『嬉しいのに、ちょっとだけ不安になる。──それが最初の恋でした』
付き合いはじめて、3日目。
「え、マジで? ふたりって、そーいう関係になったの?」
湊がいつもの調子で聞いてきたとき、翔はすこし照れくさそうに笑った。
「まぁ、うん。そういうこと、かな」
隣の姫那は、うつむいて、顔を真っ赤にしてた。
それがなんかもう、
かわいくて仕方なかったけど──
(こういうの、どうしたらいいんだろ)
翔は内心で、ちょっと焦っていた。
付き合うって、何をどうすればいいんだ?
今までの関係と、どう変えればいい?
──いや、変えるべきなのか?
そんなことをグルグル考えて、
結局、姫那のことを「名前で呼べてない」自分に気づく。
「……姫那」
ふいに名前を呼ばれた姫那が、びくっと肩を震わせた。
「……え? い、今……」
「うん、呼んでみた」
「……びっくり、しただけ」
「じゃ、呼んでもいい?」
姫那はちょっと考えて、
それから、ほんの少しだけ笑った。
「うん……翔くん、なら」
たったそれだけのやり取りに、心臓が跳ねた。
•
次の日。
一緒に帰る途中、手がふいに触れた。
翔はちょっとだけ勇気を出して、姫那の手をそっと包む。
「……えっ」
「嫌だった?」
「……ううん」
言葉よりも、手の温度がすべてを物語っていた。
それでも、まだぎこちない。
沈黙が続いてしまったり、どこか遠慮してしまったり。
でも、不思議と苦しくはなかった。
不器用なりに、ちゃんと相手を思おうとしてるのが、伝わってくるから。
•
夜、姫那のスマホに翔からメッセージが届く。
『今日、手つないだとき、めっちゃドキドキした笑』
姫那の指が、震えながら返信を打った。
『わたしも、ちょっと……心臓止まるかと思った』
そのあとすぐ、
『俺も!笑』
って返ってきたスタンプに、思わず声を出して笑ってしまう。
(なんだろう……なんか、こういうの、うれしい)
•
それぞれの部屋で、
お互いのメッセージを読みながら眠りにつく。
それが今の、
ふたりにとっての「いちばんの幸せ」だった。
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