エンジェルが否定した事実にアズキールのストレスがモロに爆発。肩をさらに強く握りしめた。
もう彼女に優しいアズキールはいない。彼の怒りを止めることができるのは、自分自身の心中のみ。暴走状態になる。
エンジェルはそれでもドラゴンを倒すことなく、その場に座り込んでしまう。全く動かなくなった。これは明らかな拒否反応。
その様子を見て「チッ」と口で鳴らすと、肩から手を離し鬼のような形相で睨む。彼女には背中を向けて。
「使えない姫はもう用済みだ。僕だけで倒す」
建物から瞬間移動して闇に紛れた後、彼は口を大きく開いて青い鱗のドラゴンに闇魔法で攻撃した。黒い竜巻は素早く進み、ドラゴンを包む。
一瞬でドミニックが消されてしまった。彼はどこにいったのだろうか。まさか一瞬で粉々にしたのか!?強すぎる。勝てる相手じゃない。
四人は逃げようとしたが、黒い触手に捕まってしまいそこでアズキールは姿を表す。ニコニコと微笑みを浮かべて、余裕のある拍手をする。自分で自分を称賛しているかのように。
彼は足の黒い影を触手に変化させたのだ。この世界は真っ暗で影などできないが、闇魔法はどんなところでも影を作り出せる。つまり光を当てたとしても、同じくらいの力を発揮。彼を完全に倒すことは不可能に等しい。
四人は喚き声や天然な発言など、彼らなりのリアクションを取る。
「下ろしてよー!」と意識を取り戻したザールが泣きながら助けを乞う。
「まさか遊園地の乗り物に乗れるとは、最高です」と、天然すぎてこの状況を楽しんでいるカロリーヌ。
「いやァァァ!!触手気持ち悪いぃぃぃ!!」と、感触が悪くて絶叫するアンジェ。
シプリートは躊躇するが、何も喋ることなく真剣な眼差しでアズキールを睨む。
闇属性に勝てるのは、光属性だけだと歴史の先生に教わった。
光属性を持つものは少なく、闇属性は人間を潰す禁断魔術。文明が崩壊するのを恐れた魔導士たちから、迫害されてきた歴史がある。
シプリートが知っている光属性は、父上だけ。彼がきてくれれば、心が楽になりそうだ。
「とどめだ!!闇魔法が一番強いんだ、シプリート!てめえを倒してやる!エンジェルと愛し合うのは、この僕だ!!」
吠えまくって触手をさらに締め付け、腰が痛くなってしまう。押しつぶされてしまいそうで、皆呻き声を上げる。
そう叫んで口から黒い薔薇と渦を吹き出し、シプリートめがけて放たれた。瞬時に目を閉じて、死ぬのを覚悟した。しかし、その攻撃は当たることがなかった。攻撃を断ち切るように光の直進攻撃が割り込み、潰したのだ。
そこにいたのは、父上のプロストフだ。彼は鋭い眼光で睨みつける。
アズキールはプロストフの息子に取り憑いた呪いだ。倒さないといけない。
「我が息子をいじめるとは、お前は生まれた時から変わらず邪魔をする。この私がお前を倒す」
伝説となった光の剣「ルキウェル」を、両手で握りしめて構えている。
あの剣は選ばれし勇者しか握ることができず、シプリートの父が選ばれたのだ。その剣があれば、一瞬でアズキールを倒せる。希望が見えてきた。
だが本人は、汗をかいている。伝説の剣を握りしめているのに、これでは倒せないと確信しているように見えた。応援しなければ。
そう考えていた矢先、彼は足を床に叩く。触手が地面に潜って、全員床に尻餅をついた。全て合体して太くて長い触手へ。それを二回転して縛り上げた。これでは身動きが取れない。
アズキールはプロストフを鼻で笑う。父上は怒りを露わにした。こいつは彼の息子ではない。
「ふっ、誰かと思ったら父さんじゃないか」
「父さんと呼ぶな!」
「いいじゃない、呼び方なんて。それより僕を消したいんだって。いいだろう。一対一の対決をしてやる」
彼が口から吐き出した闇魔法で剣を作り上げ、それを実体化する。
真っ暗な剣は伝説の剣「ルキウェル」に形が似ている。どうやらコピーしたようだ。その様子を見て、プロストフは喉を鳴らした。性能までは真似できるはずはないが、万が一あり得るのかもしれない。
その様子を見ていた四人は、息を呑んで彼らを見守る。応援する声は意識がそちらに向いてしまうので、やめておくことにした。
「さあ、戦ってやるぜ!父さん」
「行くぞ!」
二人は同時に走っていき、同時に剣を振り下ろす。瞬時にその場から去る。
プロストフは剣を鞘に入れたが、その場で血を吐いて倒れてしまう。アズキールは無傷だ。これはアズキールの一人勝ち。
もう倒せる人が誰もいない。強すぎて倒せないのではないだろうか。
捕まっている四人はひそひそ声で話す。
「なあ、どうやったらあいつを倒せるんだ?」とシプリート。
「わかりません。あ、一つ思いつきました。父上にお尋ねしてみるのはいかがでしょうか?」と、カロリーヌがいつもより落ち着いた口調で提案をこぼした。
倒れている父上の方を見る。剣を使って立ちあがろうとしており、まだ死んでいるわけではない。光魔法を使って、傷を徐々に治していく。
回復魔法と違って、全て治すと空気中のマナをかなり消費。体力が限界になってしまう。それでも、アズキールへ勝負を挑む。
彼でも勝てないとなればどのような方法があるのだろうか。聞きたいのは山々だが、触手が邪魔でプロストフの元へ行くことができない。すると、ザールが得意げに一つ提案する。
「おいら、太ってるからこの通り触手から出られるっす。しかもあいつはプロストフに気を取られて、かなり緩くなっているぜ。おいらが聞いてくるっす」
確かに彼の言う通り、触手が緩くなっていて取れやすくなっている。魔力が減ったのだ。これならば、抜け出せる。しかし、一つ問題点がある。それは……。
「僕じゃないと教えてくれないと思う。それに父上はアズキールと戦っている最中だ。声をかければ、また触手に襲われて縛られる」
シプリートは緊迫感が溢れる中、冷静な判断をする。
カロリーヌもそれに頷き、打破する提案を考えた。そして思いついたのがこうだ。
「シプリートがここから離れてアンジェが風魔法で近くの岩をアズキールにぶつけた瞬間、シプリートが父上を攫って聞き出す。建物の中に素早く逃げてください」
「いや、父上も瞬間移動が使えるはずだ。建物には簡単に入れる」
光属性と闇属性は両方とも瞬間移動が使いやすいのだ。まあ、習おうとしない例外の人もいるが、父上は原理を習っている。
カロリーヌの作戦は、成功しそうだ。アズキールが油断していればだが、避けられたら一貫の終わり。
作戦を実行しようと思ったら、ずっと無言だったアンジェの様子がおかしい。両手がキラキラと光り、炎が舞い上がっている。本人も手がヒリヒリして、気になってしまう。
三人は突然の出来事に腰を抜かす。作戦を実行している場合ではない。
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