腕に噛み付くなんて…)

「カプッ」

「ちょっと待って。それじゃあ血が吸えないでしょ?」

ミルキィはレビンの腕に甘噛みした。もちろん犬歯も伸びていない。

「だ、だって…噛まれたら痛いじゃない…」

ミルキィはレビンを傷つける事にはどうしても慣れなかった。そして自覚した。慣れそうもないと。

シュッ

「これなら大丈夫だよね?」

レビンは二の腕にナイフを走らせた。傷口から血が滲む。

「ちょっ、ちょっと!何考えてんのよ!?」

「ミルキィ。これは必要な事なんだ。嫌だろうけど僕の血で我慢してね」

「そうじゃないわよ!・・・血が…」

カプッ

あの時の全能感を思い出し、思わず傷口に食いついてしまった。

しかしそれでもなお、ミルキィが噛み付かなかった事がどれだけレビンの事を大切に想っている行動かをお互い気づかないままに。

「どう?美味しかった?」

ミルキィの口の周りについた自身の血を拭いながらレビンは聞く。あくまで自身の知的好奇心の為に。

「お、美味しいなんて言えるわけないでしょ!!」

そう言いながらミルキィはレビンの二の腕に包帯を巻いた。

「ありがとう。でもかすり傷だから良かったのに」

指を切らなかったのは弓の扱いに問題があると困る為だ。

腕の傷は薄皮を横に2センチ程切っただけで、放っておいても問題はなかった。

「馬鹿っ!私のせい・・でレビンが傷ついたのに、放っておけないでしょ!」

「ごめんごめん。でも、『せい・・』じゃないよ。『ため・・』だよ」

レビンは臭いセリフを素面で言える猛者だった。



「体調はどう?」

街道に向けて出立の準備が出来たのでレビンが聞く。

「絶好調よ!レベルアップした事はないけれど、多分こんな感じね!」

「ははっ!僕の血を吸うだけでレベルが上がるなら、ミルキィに守ってもらわなくちゃね!」

「もうっ!本当よ?何だか強くなった気がするのよ!」

ミルキィの言葉は自分を傷つけた為に出た免罪符のようなものだと感じ、レビンは本気では取り合わなかった。

「何はともあれ、これでミルキィの吸血衝動は抑えられそうだね!さっ!暗くなる前に街道に出よう」

「そうね…行きましょう」

この時ミルキィは少し不安の芽が出てきていた。誰かに出会っても問題ないし、吸血鬼と疑われても誤魔化せると根拠のない自信はある。

しかし、レビンの血の魅力に抗えるかは、自信が無くなってしまっていた。

獣の血どころか他の人の血を欲しがるとは微塵も考えられなかったが、レビンの血だけは別だ。これはあの高揚感のせいなのか、それとも別の理由か。

人は不確かなモノに恐怖を抱く生き物だ。ミルキィは自分自身がわからなくなっていき、不安になってしまった。


「今日はここで夜営だよ。僕は食事以外の準備をするから、ミルキィは料理を頼むね!」

レビンは知らない。世の中には胃袋を掴むという言葉がある事を。そして自分はもう逃れられないという事を。

「ええ。任せてよね!」

「うん!ミルキィは良いお嫁さんになれるよ!」

楽しみだなぁ。そんなレビンの声は聞こえない。ミルキィの頭の中は『お嫁さん』という言葉だけが支配しているからだ。

ミルキィは知らない。世の中には何も考えずにこういう事が言える二つの人種がいることを。誰彼構わず愛想を振りまくナルシストと、天然の人たらしだ。

昔から人を誉める事が上手だったレビンだが、最近では女性の喜ぶツボを押さえてくる。

これは何もレビンが意識して独学したモノではない。冒険者になりたいと思った時から、村長宅の村に唯一ある本棚から、以前人種の事を記述した【冒険録】の本を読み耽っていたからだ。

そこに出てくる登場人物達が女性好きだった為、要らない情報もインプットしてしまっていた。ただそれだけ。

ミルキィが顔を赤くして作った料理を食べた後、二人は夜番の見張りを交代で行い、朝を迎えた。



朝日が昇る頃には朝食と片付けを終え、大きな背嚢を背負った二人の姿が街道にあった。

「良し。それじゃあ行こうか!」

「うん!遂に街ね!楽しみだわ!」

仲良く歩き出した二人の姿がそこにはあった。

暫く街道を進み、昼休憩を終えた頃、二人の所へと近づく気配があった。

「旅人かしら?」

「冒険者ではなさそうだね。行商人かな?」

荷物を背負った二人組が、街道をレビン達とは反対方向へと向かって進んでいる。

「そんな顔で見なくても大丈夫よ。別にドラゴンが来るわけじゃあるまいし、これからここを通るのはただの人よ」

「ごめんね。わかったよ。多分何もないと思うから普段通りでいこう」

そういう事を言っている人に限って、普段通りではなかったりする。

行商と思わしき二人組は中年の夫婦のようだ。

お互いに挨拶を交わして何事もなく過ぎ去っていった。

「夫婦で行商なんて大変ね。魔物も出るだろうし」

「そうだね。昨日倒したコボルトくらいなら大人二人であれば倒せるだろうけど、他の強い魔物が出ないとは限らないよね。…そんな脅威から人々を守れる冒険者に、僕はなれるだろうか?」

「なれるわ」

レビンの会話にもならない呟きをミルキィは拾って、端的に返した。

そこにはなんの根拠もなかったが、今のレビンにとっては最上の言葉となる。


その後、一度だけコボルトに遭遇したが無事に倒して、そしてレビンはまたも全能感を感じた。

「おかしい…流石におかし過ぎるよ。僕は人よりレベルが上がりやすいのかな?ううん。それにしても上がり過ぎだと思うなぁ」

「何ブツブツ言ってるのよ。さっ!街はもうすぐでしょ?行くわよ」

ブツブツと何かを呟いているレビンを尻目に、ミルキィは街へと着実に足を進める。

思考の海にドップリ浸かっていたレビンは、気付くと豆粒のように見えるミルキィを慌てて追いかけた。


「ここが街なのね…凄く大きいわ…」

「さっ。門が閉じちゃうから行こう?」

二人は立派な壁に囲まれた街へと、漸く辿り着いた。所謂城郭都市である。

辺りは夕暮れの為、二人は急いで城門へと向かった。



レベル

レビン:1→0→1

ミルキィ:1→2

混血の吸血姫と幼馴染の村人

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