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第五話
昼寝の邪魔
神剣くんが、一歩前に出る。
化物は、一歩後退った。
神剣くんが、さらに一歩。
化物も、さらに一歩下がる。
やっぱり……。
化物は、神剣くんに怯えているんだわ!
「昼寝の邪魔しやがって……自殺志願か?」
「そこじゃない! 神剣くん! 怒るところ、そこじゃない!」
思わず叫んでしまった。
だけど――
いつもと違う。
眠そうな表情は変わらない。
それなのに、周囲の空気だけが明らかに違っていた。
ピリピリと張り詰めた空気。
神剣くんは何も言わず、ただ真っ直ぐに化物を見つめている。
そして――
――パンッ!!
「え?」
何が起きたのか分からなかった。
「は……弾けた……?」
化物の右腕が、突然爆ぜた。
「ギィィィィィッ!!」
化物が苦痛に叫び、地面へ倒れ込む。
ノーモーション。
しかも、無詠唱……?
爆発系の呪文は扱いが難しく、複雑な術式を必要とするはずなのに。
一体、どうやって……。
「……なんや」
背後から声がした。
振り返ると、椥辻さんが苦笑いを浮かべながら、傷ついた身体を引きずるようにしてこちらへ歩いてきていた。
「これやと……どちらが化物かわからんわ」
「椥辻さん!」
私は慌てて防御壁の中へ招き入れる。
「早く、この中へ!」
「ありがとなぁ、綺。おかげで、やっと休めるわ」
「椥辻さん!?」
そのまま椥辻さんが崩れ落ちる。
「皇刃くん! 椥辻さんは!?」
「……大丈夫」
可威くんが答える。
「気絶してるだけ。御厨くんも、薬が間に合ったから大丈夫だよ」
「良かった……」
私は胸を撫で下ろした。
「ありがとう、皇刃くん」
「僕は……戦えないから……」
可威くんは俯いた。
「怖くて。殺すための武器を手にするのが怖いだけの、弱虫だよ」
「違うよ、皇刃くん」
私は首を横に振った。
「私は、皇刃くんがいるから安心して戦える」
「……」
「それに、戦場で状況を瞬時に見極めて、必要な薬を調合するなんて私にはできない」
私は可威くんを見る。
「すごいよ、皇刃くん。あなたは強いよ」
「……ありがとう、早乙女さん」
小さく笑った。
……確かに。
皇刃くんも。
椥辻さんも。
御厨くんも。
みんな、それぞれ強い。
私にはできないことができる。
みんな、すごい。
でも――
彼は。
神剣くんは……。
「……規格外すぎるでしょ!?」
思わず心の中で叫ぶ。
その間にも、神剣くんは化物を見つめていた。
「俺の安眠を妨害したんだ……」
淡々と呟く。
「楽に死ねると思うな」
次の瞬間。
――パンッ!!
またしてもノーモーション。
無詠唱。
化物の身体が弾け飛ぶ。
「ギィィィィィッ!!」
もう化物には、抵抗する気力すら残っていなかった。
ただ悲痛な叫びを上げながら、身体が次々と崩れていく。
そして――
化物は、砂の上で散り散りになって消えた。
静寂が戻る。
神剣くんは何事もなかったかのように、いつもの眠そうな顔に戻っていた。
「……ふぁ」
小さく欠伸をする。
そして――
「……寝る」
そう呟いて、何事もなかったかのように歩き出した。
コメント
1件
うわ、神剣くんまじで化物すぎる……!「昼寝の邪魔」で本気出しちゃうタイプなんだね。無詠唱・ノーモーションで右腕爆散とか、規格外すぎて笑っちゃった。でも可威くんとのやり取りで、早乙女さんの「あなたは強いよ」って言葉がすごく温かくて、戦闘シーンだけじゃない人間関係の描き方が好きだな。次も気になる!