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ゆうな
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#みじかめです、!
夢仁羽
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トントンと規則正しく進む背中の上で、俺はぼんやりと、たまに街頭に照らされる夜空を見つめていた。
大人はみんな、何かを奪おうとする奴ばかりだった。なのに、この警察官はただ俺を背負って歩いている。
「ロゼ、寝ていいよ。着いたら起こすし」
下から響くのんびりとした声に、俺は小さく首を振った。背中に頭が当たって、髪が擦れる音がする。
眠ったら、またあの世界に戻されてしまう気がして、どうしても目を閉じることができなかった。
「おーい、らいと、ロゼくん。大丈夫そう?」
少し前から、トコトコと軽い足音を響かせながら並走していた小柄な警察官――確か、莉犬とか呼ばれていた人が、心配そうにこちらを覗き込んできた。
「大丈夫。それよりりぬくん、なーくんに連絡はついた?」
「うん! もうすぐ交番に着くって。さとみくんが先に男を連行してくれたから、交番にはなーくんが待っててくれてるよ」
交番が近づくにつれて、遠くに赤色灯の光が見える。
いつもなら、補導されるのが嫌で避けていたはずの光なのに、今夜はなぜか、その赤が少しだけホッとするものに見えた。
ガラス扉が開いて交番の中に入ると、暖房の風と一緒に、お茶の優しい香りがしてきた。
「おかえり。……みんな、怪我はない?」
奥のデスクから立ち上がったのは、仕立てのいい制服を崩さずに着こなした、穏やかな雰囲気の警察官だった。
この人が、なーくん、だろうか。
その包み込むような優しい笑顔が、まるで俺を育ててくれた祖父母みたいで心地よい。
「なーくん、ただいま! ロゼくん、怪我はなかったんだけど、すごく疲れちゃってるみたいで……」
「そっか、大変だったね。らいとくん、まずは奥のソファに休ませてあげて」
促されるまま、背中からそっと降ろされる。
パーテーションで区切られた応接用のソファは、使い古されているけれど、今の俺にはどんな高級ホテルのベッドよりも柔らかく感じられた。
深々と腰掛けた俺の前に、なーくんが温かいお茶の入った紙コップをそっと置く。
「まずは一息ついて。俺はななもり。……怖い思いをさせちゃったね、もう大丈夫だから」
夜の涼しい風で冷えた体が、内側からじんわりと温まっていく。
「スマホの充電あるん?」
らいとさんに声をかけられて思い出す。そういえばさっき見たときは5%だったから、もう切れているかもしれない。
確認してみるが、画面は真っ暗でやっぱり電源がつかなかった。
「電源つかないや」
「ならこれ使いな」
そう言って、らいとがポケットからモバイルバッテリーを取り出して渡してくれた。
「ありがとう……ございます」
「家、もうないんだっけ」
「……はい」
「知り合いにシェルター運営してる人おるけん、そこで当分過ごせばいい」
「シェルター?」
「ちっさい家みたいなもんと思ってくれれば」
「家……」
「そこにいれば俺達もいつでも動けるし、当分の生活は大丈夫」
「……わかりました」
嘘をついているわけではなさそうだし、最悪、何かあれば逃げればいい。
「お金って、どのくらい……」
「……? そんなもんいらんとよ」
らいとは不思議そうに眉を下げて笑った。てっきり、ホテルみたいにお金がかかるところだと思っていたから拍子抜けする。
「詳しいことは行ってから教えてもらえると思う。もう少し待ってな」
そう言って、らいとは別の用件があるのか一度席を離れていった。
手元でスマホの通知音が鳴る。少しずつ充電が増えてきたみたいだ。画面を開くと、一気にメッセージが飛び込んできた。
『ロゼ!大丈夫か』
『今どこ?』
通知の多さに驚きながら、急いで文字を打ち返す。
「ごめん。充電切れちゃって」
『まじで焦ったじゃんかよ』と、すぐにハルから返信が来た。続けて、なおからも『あのおじに遭遇したって』と送られてくる。
「今交番にいるよ」
画面の向こうで、ゆうなが『補導!?』と目を見開いているのが想像できた。
「あの男から助けてもらった」
『ならよかった。迎え行こうか?』というハルの言葉に、胸の奥が少しあったかくなる。
「なんかシェルター?ってとこでしばらく生活するみたい」
『帰るとこないと行くらしいね』と、なおは少し知識があるみたいだった。
『なんかあったら迎え行くから連絡して』
ハルのメッセージを見つめながら、「ありがとう」とだけ送った。
ハルは一つ年上でもう成人している。本当に頼もしい兄みたいな存在だ。いつもいい仲間に会えたと、こういう時に毎度思う。
「それじゃ行くけど、またおぶってくか?」
戻ってきたらいとさんにそう聞かれ、俺は少し躊躇ってから呟いた。
「……お願いします」
「いってきまーす!」
「いってきます」
莉犬さんとらいとさんが声を揃える。ななもりさんは優しく手を振り返してくれた。
「はーい。ロゼくん、またね」
「ありがとうございました」
交番を出ると、来るときよりも少し緊張が解けたせいか、急に頭がぼーっとしてきた。
うとうとと視界を揺らしながらも、らいとの背中の上から前を見る。
「もう着くよ~」
並走していた莉犬さんが振り返り、店の目の前に着いたところでそっと下ろしてもらう。
「ここがひなたびっていうとこ」
一見パン屋にも見える店に入ると、玄関のようなスペースの壁に、クレヨンで書かれた絵が飾られているのが目に入った。みんなでかき氷を食べているものや、ゲームをしている絵。
「靴、ここに入れてね」
莉犬に促されて靴を脱ぎ、内側の扉が開けられる。
「おかえり~」
中から、穏やかで明るい声が響いた。
「ただいま!」と莉犬が返し、「ただいま」とらいとが続く。
二人が当たり前のように『ただいま』と言っていたから、俺もそれに引っ張られるように、小さく真似をした。
「……ただいま」
「ロゼくんおかえり! 僕ころんっていうよ」
青い髪の青年が、人懐っこい笑顔で俺を迎えてくれた。
「なーくんから聞いてると思うけど、当分お願いね」
「もちろん! 任せてよ」
莉犬さんと言葉を交わすその姿を見て、本当にここで過ごすんだな、と実感が湧いてくる。
ころんさんは俺の顔を覗き込むと、優しく問いかけてきた。
「お腹空いてる?」
「あまり……」
「ロゼ、多分眠いと思う」
らいとさんが横からフォローを入れると、ころんさんは「なら布団に行こ」と、ぽんぽんと自分の肩を叩くようにして手招きした。
俺はその温かい雰囲気に促されるまま、階段を登って二階へと向かった。
コメント
3件
読み終わりました。今回のエピソード、凄く良かったです。警察官たちの「ただいま」にロゼくんが小さく合わせたシーン、じんわり来ましたね。彼がやっと「帰る場所」という感覚を取り戻しつつあるのが伝わってきて、安心すると同時に切なくなりました。それと、らいとさんが「金なんか要らん」と言い切る場面、彼らのロゼくんへの純粋な優しさが感じられて、個人的に一番好きな瞬間でした。このシェルターが彼にとって本当の居場所になりますように。