テラーノベル
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「……おい。昨日より不気味なことになってるぞ」
翌朝、学園へと続く通学路で、霧島流空(きりしま るあ)が狼耳を警戒するようにピンと立て、眉をひそめた。
昨日の新庄駿(しんじょう しゅん)と女子ファンクラブ幹部との交渉により、確かに「盗撮カメラ」は一台もなく、待ち伏せして「可愛いー!」と叫んでくる女子も一人もいなかった。
しかし、その代わりに広がっていたのは、異様なほど静まり返った「無言の包囲網」だった。
通学路の両脇に並んだ女子生徒たちは、全員が微動だにせず、口を一文字に結んでいる。
だが、その手には、深夜のうちに急造されたと思われる色とりどりの「プラカード」や「うちわ」が握りしめられていた。
『はるたん、今日も生きててくれてありがとう(心の声)』
『わたるんの猫耳、今日も角度が神(無言の歓喜)』
『並んで歩かないで、尊すぎて網膜が焼ける』
『声が出せない代わりに、私たちのソウル(魂)を受け取って』
文字で埋め尽くされた無数のプラカードが、5人が進む合わせて静かに、しかし一斉に動く。
「うわぁ……。これ、声が聞こえない分、視線の圧力が昨日の5倍くらいあるんだけど……!」
石神秀兎(いしがみ しゅうと)が引きつった笑顔のまま、犬耳をペタンと寝かせて流空の背後に隠れた。
「フッ、これぞサイレント・マジョリティ(静かなる大衆)というやつだね。怪盗の美学にも通じる、洗練された静寂さ」
駿だけはウサ耳を揺らしながらキザにポーズを決めてみせるが、女子たちのプラカードが一斉に『駿、余計なポーズはいいから、はるたんとわたるんを隠すな』という文字に切り替わり、さすがに苦笑いを浮かべた。
そして、そのターゲットにされている小柄な二人はというと――。
「な、なんなんだよこれ……っ!! 誰も喋らないのに、プラカードの文字がうるさすぎる……!!」
小形遥太(こがた はるた)は顔をゆでダコのように真っ赤にし、長い萌え袖で顔をすっぽりと覆い隠していた。
恥ずかしさのあまりトイプードル耳が細かくプルプルと震えており、それを見た女子たちのプラカードが猛烈な勢いで『耳が震えた、無理、尊死、墓を建てて』『萌え袖フェイスガード可愛い(号泣)』に裏返る。無言のまま、数人の女子が静かに白目を剥いて地面に崩れ落ちていった。
「……精神的プレッシャーによる脳の処理能力が限界だ。言葉を発しない群衆から、これほどの負のエネルギー(※実際は最大級の愛)を感じるとは計算外だった……っ」
末田渉(すえだ わたる)も眼鏡の奥の目を涙目にさせ、流空の大きな制服パーカーの裾を萌え袖の先でぎゅっと掴んでいた。
恥ずかしくてたまらないため、猫耳を限界までペタンと寝かせ、猫尻尾を自分の足にきつく巻き付けている。
すると今度は、別の集団から『わたるんが流空様の服を掴んだッ!!』『主従関係の解釈が一致!!』『無言の阿鼻叫喚』というプラカードが次々と掲げられる。
「頼むから何か喋ってくれよ……っ! 『可愛い』って言われた方が、まだ言い返せるからマシだよ!!」
遥太がプラカードの波に向かって叫ぶが、女子たちは約束を頑なに守り、口元を両手で押さえて必死に悲鳴を噛み殺している。ただ、その目からは大粒の涙(尊さによる感動の涙)がボロボロとこぼれ落ちていた。
「言葉によるコミュニケーションを放棄した人間ほど、恐ろしいものは存在しないな……」
流空がため息をつき、萌え袖の手で渉と遥太の頭をまとめて引き寄せ、女子たちの視線から隠すように足早に歩き出す。
((((((((((((流空様が二人をホールドしたァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!))))))))))))
女子たちの叫び(心の声)が、目に見えるほどの凄まじいオーラとなって通学路を駆け抜ける。
声なき狂気に包まれた明鳳学園の朝。5人は昨日とは全く違うベクトルの恐怖を味わいながら、一歩一歩、命がけで校舎へと進むのだった。
コメント
1件
わあ、もう第4話なんですね!読ませていただきました。 「無言の包囲網」、めちゃくちゃ怖いけど面白かったです(笑)。声が出せない代わりにプラカードと心の声で全力で愛を伝えてくるファンの皆さんの執念が、逆にホラー映画みたいで。特に『無言の阿鼻叫喚』のプラカードには吹き出しました。 遥太くんの萌え袖で顔を隠す仕草や、渉くんが流空さんのパーカーの裾を掴むところ、一つ一つの動作にファンが過剰反応する様子が細かく描かれていて、読んでいて楽しかったです。無言のプレッシャーに耐える5人の姿に、思わず「がんばれ…!」と応援したくなりました。 次回も楽しみにしていますね🌷
新庄 駿
270
茶々丸
122