テラーノベル
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Side:莉犬
「裏通り、か……」
ゆうなちゃんが残していった言葉を噛み締めるように呟く。
「そんな名前の通り、地図にはないようやけどな」
隣を歩くらいとが首を傾げた。
「ころちゃんなら知ってるかな。」
すぐにスマホを取り出してころちゃんへ発信した。数回のコールの後、お馴染みの軽い声が響く。
『はーい。どうしたのー?』
「ころちゃん、こんな遅くにごめんね」
『全然大丈夫〜、どうかした?』
「あのさ、この近くで『裏通り』って言われてるところ知らない?」
『あー、裏通りね。知ってるよ』
「ほんと!? 今、ロゼくんを探してたんだけど、その裏通りにあるネットカフェによくいるみたいで」
『あー、そこね。この後、詳しい場所の地図を送るから見てみて』
「わかった。ありがとう!」
『どーいたしましてー、気をつけてね』
電話が切れてすぐ、メッセージで位置情報が届いた。画面のマップを確認して、俺は小さく息を呑む。
「ここから結構遠いね……」
「今から向かっても、もう話が回っておらんかもしれんな」
らいとくんが少し渋い顔をする。けれど、俺の心は決まっていた。
「それでも、行く価値はあるよ」
すぐになーくんに連絡を入れて状況を共有し、俺たちはロゼくんのいると思われる場所へ向かって再び走り出した。
ーーー
Side:ロゼ
とりあえず、荷物を取りに戻ろう。
警察に俺の居場所がバレてしまった以上、もうあそこに居続けるわけにはいかない。
まさか、さっきちょっと外に出ただけのタイミングで警察と鉢合わせるなんて思わなかったな。
あそこの店員は深く事情を聞いてこなくて、居心地が良かったんだけどな。
急いで部屋に戻って荷物をまとめる。カバン一つ分くらいしかないその荷物は、どこからどう見てもただの家出少年そのものだった。
街頭の光の下で目印になってしまう赤い髪をひとつに結び、帽子を深く被り直す。
この周辺のエリアももう歩けないだろう。次はどこへ行こうか。
そんなことを考えながら、深夜でも人が多い賑やかな繁華街の雑踏へと身を潜めた。ふとスマホの画面を見ると、バッテリーの残量はわずか5%を示していた。
少し薄暗い路地へと足を踏み入れた、その時だった。前方に、見覚えのある男の姿を見つけて足が止まる。
――数日前、小学生を連れ去ろうとしていた、あの男だ。
「あれ? ロゼくんじゃん。最近連絡してなかったね♡」
男は下卑た笑みを浮かべて、こちらへにじり寄ってきた。
「……本当にごめんね。ちょっと最近、忙しくてさ」
瞬時に笑顔を作り、愛想笑いを返す。
「その格好……もしかして、家出かな?」
「違うよ、ちょっと遠くに用事ができただけ。じゃあね」
「なら、夜も遅いし僕の家に泊まっていこうよ!」
「もう泊まる場所は決まってるから。またね」
男をかわして通り過ぎようとした瞬間、ぐい、と手首を強く掴まれた。
「そんなこと言わずにさぁ」
「――やめろ!」
思わず声を荒らげて振り払おうとしたが、男の力は異常なほど強くてびくともしない。ずるずると、さらに薄暗い路地の奥へと引っ張られていく。
(……まずい、もう少し大通り側に戻れれば、きっと誰かに声が届くのに。あと少しなのに……!)
「おい! そこで何してるんだよ!」
鋭い声が路地に響き渡り、男の動きがピタリと止まった。
「!? 誰だよ」
「警察だよ。誘拐未遂の現行犯ね」
息を切らせて路地へ飛び込んできたのは、二人の警察官だった。小柄な方の警察官が、鋭い眼差しで男を睨みつける。
「な、何を言うんだ。僕は誘拐なんか一言もしようとしてないぞ!」
「『やめろ』って必死な声が、ここまで聞こえてきたんだけど」
警官は男を真っ直ぐに見据える。
(……でも、この距離じゃいくら叫んでも聞こえないはずなのに、なんで……?)
