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大学2年生の夏。心理学科の滉斗にとって、避けては通れないイベントがやってきました。それは、山奥の宿泊施設で行われる「2泊3日の集中ゼミ合宿」。
当然、他学科の学生は参加できません。しかし、元貴と離れて過ごすという選択肢が滉斗の辞書には存在しませんでした。
ゼミの終了後。滉斗は分厚い資料を抱え、担当教授のデスクへ向かいました。
「失礼します。今回の合宿ですが、同行者を1名許可していただきたい」
教授は眼鏡をずらし、不思議そうに滉斗を見ました。「同行者? 家族か?」
「いえ。僕の専属の『観察対象』であり、かつケアが必要なパートナーです。 彼は他学科ですが、僕の心理学的アプローチを維持するためには彼の存在が不可欠で……。宿泊費は倍払いますし、講義中は部屋の隅で静かにさせます」
理路整然とした(ふりをした)無茶苦茶な要求に、教授は思わず頭を抱えました。
「若井君、君は優秀だが……公私混同が過ぎる。これはゼミ生同士の親睦と研究のための場だ。許可できるわけがないだろう!」
教授に玉砕した滉斗は、一軒家に帰るなり、リビングで明日の予習をしていた元貴の隣に座り込みました。
「……もとき、荷造りをしろ。来週の合宿、お前も行くぞ」
「えっ!? でも、それってひろとの学科の合宿でしょ? 僕が行ったら迷惑だよ……」
「迷惑じゃない。俺が困るんだ。お前のいない環境で、俺の精神状態が安定すると思うか? 心理学的に見て、効率が著しく低下する」
もっともらしい理屈を並べる滉斗でしたが、そこへ2階から、パジャマ姿の涼架がドタドタと階段を下りてきました。
「ちょっとひろと! さっき教授から僕に電話あったよ!『君の幼馴染をなんとかしてくれ』って泣いてたよ!? ダメに決まってるでしょ、連れていくなんて!」
「……涼架さんには関係ない」
「関係あるよ! 元貴だって、来週は自分の学科のレポート課題があるんだから。ね、元貴?」
元貴は、滉斗の手をそっと握りました。滉斗が自分を心配してくれているのも、ただ離れたくないだけなのも分かっています。
「……ひろと。ありがとう。でもね、僕、大丈夫だよ」
「……大丈夫じゃない。お前の耳の調子が、もし気圧で悪くなったら……」
「その時は、すぐにひろとに連絡するし、りょうちゃんもいてくれる。……ひろとには、立派な心理学者になってほしいんだ。だから、今回はゼミのみんなと頑張ってきて?」
元貴が首をかしげて、上目遣いで「……ね?」とお願いすると、世界一強気な騎士も、ぐうの音も出ませんでした。
「…………分かったよ。ただし、1時間に1回は連絡しろ。寝る前は必ずビデオ通話だ」
結局、滉斗は一人で合宿へ。
ゼミの最中、誰よりも鋭い考察を披露しつつも、休憩時間になるたびに猛烈な勢いでスマホを操作する滉斗の姿は、教授とゼミ生たちの間で「若井君の、伝説の分離不安」として語り継がれることになったのでした。
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コメント
3件
元貴愛がスゴい💕