ナッキがこの池、『美しヶ池』に辿り着いて三年の月日が流れた。
最初の一年目こそ、新たな仲間が加わったり、昔馴染みのギンブナ達を迎え入れたり、割と女性関係にだらしないティガの言葉に踊らされたりしていたナッキだったが、それも今となっては良い思い出、懐かしい話である。
それ以降の日々、魚とカエル達は単調な時を過ごしていたのであった。
例年と変わりなく、ナッキ以外の面々は繰り返す日々の中で命の営みを重ねていた 。
平たい言い方で言えば、子作りを繰り返していたのである。
いつも通り、最近孵った様々な子供達に囲まれて、思い思いにいじくられているナッキは、今日も笑顔であった。
唯一無二の彼、『メダカの王様』である存在は今日も大きな声で子供達に告げたのである。
「はいはーい! そろそろ王様はお仕事の時間だからねぇー! 皆離れて一旦餌場でお休みしていてねぇ! お腹が空いちゃったらしっかり食べて良い子にしていてよぉ? じゃなきゃっ! 王様はもう遊んであげないんだからねぇっ!」
様々な種族、とは言っても、モロコ、カエル、ハヤ、そしてメダカとフナ、それらの子供たちは綺麗に声を揃えたのである。
『はーい、王様ぁ! 今日もがんばって一所懸命働いてきてねぇ!』
ナッキ王は応える、即答だ。
「はい、はーい、行って来るねぇ! じゃあ又後でねぇ!」
子供たちは上の池の餌場に向けて元気に泳ぎ去り、それを目で追っていたナッキは、以前『旅立ちの扉』と呼ばれていた水路を通って下の池の中心にある白亜の城、『メダカの城(改)』に向かう。
この水路の中は壁も床も天井も、ツルツルとした素材で出来ているのだが、石でも木でも土とも違う、何とも不思議な素材で作られていたのである。
大きなナッキが余裕で通り抜けられるその水路は、更に巨大な何者かの手による建造物なのではないだろうか、最近ここを泳ぎぬける時ナッキはそんな風に思ったりしていた。
大きいと言えば、子供の頃に聞かされて、今は子供たちに自ら語って聞かせている残忍な『ニンゲン』か、カエルとモロコに伝わる昔話の導き手、『エルフ』のペジオのどちらかではないか、ナッキは自ら立てた仮説の答えが、後者であればいい、そう思うのであった。
考えている間に城に到着したナッキをいつもと同じ顔が並んで迎えた。
今日は不定期に開催される、『美しヶ池』御前会議の日なのである。
毎日同じ事を繰り返すだけの王国には、急いで話し合わなければならない問題等全く存在しなかった為に、なんとなく、雨の日だけ開催する事になった特段意味が無い、言うなればおしゃべり会である。
出席者はギンブナのリーダーであるヒットとその妻オーリ、カエルの殿様、ゼブフォ・トノサマ二十四世と大臣のカジカ、モロコの議長と十数匹の年長のメダカ、それにナッキの、言ってみれば代わり映えしない顔ぶれであった。
ナッキは、池中で百匹以上に増えたハヤの代表として、ウグイのティガに出席を求めた事があったが、
「おいらの生き方と合っていない、譲れない物もある」
と、っぽい事を言われて煙に巻かれてしまっていたのだ。
謎の巨大化をしている事が判明してから三年足らず、その間池のメンバーに特段の変化は見られなかった。
とは言え、お互いの比率が変わっていない故、あくまでも相対的な話である。
一度、大雨の日に再訪して来たオイカワの旅団、『暁の弾丸』のリーダーピドが、池のメンバーを一瞥(いちべつ)
した後大きな悲鳴だけを残して去って行くと言う事が起こった、それ以来ピドや仲間達に会ってはいない。
外部との接触が極端に少ない池の中では正確な大きさは判らないままであったのだ。
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