「ドミニック!僕だ!シプリートだ!目を覚ませ!」
聞こえるほど全速力で声を張り上げる。だが彼はずっとドラゴンの意識のまま。口から水の魔法を四人にかけてくる。
水をかけられた彼らは、魔法の威力が強くて吹っ飛ばされた。ザールは気を失う。女二人は少しダメージを喰らった。
彼女らはその言葉に困惑していて、応戦することはなかった。水属性なので、戦うこともしない。
相手はドミニックだ。殺すことなんてできない。もう一度声をかければきっと目が覚めるはず。
「ドミニック!僕だ!シプリートだ!一緒に冒険しただろ!アンジェとカロリーヌとザールでさ!」
「……アン……ジェ……?」
野太くて低い声が妹のアンジェに反応した。
ドミニックは妹を信用していて、何度も励ましたり抱き合ったりしていた。彼女なら目を覚ましてくれる可能性が高い。これにかけてみるしかない。
立ち上がるアンジェに、切羽詰まった声をかける。
「アンジェ、あの青いドラゴンに話しかけるんだ」
「え?アタシ?」
目を見開き、その場から動かない。
目の前のドラゴンは凶暴だし、カロリーヌを爪で引っ掻いているので怪我を負わせてしまう。そんなドラゴンに話しかけても、話が通じないとしか言いようがない。
シプリートは事情を最初から説明。姉の形見であるペンダントも渡し、ドミニックの話をした。
アンジェはにっこり微笑んで受け入れる。青いドラゴンがドミニックだと理解し、兄を募っていたから納得いったのだろう。
チャンスは一度だけ。彼の記憶を取り戻さないと!
勇気を振り絞ってアンジェは風魔法を地面に向けて放ち、ピタッとドラゴンの頭に乗る。もしかしたら言葉が伝わらないかもしれないが、やらないと何も変わらない。
「」
ドラゴンにある小さな耳に話しかけたら、彼の目が真っ赤な目から白と紫のオッドアイになっていく。どうやら意識を取り戻したようだ。
何を話したかは全く聞き取れなかったが、彼らに関係することだろう。
「グァァァァァァ!!」
雄叫びを上げながら、滝のような涙を流して泣いていた。その雄叫びのせいで耳の鼓膜が破れそうになり、急いで皆耳を塞ぐ。ザールは気を失っているので、そもそも聞こえない。全員耳が壊れなくてよかった。
そこら辺の壁のかけらが吹き飛ばされてしまうのを見て、アンジェが急いでやめさせた。
彼は反省しているのか、長い首を下げて謝る。
「だってだって、俺みんなを傷つけてしまった……本当にすまない。特にシプリート。お前にはたくさんいじめをしてしまった。反省している。もうしないよ。仲間だしな」
「ドミニック、お前優しいな!!」
明るい顔で話しかけると、ドミニックは翼をはためかせて一回転し空を何度も行ったり来たりしていた。とても嬉しそうだ。
「王子、良かったですね!和解できて。これで手と手を結べますね」とカロリーヌがボケをかましてきたので、「いやいや。彼の手は人間の手じゃないからな!」といつものようにツッコミを入れる。アンジェとカロリーヌが笑ってくれて良かったぜ。
そのあと彼がやってきて、提案してくる。
「アズキール、あいつを倒しに行こう。これが星のカケラだ」
ドラゴンの鱗の中から、黒色に染まった星型のカケラを取り出す。旧協会の中にあり、一応ここにくる前に取っていたのだ。なんてが気がきくんだ。エミリ姫みたい……。
そんなことを思ってしまい、涙がポロポロと溢れてくる。
彼女はアズキールに奪われ、洗脳のようなことをされて自我を失った。そうすることでエミリを自分のものにできたと思っているはずだ。そんなの間違っている。彼を倒さなければ。
彼女は決してアズキールが好きなわけじゃない。無理やり好きだと思わされているんだ。そんなのありえねえ。だってシプリートが一番エミリのことを愛しているからだ。
だから彼女を洗脳から解いて救ったあと、「愛してるよ」って言うんだ。そしてハッピーな結婚生活を送るんだ。
グッと唇をへの字口にして、持っている二つと重ね合わせた。ピッタリハマり、残り一つになった。右下のみか。
「カロリーヌ、これ持っててくれないか?盾が重くてさ」
星のカケラを渡された。責任重大な役目で手に汗を握る。王子の命令ならば、引き受けなければメイドとしての資格はない。
地面に着地して翼を休めるドミニックに剣を渡すと、彼は鱗に隠した。使うかはわからないが、念のためだ。
ドミニックは次の星のカケラの位置を話す。
「最後の一つはフリーダム城の地下にあると思う」
「なぜだ?」とシプリートは首を傾げた。すると彼は太い腕を組んで、威張るように自信満々で言ってくる。
「そりゃあ、アズキールの会話を聞いていたからな。実際は自我がなくなったわけじゃなくて、無くなりかけたって感じだ」
やはりそういうことだったか。
モンスター化された後、アズキールは次の星のカケラの場所を教えていたのだ。完全に洗脳されていたないドミニックは、場所を覚えていた。このことがバレていたら、殺されていたはず。
だがこの様子をアズキールに見られたらマズイ気がする。裏切り者認定され、抹殺されてしまう。そんなことは絶対嫌だ。
それに洗脳が完全に解けたわけではない。自我は戻ったが、いつかはまた操られる運命を辿ること間違いない。
「だから俺はアズキールの仲間のふりをする。そして、そばにより、彼をひとつきにしてやる」
そう話をした後、皆ゲラゲラと笑い声を上げる。
だが、その様子をアズキールは闇に紛れて見ていた。そんなことも知らずに、彼の悪口をたくさん話す。
アズキールは怒りで顔が真っ赤に染まった。イライラが最骨頂になり、頭から煙を上げる。もう我慢ならん!
自我を忘れて、隣にいるエンジェルへ八つ当たりを食らわせる。彼女は壊れかけそうな屋根で尻餅をつき、下の方へ滑り落ちた。天井の土埃が顔にかかる。その瞬間、ヘッドホンが壊れた。
アズキールは強い口調で怒鳴りながら、エンジェルに命令する。
「おのれ……ドラゴンを奪いやがって!今に見てろよ、裏切り者め!やれ、エンジェル!あのドラゴンを殺して、奴らに絶望を与えるんだ」
「……」
「なぜ無言なんだ!?早く倒せ!」
「アズキール様、私はドラゴンを倒せません」
エンジェルは体を起こして、立ち上がり断りの念を表明する。
なぜか知らないが、このドラゴンを倒せばあの赤毛の青年が傷つく気がする。躊躇ってしまう。無言が続いた。
エンジェルはまだ、エミリの時の記憶が少しだけ残っている。だから、赤毛の青年を困らせたくないと感じてしまう。
ヘッドホンが外れたことで、より一層洗脳が外れかかっている。
その様子を見ていたアズキールは体が真っ暗に燃えあがり、彼女のいる場所に降りて肩を強く握りしめた。唾を吐き散らして、吊り目にする。
「なぜだ!?俺の言うことは全て絶対だ。守れ」
「なぜか倒してはいけない気がします。理由はよくわかりません」
「わからないなら倒していいってことだ」
「……」
彼女は視線を逸らして、無言を貫いた。初めて命令に逆らったのだ。
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