次の日――。
蒼さんは昨日も普段と変わらずに帰ってきてくれた。
私が夕ご飯を準備したところで「先に寝ていいよ?」と言ってくれたので、言葉に甘えて先に休ませてもらうことにした。
正直、ドキドキして眠れなかった。
嬉しい?恥ずかしい?楽しみ?いろんなドキドキが混ざった。
蒼さんと一緒にどこかに行けることが《《嬉しい》》と感じてしまう。
「おはよう」
自分が食べた朝食を片づけていたら蒼さんが起きてきた。
「おはようございます」
どうしてこんなに意識してしまうんだろう。目線が合わせられない。
「蒼さん。もう朝食の準備、してもいいですか?」
「うん。ありがとう。顔を洗ってくる」
眠そうな顔をしながら洗面台へ向かう彼。またしっかり眠れなかったのかな。
戻ってきた蒼さんに
「桜。今日、十時くらいに出発で良い?」
と聞かれた。
「あっ、はい」
十時出発か。じゃあ、そろそろ準備しなきゃいけないな。
「俺、自分で食器とか片づけるし、何か自分のしたいこととかあったら部屋に戻っていいよ?」
ソワソワしてしまう私に気を遣ってだろうか、そんな言葉をかけてくれた。
「はいっ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて。十時にはリビングに出てきますので」
自分の部屋に戻る。
蒼さんの隣を歩くということで、昨日、自分なりにお化粧の勉強をした。
上手くできるかな。不器用だからなぁ。
十時ーー。
出かける準備が出来た。
大丈夫だろうか、鏡で何度も確認をする。
蒼さんの前に出て行くのがすごく恥ずかしい。
いや!女性に対して恋愛感情を持たない蒼さんなんだから、別になんとも感じないはず……。
まして私なんかに一ミリも興味なんてないはず!
バッグを持ち、コートを着て、出かける気満々でリビングへ向かった。
顔はたぶん真っ赤だろう。
「蒼さん、準備できました!!」
リビングにいる蒼さんの顔を真っすぐ見ることができなくて、フローリングの床に向かって半ば叫ぶような形になってしまった。
「おぉ……」
蒼さん、びっくりしている。表情を見なくても声でわかる。
なんでこんなに緊張しているんだろ、バカみたい。恥ずかしい。
固まっている私に
「桜、可愛いな。ほとんど仕事用のフォーマルっぽい服装しか見たことなかったから、なんか新鮮。ワンピース、似合っているよ。でも、なんかそのワンピース見たことあるような気がするんだよな?」
蒼さんに可愛いと言われて、お世辞だとしても嬉しかった。
「あの、このワンピース、遥さんにもらったんです。私の洋服……。仕事用以外の物は、ほとんどこの間、元彼に捨てられちゃって。遥さんに相談したら、もう着ないワンピースがあるからって、昨日いただいて……」
遥さんが着ていたワンピースなんて私に似合うわけがない。
スタイルだって違いすぎるし。やっぱりやめた方が良かったかな。
「そうだったんだ。だから見たことあるんだ、俺。ていうか、姉ちゃんより全然似合ってる。可愛い」
身体が硬直して動けないでいる私の近くに来て、頭をポンポンされた。
「遥さんより似合うなんていうことは……ないです」
言い返したが
「《《俺》》はそう思うけど?俺が思うだけじゃ足りない?」
そんなことない。慌てて首を振る。
「じゃあ、行こうか?」
コクっと頷き、二人でマンションを後にした。
「まずは、ベッドから見に行くけど良い?」
「はい」
二人で電車に乗って、ホームセンターに向かう。
電車の中は、満員とまではいかないが混んでいた。
立っていたが、掴まる手すりがなく困っていると蒼さんが
「桜、こっちにおいで?」
私の腕を引き通路の隅へ。
「俺に掴まっていいから」
そう言われた時、電車が大きく揺れた。
前に倒れそうになったが、前は蒼さんが立っていてくれるため、蒼さんに少し寄り掛かり抱き付くような感じで耐える。
他の人からは死角になるため、見られても恥ずかしくない。
「大丈夫か?」
電車なんて毎日乗っているのに。
「はい。すみません」
どうしてこんなに優しいんだろう。
電車を降りて、目的地まで歩く。
お店に入ると、新生活には必要なモノばかり並んでいた。
インテリアを見るのが好きな私は思わず
「うわぁ。楽しいです。家具とか、可愛い小物を見るのが好きなので。わくわくしちゃいます!」
本音を漏らしてしまった。
「そっか。なら良かった」
微笑んでくれる蒼さん。
そう言えば、蒼さんは変わらずかっこ良いな。
コートも似合っているし……。
ベッドコーナーを見る。
「桜、どんなのが良い?」
ベッド、たくさんあるなぁ……。シングルベッド、シングルベッド……。
探していると
「お客様、ダブルベッドをお探しですか?」
「へっ?」
店員さんが話しかけてきた。
なんでダブルベッドになるんだろう?
ん?もしかして、私たち、カップルだと思われた?
それだと、蒼さんに失礼だ。
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