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スタジオ――
いれいすメンバーが集う録音ルームに、少しだけ緊張が走っていた。
原因は、今日の課題曲――『混沌ブギ』。
テンポも展開も複雑で、歌詞の乗せ方もひねりが効いている。
でもそれ以上に、この曲には“感情”を叩きつけるような鋭さがあった。
ないこ:「……これ、選んだの誰?」
初兎(ニヤリと):「俺だけど?」
いふ:「やっぱりお前かよ……!」
いむ:「いやでも、ぴったりじゃない? ないこ、こういうカオスな曲、めちゃくちゃハマるし」
悠佑:「叫ぶように歌うと、逆に“心”が見える曲だよね。……いい選曲」
りうら:「それで、ないこは歌えるの?」
ないこ:「……歌うよ。やるって言ったからには」
俺の声はもう震えていなかった。
少し前の俺なら、きっと躊躇っただろう。
けど今は違う。あの“闇”と向き合った俺は、もう迷わない。
ないこ:「叫びも、囁きも、全部ぶつける。――これが俺の“声”だって、ちゃんと残す」
スタジオ内に、一瞬の静寂が流れる。
それから、メンバー全員がそれぞれのブースに入った。
セッティングが完了し、スタッフが録音準備を告げる。
「いれいす ver.『混沌ブギ』、REC入ります」
*
最初に響いたのは、りうらの低く刺さる声。
次に、いむが感情をぶつけるように捻じ込んできた。
初兎の声は鋭く跳ね、悠佑のパートが曲に深みを与える。
いふがリズムに切り込むように絡み、そして――
ないこの声が響いた。
ないこ:「――混沌をぶち壊すのは、俺の役目だろ?」
シャウトのようなその声は、マイク越しにすら空気を切り裂いた。
音が、震えている。
俺の中にずっと溜まっていたものが、一音一音に混ざっていくのがわかる。
言葉じゃ伝えられなかった叫び。
声が出なかった日々の分まで、俺は今、音で叫んでいた。
ないこ(心の声):
「これは、“歌ってみた”なんかじゃない。
俺の……俺たちの、生き様だ」
*
録音が終わった直後。
スタジオは、誰も言葉を発せず、しばらくの沈黙が流れた。
やがて、いふがぼそっと呟いた。
いふ:「……これ、マジでやばい」
いむ:「原曲の暴力感超えてきてんじゃん……」
悠佑:「ないこの声、あの最後のロングトーン、ゾクってした」
初兎:「久々に、録ってる途中で鳥肌立った。音じゃなくて“痛み”みたいだった」
りうら:「これ、すぐ出そう。編集なんて最小限でいい。荒くていい。むしろそのままがいい」
ないこは、椅子にもたれながら天井を見つめる。
ないこ:「俺……ちゃんと歌えてた?」
悠佑(静かに微笑んで):「うん。――ちゃんと“生きてる声”だったよ」
その言葉に、俺はようやく、小さく息を吐いた。
ああ、やっと……ここに帰ってきたんだな、俺。
次回:「第二十六話:アップロード」へ続く