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「いえ、違います!シングルベッドを探してて!!」
強めに否定する私を見て、蒼さんは笑っていた。
「申し訳ございません。えっと……。シングルベッドでしたら、このようなタイプが今人気でして……」
一通り店員さんの説明を聞いたが、ピンと来る物がなかった。
「ありがとうございます。検討します」
蒼さんがそう告げると、店員さんは私たちから離れて行った。
「桜、良いなって思ったのある?」
私が使うだけならなんでも良いと思うけど、私が居なくなった後はお客さん用に使うんだもんね。ちゃんとしたのを選ばなきゃいけないんだけど……。
「あの、あんまり……」
「そうだよな。俺もそう思った」
うーん、ネットで探してみるかと悩んでいる蒼さん。
「桜、ベッドの方が良いもんな?」
「いえ、私は布団で大丈夫なので……」
「帰って一緒にネットで見てみようか?ごめんな。ベッド、遅くなって」
私は本当にお布団で大丈夫なのに。
気を遣ってくれているんだ。申し訳ないな。
「あっ、もうこんな時間か」
蒼さんが時計を見ると十ニ時を過ぎていた。
「お昼、食べに行こう?」
「はい」
どこに行くのかな。
蒼さんについて行くと――。
「あっ、ここって、今すごく人気のパンケーキ屋さんじゃないですか!」
一人じゃ勇気がなくて来れないし、元彼は絶対に嫌だって言いそうだし、そもそも「一緒に行こう」なんて誘えなかった。
休日のため長蛇の列が出来ているが、美味しいモノが食べれると思うと苦ではない。
「やっぱり混んでるよな。ちょっと待ってて?予約してあるから、聞いてくる」
「えっ!?」
そう言って人混みを縫いながら受付へ向かう蒼さん。
蒼さん、予約してくれてたの?
ポカンとしていると、彼が手招きしているのが見えた。
「予約してあるから、もう入れるって」
すごい、普通に並んでたら一時間くらいは待つよね。
「いらっしゃいませー」
店員さんに席まで案内される。
「蒼さん、予約してくれてたんですか!?」
私が問うと
「あぁ。この間、ここがテレビで紹介されてた時に桜、無意識だと思うけど、美味しそう、行きたいなって呟いてたの聞こえて……。悩まずお昼はここにしようって思ったんだけど、良かった?」
そんなこと私、呟いてたの?
恥ずかしい。今度から気をつけないと。
「はい。来てみたいってずっと思ってたので、すごく嬉しいです。ありがとうございます」
良かったと彼は呟いた後
「何を食べる?」
メニューを一緒に見る。
どうしよう、全部美味しそう。
うーんとずっと唸っている私に
「何と何で悩んでいるの?」
「あの、この期間限定のパンケーキとテレビで紹介されてた一番人気のパンケーキで悩んでます」
期間限定ってことは今しか食べれないし……。
でもせっかくだから一番人気も気になってしまう。
「じゃあ、この二つ頼もう。俺とシェアして食べればどっちも食べれるだろ?」
「えっ、蒼さん、良いんですか!?」
「もちろん。あと、何飲む?」
「えっと、アイスティーで……」
「了解」
そう言うと、店員さんを呼び、スムーズに注文をしてくれた。
普通の男の人ってこんなことまでしてくれるの?
いや、蒼さんが特別?
元彼なんて一緒にご飯に行っても私に注文させるし、私の食べたいモノなんて聞いてもくれなかった。
「あの……。蒼さん、ありがとうございます」
お礼を伝えると
「何が?普通だろ」
そう言って笑う彼。
うわぁぁぁ!!
かっこ良い。心の中で感激してしまう。
「桜。顔赤いけど、風邪っぽいのか?」
先ほどから興奮しすぎて、顔の赤みが引かない私を心配してくれた。
「いや、あの……。嬉しいのと、ドキドキしているのと……。なんかお姫様にでもなった気分で。蒼さんが、王子様に見えます。あっ、でも王子様の相手が私なんて、とっても失礼なこと言っちゃいました。すみません」
何を勘違いしているんだろう。
蒼さんにとってこれは《《普通》》のことなのに。
どんな表情をしているか気になって蒼さんを見ると、彼も顔が赤くなっているような気が……。
「ホント、面白い子だな。桜の王子様になれて良かったよ?」
フッと笑ってくれた。
注文した飲み物とパンケーキが運ばれる。
何も言わず、蒼さんがパンケーキを半分こしてくれた。
「いただきます」
一口食べる。
「んんんー!!美味しい!」
どうやって作っているんだろう。
フワフワの生地に、甘すぎない生クリーム。
口の中がとっても幸せだ。
「美味しいですー!」
夢中で食べている私を見て
「やっと笑った」
蒼さんが呟いた。
「んんっ?」
口の中にパンケーキが入っているため、上手く返事ができない。
「今日、ずっと表情が固かったから。心配で。ちょっと笑ったと思ったら急に暗い顔になったり。無理矢理誘ったから、なんか不安でさ」
無理矢理じゃない。
私も誘われた時からずっと楽しみにしていて――。