男は焦ったように顔を歪め、言い訳をまくしたてた。
「ぼ、僕とこの子は親戚なんだ! 家出してるのを見かけたから、僕が保護しようとしていただけだ!」
ゆうな
232
178
41
#みじかめです、!
夢仁羽
104
「……ほんとうか?」
背の高い警察官が、値踏みするような視線を俺に向けてくる。
どう答えるのが正解なんだろう。今まで通り、大人の機嫌を取るように話を合わせるべきか、それとも。
「……他人です」
気づけば、ぽつりと口から言葉が漏れていた。自分でも驚くほど冷めた声だった。
あぁ、もう、どうなってもいいのかもしれない。
なにもかも、どうでもいい。
「ロゼくん! 僕を見捨てないでくれよ!」
男が裏切られたような声を上げて暴れ出そうとしたが、警官がその腕を素早く抑え込む。
「もう応援呼んでるし、これ以上暴れるならもっと罪が重くなるよ」
「うるさい! 僕はこれからロゼくんと家に帰るんだ!」
「あー、暴れないでね」
「いてて……やめてくれ!」
と情けなく叫ぶ男を、慣れた手つきで制圧していく。
俺がただ呆然とその様子を眺めていると、路地の入り口からさらに足音が近づいてきた。
「おいおい、すごいことになってんな」
現れたのは、体格のいい警察官だった。
「さとちゃん、見てるくらいなら手錠かけてよ! 抑えるので手一杯なの!」
新しく来た警察官は笑って手錠を取り出した。
「23時40分。誘拐未遂の現行犯で逮捕する」
ガチャリ、と重々しい金属音が響く。男はそのまま、路地裏にやってきたパトカーの静かな赤色灯の中に押し込まれ、夜の街の彼方へと消えていった。
残された静けさの中、俺の前にしゃがみ込み、目線を合わせてきた。
「大丈夫か?」
「……」
小さく頷くことしかできない。
「俺はらいとって言う。名前、教えて」
「……ロゼ」
「ロゼね。怪我はなかと?」
優しく問いかけられ、俺は首を横に振った。
「家は?」
「……もう、ないよ」
「今はどこで生活しとる?」
「……ホテル、か、ネットカフェ」
もう、頭を働かせるのも疲れてしまった。この場に身を任せるように、ただ淡々と質問に答えていく。
「とりあえず、交番まで歩けるか?」
「……無理、かな」
連日の寝不足と極度の緊張が切れたせいか、鉛のように体が重くて一歩も動かせそうにない。視界がぐらりと揺れる。
「りぬくん、どうします?」
「うーん……らいとくん、疲れてない?」
「別にこれくらい、何ともないけど」
二人が何かを話し合う声が、遠くの方で聞こえた。
ーーー
気づけば、俺は今、らいととかいう警察官の背中におぶられていた。
てっきり、強引に腕を掴まれて連行されるものだと思っていたから、拍子抜けしてしまった。
「……すみません」
俺の小さな呟きに、らいとは歩調を緩めることなく笑った。
「謝んなって。ロゼ、結構軽いな。ちゃんと飯食っとるか?」
お節介な言葉だったけれど、トントンと進む背中から伝わってくる体温が、じわりと温かくて。俺はそれ以上何も言えず、ただその温もりに身を委ねていた。
コメント
8件
ロゼくん保護されてよかったし、らいとくんもやっさしいね
はいどうも、寺島あおいです🤍 今回のエピソード、本当に胸がぎゅっとなりました。ロゼくんが「もう、どうなってもいい」って思ってしまうとこ、読んでて切なくなったな…。でも、らいとさんに背負われたあとの静かな温かさが救いでした。「謝んなって」の一言にじんわりしました。 莉犬くんの行動力もかっこよかったです! みんなが少しずつロゼくんに近づいてる感じがして、続きが気になります〜🌷