『わたし、あなたの隣にいたい』
放課後の校門前。
もう陽は傾いていて、オレンジ色の光が地面に長い影を伸ばしている。
姫那は鞄を握りしめ、ぐっと顔を上げた。
(行こう。ちゃんと、伝えなきゃ)
胸の奥はざわついていたけど、
迷いよりも、強くなったものがあった。
──会いたい。
翔くんに、ちゃんと“自分の言葉”で気持ちを伝えたい。
•
翔の家の最寄り駅まで走って、
記憶を頼りに探し回って──
そして、見つけた。
住宅街の坂の途中。
小さな公園のベンチに、ひとり座っていた翔の背中。
肩が少し丸まっていて、
それがなんだか「さみしいよ」って語っているようで。
「……翔くん!」
翔が振り返る。
驚いたような顔。目が少しだけ赤かった。
「……なんで、ここに」
「会いに来たの。話したくて」
息がまだ整ってなくて、言葉が少し震えた。
でも、ちゃんと伝えたかった。
「わたし、ずっと迷ってた。
湊くんといると、落ち着くし、優しくて……
でもね、心が本当に動くのは──翔くんだった」
翔の目が、ほんの少し揺れた。
姫那は、喉の奥が詰まりそうになりながらも続けた。
「一緒にいると、何気ない言葉ひとつで嬉しくなったり、苦しくなったりする。
わたし、翔くんが誰かと笑ってるだけで、なんか泣きたくなったこともあって……」
そこで一瞬、言葉が途切れた。
「……きっと、それが“好き”なんだと思う」
翔はしばらく黙っていた。
でも、次の瞬間──
彼の手が、姫那の手をそっと握った。
「おせぇよ、ばか」
でも、その言葉のあとに、ふわっと笑った翔の顔は、
今までで一番あたたかくて、少し泣きそうだった。
•
ふたりで並んで座るベンチ。
少し冷たい風の中、繋がれた手があたたかかった。
姫那は初めて、自分の居場所を見つけた気がした。
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